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糸球体腎炎
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

糸球体腎炎の概要

糸球体腎炎とは、腎臓の糸球体に炎症によって障害が起こり、血尿および蛋白尿を呈する疾患群です。急性の経過をたどるものと、慢性の経過をたどるものがあります。確定診断は腎生検で行われます。治療は原疾患により異なります。

糸球体腎炎の原因

糸球体腎炎は原疾患によりその発症スピードは様々です。急性~亜急性の場合は、急速進行性糸球体腎炎や急性糸球体腎炎といった疾患が挙げられます。慢性糸球体腎炎は臨床的には慢性腎炎症候群として分類されます。慢性腎炎症候群は、血尿、蛋白尿、高血圧を有し、緩徐に腎機能障害が進行する疾患群と定義され、原発性(一次性)と続発性(二次性)に分類されます。メサンギウム増殖性糸球体腎炎(多くがIgA腎症)、膜性腎症、膜性腎症膜性増殖性糸球体腎炎などがあります。微小変化型ネフローゼ症候群や巣状分節性糸球体硬化症などは蛋白尿が高度となればネフローゼ症候群に分類されます。遺伝性に糸球体腎炎をきたす疾患として代表的なのがアルポート症候群です。

糸球体腎炎の前兆や初期症状について

糸球体腎炎に特異的な自覚症状はありません。疾患により肉眼的血尿が出現しますが、必ずしも出現するわけではありません。蛋白尿により尿が泡立つこともあります。疾患によっては発熱や全身倦怠感といった非特異的な症状があらわれたり、腎炎が進行すると、下腿浮腫、高血圧、尿量低下、体重増加/体重減少を呈することもあります。

糸球体腎炎の検査・診断

尿定性・尿沈渣を施行すると顕微鏡的血尿が出現します。変形赤血球が出現すれば糸球体疾患による可能性が高くなります。蛋白尿も出現し、高度な場合はネフローゼ症候群を呈することもあります。血液検査では尿素窒素やクレアチニンなどで腎機能を確認します。腎炎をきたす疾患は多岐にわたるため、CRP、赤沈、補体、疾患特異的な抗体(MPO-ANCA、PR3-ANCA、抗核抗体、抗dsDNA抗体、肝炎ウイルスなど)などを計測し、原疾患を同定します。腹部超音波検査やCTで腎形態を評価します。確定診断、重症度、予後の推定といった目的のために可能な限り腎生検を行い病理組織診断を行います。

糸球体腎炎の治療

糸球体腎炎の治療は原疾患の治療に準じます。急性糸球体腎炎は特異的な治療はなく、主に支持療法を行い、自然治癒が期待できます。急速進行性糸球体腎炎は本邦では顕微鏡的多発血管炎による割合が多いですが、多くがステロイドや免疫抑制剤を使用した治療を行い、必要に応じて血漿交換療法を行います。慢性腎炎症候群で最多であるIgA腎症では重症度に応じて経過観察することもあれば、ステロイドを用いた治療や扁桃摘出術を行うものまで様々です。膜性腎症は背景に悪性腫瘍が隠れている場合があり、その場合は原疾患の治療を行います。無治療で自然軽快する場合もありますが、ネフローゼ症候群をきたした場合は腎予後不良で、ステロイドによる治療が行われます。いずれの糸球体腎炎も高血圧を呈することが多く、塩分制限(基本は食塩6g/日未満)が重要で、腎機能低下例ではタンパク質摂取制限やカリウム制限を行うことがあります。他の薬物療法として、尿蛋白の程度や高血圧の有無、腎組織所見を参考に抗血小板薬や降圧薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、カルシウム拮抗薬など)を用いることがあります。

糸球体腎炎になりやすい人・予防の方法

糸球体腎炎は原疾患により原因が異なり、確立された発症予防策はありません。アルポート症候群など遺伝性に発症する場合も一部ありますが、明らかな発症予防法はありません。感冒後に発症することがあるIgA腎症や、溶血性連鎖球菌により発症する糸球体腎炎などで、ウイルスや細菌が原因となる場合があり、標準予防策(手指消毒、洗浄)が微生物への暴露を低減する可能性はありますが、確実な予防策はありません。

参考文献

  • 1)Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Glomerular Diseases Work Group. KDIGO 2021 Clinical Practice Guideline for the Management of Glomerular Diseases. Kidney Int. 2021;100(4S):S1.
  • 2)富野 康日己:慢性糸球体腎炎. 臨床雑誌内科 114巻 1号 pp. 69-71. 2014
  • 3)Up to date:Glomerular disease: Evaluation and differential diagnosis in adults
  • 4)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業) 難治性腎障害に関する調査研究班. エビデンスに基づく 急速進行性腎炎症候群 RPGN 診療ガイドライン 2020. 東京医学社. 東京. 2020

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