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ループス腎炎
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

ループス腎炎の概要

ループス腎炎とは、全身性エリテマトーデスという自己免疫疾患において約半数が合併する臓器病変の一つです。蛋白尿や腎機能低下が出現し、腎生検により組織診断を行います。腎病理組織によって、Ⅰ~Ⅵの組織型に分類されます。多くが進行性の腎機能低下を呈し、治療にステロイドや免疫抑制剤の使用を要します。

ループス腎炎の原因

ループス腎炎は、全身性エリテマトーデスの患者に発症します。抗ds-DNA抗体、抗ヌクレオソーム抗体が、DNAやヌクレオソームと免疫複合体を形成し、腎臓の糸球体の内皮下や上皮下、メサンギウム領域に沈着することで発症し、糸球体の機能を障害します。免疫複合体沈着による補体の活性化を介して好中球、単球、リンパ球といった炎症細胞が浸潤し、内皮細胞やメサンギウム細胞が反応性に増殖して管内細胞増多という現象がおこります。大量の免疫複合体が糸球体の基底膜と内皮細胞の間に沈着すると、ワイヤーループ病変、フィブリノイド壊死、半月体形成といった病変がみられ、腎機能低下を引き起こします。

ループス腎炎はⅠ~Ⅵ型まで6つの腎病理組織型が定義されています。Class Ⅰ(約3%)は微小メサンギウムループス腎炎、Class Ⅱ(約16%)がメサンギウム増殖性ループス腎炎、Class Ⅲ(約13%)は巣状ループス腎炎、Class Ⅳ(約52%)がびまん性ループス腎炎、Class Ⅴ(約16%)が膜性ループス腎炎、Class Ⅵ(約1%)が進行した硬化性ループス腎炎と定義されています。Class Ⅲ、Ⅳは増殖性病変で蛋白尿および腎機能障害への影響が大きく、予後は不良です。Class Ⅴは膜性病変で治療抵抗性となることが多いです。Class Ⅲ+Ⅴ、Class Ⅳ+Ⅴは特に予後不良で、Class Ⅵは既に残腎機能が廃絶している状態です。

ループス腎炎の前兆や初期症状について

ループス腎炎は全身性エリテマトーデス患者の約半数に出現します。全身性エリテマトーデスの症状はさまざまで、症状が出現するかは個人差があります。全身倦怠感、易疲労感、発熱などが先行することが多いです。皮膚症状として顔面に蝶形紅斑や円盤状ループスが出現し、日光暴露で増悪したり、凍瘡様皮疹、頭髪の脱毛、日光過敏があります。筋肉痛や関節痛も急性期に多くみられます。神経症状としてうつ状態、失見当識、妄想、痙攣や脳血管障害などがあり、中枢神経症状を呈する場合は重症とされます。心外膜炎、心筋炎などで頻脈や不整脈が起こります。肺症状として胸膜炎による胸痛や、間質性肺炎による呼吸困難、肺胞出血による血痰などが出現しえます。消化器症状として腹痛がある場合は腸間膜血管炎やループス腹膜炎の可能性もあります。貧血の結果として息切れ、眼症状として視力低下、他にもリンパ節腫脹を認めることもあります。ループス腎炎の場合、蛋白尿が出現しますが、重症例ではネフローゼ症候群となり下腿浮腫が出現します。

ループス腎炎の検査・診断

全身性エリテマトーデスの診断基準は、2019年欧州リウマチ学会/米国リウマチ学会の分類基準に従い診断します。血液検査で抗核抗体が80倍以上で、症状として発熱、血球減少、神経症状、皮膚病変、漿膜病変、関節炎、腎病変といった臨床症状に加え、抗リン脂質抗体、補体低下、抗ds-DNA抗体もしくは抗Sm抗体いずれか陽性であることの有無をスコア化し診断する必要があります。血液検査を行い、各種抗体の検査を行います。胸膜や肺など全身病変の有無を確認するためCTや超音波検査などを行います。全身性エリテマトーデスの生命予後を左右するのが腎病変であるループス腎炎です。腎病変の有無を確認するため、尿定性・尿沈渣を確認します。持続的な蛋白尿(0.5g/日もしくは尿定性3+以上)や、尿沈渣でヘモグロビンを含む細胞性円柱を認めた場合はループス腎炎を疑います。重症度、予後予測、治療方針を決定するためループス腎炎の診断には腎生検を要します。

ループス腎炎の治療

ループス腎炎は腎病理組織型によって治療方針が異なりますが、ヒドロキシクロロキンは禁忌がなければ全身性エリテマトーデスの患者には全例適応となります。Ⅰ型、Ⅱ型は蛋白尿は軽度で腎機能は正常のことが多いですが、ネフローゼ症候群を呈することもあり、尿蛋白や腎外病変の活動性に準じて治療を行います。Ⅲ型とⅣ型は腎機能が進行性に低下するためグルココルチコイドと免疫抑制剤の使用が推奨されます。Ⅴ型はネフローゼ症候群を呈することが多く、高度の蛋白尿などがあったり、慢性化病変が少なく治療効果が期待できる場合はⅢ型やⅣ型の治療に準じて治療を行います。

腎機能低下の高リスクであるⅢ型、Ⅳ型ループス腎炎では、寛解導入療法としてグルココルチコイドに加え、シクロホスファミド点滴もしくはミコフェノール酸モフェチルといった免疫抑制剤を併用して初期治療を行います。その後、経口プレドニゾロンを数か月かけて5mg以下まで減量します。他の免疫抑制剤としては、ベリムマブ、タクロリムス、ボクロスポリン、ヒドロキシクロロキンなどを病態に応じて併用します。維持療法として、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチルやベリムマブなどを選択します。腎保護のための補助治療として、レニンーアンジオテンシン系阻害薬やSGLT2阻害薬を併用したり、病態に応じてワーファリンやヘパリンの投与も追加します。治療開始1年後の尿蛋白が長期腎予後を推定するとされ、尿蛋白0.5~0.7g/日未満を目標とします。

ループス腎炎になりやすい人・予防の方法

日本人の全身性エリテマトーデス患者数は約6万人と推定され、男女比は1:9で、20~40代の女性に多く発症します。小児では男女比3:1と男児に多いとされます。65%が16歳から55歳のうちに発症し、16歳未満の発症は約20%、55歳以上の発症は約15%とされています。ループス腎炎は全身性エリテマトーデスの発症早期に出現することが多いとされます。全身性エリテマトーデス患者の約50%がループス腎炎を発症し、進行性の腎機能低下を認めるClass Ⅲ、Ⅳは60~70%を占めます。ループス腎炎の10%が末期腎不全に進行します。全身性エリテマトーデスにループス腎炎を合併した場合死亡リスクは3倍となります。全身性エリテマトーデスは多因子性の自己免疫疾患であり、免疫異常や遺伝子因子、ホルモン因子、環境因子などが誘因となると考えられていますが、予防方法は確立されていません。

参考文献

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  • 8)鎌田 和郎. ループス腎炎. 腎と透析 97巻 7号 pp. 169-174. 2024
  • 9)湯村 和子. ループス腎炎の実臨床. 腎と透析 94巻 4号 pp. 590-597. 2023

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