

監修医師:
前田 広太郎(医師)
急性尿細管壊死の概要
急性尿細管壊死は、腎虚血(血流不足)や腎毒性物質によって腎尿細管の損傷が原因で発症する病態です。病理学的には、尿細管上皮の壊死、上皮の剥離、細胞破片や円柱による尿細管内腔の閉塞が見られます。最も一般的な原因は、低血圧などによる持続的かつ重度の虚血です。発症しやすい状態としては、手術中・術後、敗血症、その他、多種多様な腎毒性物質によっても発症します。腎虚血の感受性は個人差があり、一部の患者では、わずか数分の低血圧でも急性尿細管壊死を発症することがあります。一方で、数時間の腎虚血でも腎実質に構造的障害を起こさず、尿検査が正常かつナトリウム排泄分画が低い腎前性腎障害として経過することもあります。しかし、腎灌流が回復しない場合には急性尿細管壊死へ進行する可能性があります。
急性尿細管壊死の原因
急性尿細管壊死の原因は主に3つに分けられます。
1)腎虚血:腎前性腎不全の重症例、特に低血圧・手術・敗血症を伴う場合は急性尿細管壊死へと進展することがあります。心不全や肝硬変でも腎虚血が起こることがありますが、他の因子(出血など)が併発すると発生しやすいとされます。
2)敗血症:ショックや低還流に伴う腎虚血に加え、サイトカインや好中球の活性化により尿細管を損傷するとされます。
3)腎毒性物質:様々な薬剤や内因性物質が尿細管障害を引き起こします。抗菌薬(バンコマイシンやアミノグリコシドなど)、抗がん剤(シスプラチンなど)、抗ウイルス薬(ホスカルネット、テノホビルなど)、その他ヘム色素(ミオグロビン)、造影剤、マンニトール、など様々な薬剤が腎毒性を有するとされます。
急性尿細管壊死の前兆や初期症状について
急性尿細管壊死に特異的な症状はありません。原因となる背景から、循環血液量減少の所見がみられることがあります。頻脈、口腔乾燥、皮膚のツルゴール低下、冷感、起立性低血圧、眼球陥凹などが循環血液量減少のサインです。心不全・肝硬変の兆候として浮腫、腹水、腹部膨満などがあります。また、腹腔内圧亢進症状として、腹部手術後の腹部膨満は、腎灌流低下の原因となることがあります(腹腔内コンパートメント症候群など)。
急性尿細管壊死の検査・診断
血液検査を行い、腎機能障害の有無を確認します。急性尿細管壊死と腎前性腎不全の鑑別をする場合、尿定性や尿沈渣、ナトリウム排泄分画・尿素窒素排泄分画なども評価します。腎障害のバイオマーカーなども診断の補助として使用することがあります。診断兼治療として補液を行い反応性があるかどうか確認することもあります。他にも、尿量計測、超音波検査(腎臓、心臓、下大静脈径など)などを確認します。腎障害の原因が不明な場合、臨床的に病理検査が必要な場合は、腎生検による病理組織診断を行う場合があります。
急性尿細管壊死の治療
急性尿細管壊死の治療は、原因の除去がまず第一となります。多くの場合、腎血流低下による腎障害が出現していることから、腎血流の保持を始めとした循環動態の安定、腎機能障害による電解質や酸塩基平衡の補正といった支持療法を行います。利尿薬は原則使用しませんが、体液過剰状態の場合は投与も検討します。ドーパミン、フェノルドパム、心房性ナトリウム利尿ペプチドなどの薬剤が使用されることがありますが、有効性を示す十分なエビデンスはありません。
急性尿細管壊死になりやすい人・予防の方法
急性尿細管壊死のリスクファクターとして、慢性腎臓病で蛋白尿がある場合、重度の動脈硬化、糖尿病、進行がん、肥満、栄養不良、心不全といった基礎疾患が挙げられます。全身状態が悪い場合に発症することが多いとされ、敗血症、著明な脱水、重症膵炎、ショック、大手術(特に心臓手術、腹部大動脈瘤手術、緊急手術、再手術など)の状況では急性尿細管壊死のリスクが上昇します。入院患者の9%、集中治療室入室の50%程が急性腎障害を発症するとされ、院内の急性腎障害の65~75%は腎前性腎不全か急性尿細管壊死が原因とされます。原因が明らかに特定されている場合は予防策を講じることも可能です。例えばシスプラチンの投与や造影剤の投与前に十分な補液を行うなど、腎障害の予防策があることもあります。
参考文献
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