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前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

特発性腎出血の概要

特発性腎出血とは、通常の泌尿器科検査を行っても原因がわからない腎からの出血の総称です。通常、除外診断で診断名がつけられます。特発性腎出血の中にはナットクラッカー現象も含まれています。特発性腎出血では尿管内視鏡で腎盂内の微小血管、乳頭血管腫、静脈瘤の破綻などが確認されることがあります。

特発性腎出血の原因

特発性腎出血の原因は不明です。腎盂内の微小血管からの出血、乳頭血管腫、静脈瘤の破綻などが原因と考えられていますが、様々な泌尿器科的検査を行っても診断がつかない場合に特発性腎出血と診断します。近年では、内視鏡デバイス技術の進歩により、内視鏡により上部尿路出血の原因が特定されるようになってきています。内視鏡で診断された上部尿路出血の原因として、血管腫が25%、微小血管破綻が12%、紅斑5%、尿路上皮癌5%、尿路結石4%,、他にも乳頭周囲静脈瘤や尿管狭窄といった所見がみられることもあります。内視鏡でも所見がない、もしくはびまん性および判定不能と診断されるのはそのうち44%程度とされます。特発性腎出血のうちナットクラッカー現象とは、左腎静脈が腹部大動脈とその腹側を走行する上腸間膜動脈の間に挟まれることにより、左腎静脈の血流がうっ滞し、腎静脈内圧が上昇することにより血尿や疼痛が出現する現象です。

特発性腎出血の前兆や初期症状について

肉眼的血尿や顕微鏡的血尿で気づかれます。ナットクラッカー現象では背部痛が出現することがあります。反復する肉眼的血尿に伴う左側の腰痛が典型的であり、まれに精巣静脈瘤(左腎静脈の狭窄により同静脈に流入する左精巣静脈の還流障害)を合併し、男性不妊の原因となります。また、高レニン性高血圧を伴うこともあります。

特発性腎出血の検査・診断

排泄性尿路造影、CT、MRI、腹部超音波検査、尿中細胞診、血管造影を行い、血尿の原因を検索します。加えて、膀胱鏡や尿管鏡検査も行います。ナットクラッカー現象の場合は、超音波カラードプラ法を施行します。狭窄部左右の腎静脈径比や、狭窄部/狭窄前部の血流速比が診断に有用です。ナッツクラッカー現象に対する超音波カラードプラの感度は69~90%で、特異度は89~100%との報告があります。腎静脈や上腸間膜動脈の解剖学的位置を確認するためにMRIやCT撮像を行うことがあります。痩せ型の思春期の児童は体位性(起立性)蛋白尿を呈することも多く、無症候性の血尿や蛋白尿を呈するため、糸球体腎炎との鑑別が難しいこともあります。

特発性腎出血の治療

内視鏡施行時に小出血が認められた場合、内視鏡的焼灼術を施行します。高周波電気焼灼術やレーザー治療で止血します。ナットクラッカー現象の場合は、側副血行路が発達していくことにより血尿が改善することから、多くは治療の必要はありません。重篤な血尿や疼痛がある場合には手術治療を行います。左腎静脈転位術が最も多く行われている術式で、長期成績も良好です。他には自家腎移植も行われることもあります。低侵襲手術として腎静脈内ステント留置術が行われることもあります。

特発性腎出血になりやすい人・予防の方法

特発性腎出血に対する予防方法は確立されていません。ナットクラッカー現象については、思春期の内臓脂肪の少ない痩せ型の小児に多く、成人ではアジア人に多いとされます。体重を増やすことで予防できる可能性はありますが、確立された予防法はありません。

参考文献

  • Rowbotham C and Anson KM. Benign lateralizing haematuria:the impact of upper tract endoscopy. BJU Int 88:841-849, 2001
  • Araki M, et al. Ureteroscopic management of chronic unilateral hematuria:a single-center experience over 22 years. PLos One 7, epub, 2012
  • 成田 伸太郎:特発性腎出血. 臨床泌尿器科 67巻 4号 pp. 215-216. 2013
  • 血尿診断ガイドライン改訂委員会:血尿診断ガイドライン2023. ライフサイエンス出版. 東京.
  • Hongkun Zhang, et al. The left renal entrapment syndrome: diagnosis and treatment. Ann Vasc Surg . 2007 Mar;21(2):198-203

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