

監修医師:
前田 広太郎(医師)
遊走腎の概要
遊走腎(腎下垂)は、腎周囲の支持組織が脆弱なため、立った状態で腎が1.5椎体以上、もしくは5cm以上下降する状態を示します。遊走腎の8割ほどは無症状ですが、長時間の立位により側腹部痛や背部痛、悪心嘔吐といった消化器症状が増悪します。症状は横になると改善することが特徴的です。尿検査では血尿や蛋白尿がみられることがありますが、早朝尿で消失します。診断は排泄性尿路造影を行い、腎臓が下垂していることで診断します。治療は無症候性の場合は無治療でよく、症状がある場合は横になることや体重を増やすことなどで対処します。まれですが、症状が強い場合には手術による腎固定術を行います。
遊走腎の原因
遊走腎は腎周囲の支持組織が脆弱なことにより、立った状態で腎臓が下垂する病態です。右側が70%程度とされます。遊走腎に伴う臨床症状は、腎が下垂することで腎動静脈が過度に牽引され血流不全起こったり、尿管の屈曲による一過性の腎盂内圧亢進が起こることにより現れます。若年女性や瘦せ型の人に多いとされます。
遊走腎の前兆や初期症状について
ほとんどは無症候性ですが、20~30%に側腹部痛や背部痛を認めます。時に、悪心嘔吐といった消化器症状を伴うこともあります。無症候性であっても顕微鏡的血尿や蛋白尿などの尿所見に以上を認めることもあります。症状は立った状態、歩行や荷重で増悪し、臥位で消失するのが特徴的です。まれですが、腎血管性高血圧による高血圧が出現することも報告されています。長時間の立位や荷重負荷により増悪する側腹部痛や背部痛を訴える場合は遊走腎を疑って検査を行います。
遊走腎の検査・診断
診断には排泄性尿路造影を行います。立位での腎位置が臥位と比較して1.5椎体、あるいは5cm以上下降していることを確認します。また、尿定性・尿沈渣による血尿や蛋白尿の有無を確認します。尿所見の特徴としては、血尿や蛋白尿があっても早朝尿で消失または改善することです。遊走腎の多くが無症候性であることから、外科的疾患や整形外科的疾患に偶然無症候性遊走腎が合併することもあること、消耗性疾患による過度の痩せが原因で遊走腎となった可能性を考慮する必要があります。臨床症状に応じて腎臓や腎血管の超音波検査、CT、MRIといった画像検査を追加し、他疾患の可能性を除外します。腎動脈線維筋性異形成の患者64%に同側の遊走腎が併発しているという報告もあります。
遊走腎の治療
無症候性の遊走腎は治療する必要はありません。症状があっても、遊走腎の症状は多くが臥位になることで改善します。血尿や蛋白尿のみが陽性となっても、早朝尿でこれらが消失した場合は腎や尿管に器質的な障害が出現することはほとんどないとされます。加齢、体重増加や筋力強化による腎周囲支持組織の強化により、腎臓の可動域が減少することで自然軽快することが多いです。軽度の疼痛がある場合には、疼痛のメカニズムを説明し、疼痛時に臥位になるように指導します。内臓脂肪を増やす食事指導や腹筋、腰筋の筋力強化のための運動指導も行います。しかし、遊走腎の患者は食思不振といった消化器症状があることも少なくなく、運動により症状が増悪する場合があるため、難しい場合もあります。薬物療法としては屯用で使用する鎮痛剤に加え、補中益気湯といった漢方薬が有効との報告もあります。コルセットを使用することにより腎を外部から固定する対症療法もあります。著しく生活の質を低下させるような疼痛があったり、まれですが腎血管性高血圧を呈する症例では、手術療法として腎固定術を行うこともあります。腎固定術は開腹や腹腔鏡下で腎を腰筋に直接縫合したり、テープやメッシュに包んで固定する方法で、有効性は長期的な観点からも高いとされています。しかし、手術そのものが侵襲的であること、全内蔵下垂を伴う症例では腎臓のみの固定では症状が緩和されないこともあり、手術の選択は慎重に判断します。
遊走腎になりやすい人・予防の方法
遊走腎は腎周囲組織が菲薄なやせた女性の右腎によく見られます。20~40歳の若年女性に多く、男女比 5~10:1と女性に著しく多いです。体重を増やし過度の痩せを避けることで予防もしくは治療できる可能性があります。
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