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高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

アミロイド腎症の概要

アミロイド腎症とは、アミロイド線維と呼ばれる異常な蛋白質が腎臓に沈着し、腎臓のさまざまな働きが低下する病気です。
アミロイド線維は、一部の蛋白質が何らかの理由によって正常に折りたたまれず、異常な構造に変化してしまったものです。これまで30種類を超えるアミロイド線維が報告されています。このアミロイド線維が、身体のさまざまな組織に蓄積してしまう病気をアミロイドーシスと呼びます。このうち、腎臓にアミロイド線維が沈着すると、さまざまな腎臓の機能障害を引き起こします。
尿の中に蛋白が出現し、全身の浮腫腎機能低下を認めるようになります。多くは少しずつ病状が進行します。これまでは対症療法が治療の主体でした。しかし、近年は原因に応じた治療法も少しずつ確立されつつあります。診断自体も難しいことが多いため、早期に医療機関を受診し、適切な検査と治療を受けることが大切です。

アミロイド腎症の原因

アミロイドーシスには、大きくわけて、全身の臓器にアミロイド線維が沈着する全身性アミロイドーシス、ある臓器に限局して沈着する限局性アミロイドーシスがあります。
腎臓は全身性アミロイドーシスのなかで、アミロイドが沈着する主要な臓器です。このアミロイド線維が形成される要因はさまざまです。アミロイド腎症の原因について、以下の3つのに分けて説明します。

ALアミロイドーシス

ALとはamyloid light chainの略です。これはimmunoglobulin light chain(免疫グロブリン軽鎖)と呼ばれる蛋白がもとで作られるアミロイド線維です。このlight chain(軽鎖)からできたamyloidであることから、amyloid light chainと呼ばれ、頭文字をとってALアミロイドーシスと名付けられています。
ALアミロイドーシスは、血液の病気が原因で発症するタイプのアミロイドーシスで、その主な原因として多発性骨髄腫という病気が知られています。

AAアミロイドーシス

AAとはamyloid Aの略です。これはserum amyloid A(血清アミロイドA)から作られるためAAと呼ばれます。
関節リウマチ、炎症性の腸疾患、結核などの慢性的に炎症を引き起こす疾患が原因となります。慢性炎症に伴い肝臓から血清アミロイドAが産生されることに由来します。

ATTRアミロイドーシス

主に肝臓で産生されるトランスサイレチン(transthyretin)という蛋白がもととなり引き起こされるアミロイドーシスです。遺伝性のものと、そうでない野生型と呼ばれる二つに分類されます。

遺伝性ATTRアミロイドーシス

遺伝子変異が原因で、アミロイドーシスを発症します。

野生型ATTRアミロイドーシス

主に高齢の方にみられる全身性アミロイドーシスの一種です。遺伝子変異はなく、加齢に伴って、トランスサイレチンがアミロイド線維に変化してしまうことが原因と考えられています。

アミロイド腎症の前兆や初期症状について

アミロイド腎症は、腎臓の糸球体尿細管と言われる部分の障害により、以下のような症状が見られます。

  • 顔や足のむくみ(悪化すると全身のむくみ)
  • 体重増加
  • 息切れや呼吸苦
  • 倦怠感

腎アミロイドーシスの多くは、ネフローゼ症候群という状態を引き起こします。腎臓が障害され、尿の中に蛋白が漏れ出すと、血液中の蛋白が減少し、その結果、身体に水分がたまってしまう病態です。これにより顔や足がむくみ、体重が増加し、さらに水分がたまると胸に水がたまってしまい(胸水)倦怠感息切れ呼吸苦が出現します。
症状の進行としては緩やかなことが多いですが、個々のケースで急激な経過をたどることもあります。いずれにしても病状が進行すると、腎機能が低下してしまいます。

受診すべき診療科

症状がみられる場合、内科腎臓内科を受診しましょう。特にむくみなどの症状が強かったり、急激に進行したりする場合は、早期の腎臓内科受診が重要となります。

アミロイド腎症の検査・診断

アミロイド腎症の診断は、以下のような検査を行います。

尿検査

蛋白尿血尿など一般的な尿の異常を確認したり、血液疾患などで見られるZ異常な蛋白などがないかを確認したりします。また、尿細管が障害されたときに異常が出る項目なども調べます。

血液検査

腎機能やネフローゼ症候群、原因となる病態の評価を目的に、血液検査を行います。

腎生検

腎臓の組織を一部採取する腎生検という検査があります。これは、腎アミロイドーシスの診断において特に重要な検査です。
採取した組織を顕微鏡で詳しく調べアミロイド線維が沈着していることを確認することで、腎アミロイドーシスと診断します。また、腎臓の組織を見ることでどこがどのようにどのくらい障害されているかも確認することができます。

アミロイド腎症の治療

アミロイド腎症の治療は、進行した腎機能障害に対する一般的な腎臓病の管理と、可能であればアミロイドを減少させる根本的な治療を行います。それぞれの病態別に解説をします。

ALアミロイドーシスの治療

ALアミロイドーシスの治療の中心は、原因となる血液疾患に対する化学療法です。化学療法とは、抗がん剤を使用した治療法のことを指します。また、適応を満たす症例では自家末梢血幹細胞移植の併用も治療選択肢となります。
この自家末梢血幹細胞移植を併用する治療法は、まず、抗がん剤をたくさん投与して、血液疾患の原因となる細胞を根絶もしくは可能な限り減らしてしまいます。そして、治療開始前に採取しておいた血液のもととなる幹細胞を投与し、血液を作る能力を回復させる治療法です。
さらに、近年では次のような新しい治療薬も使用されています。

  • プロテアソーム阻害剤
  • ヒト型抗CD38モノクローナル抗体

AAアミロイドーシスの治療

AAアミロイドーシスにおいても、原因となる病気のコントロール治療が中心となります。日本で頻度の高い関節リウマチでは、以下の薬剤が炎症に伴って産生されたアミロイドを減少させることがわかっています。

  • ヒト化 抗IL-6 受容体モノクローナル抗体
  • TNF-α阻害薬

ATTRアミロイドーシス

ATTRアミロイドーシスは遺伝性と野生型で治療法が異なります

遺伝性ATTRアミロイドーシス

現在、遺伝性ATTRアミロイドーシスに対する保険適用の治療として、肝移植があります。肝移植は、アミロイドを産生する臓器である肝臓を正常な肝臓に置き換える目的で行われます。
また、肝移植のほかに、治療法として近年2つの薬剤が使用されています。

  • トランスサイレチン安定化薬
  • 低分子干渉RNA製剤

野生型ATTRアミロイドーシス

野生型ATTRアミロイドーシスの治療はこれまで有効なものがありませんでした。遺伝性ATTRアミロイドーシスで使用されるトランスサイレチン安定化薬が、野生型ATTR心アミロイドーシスで適応となりました。

アミロイド腎症になりやすい人・予防の方法

腎アミロイドーシスになりやすい方としては、原因となる病気を持っておられる方が挙げられます。また、ご家族に遺伝性ATTRがいらっしゃる場合は遺伝性ATTRを発症する可能性があります。腎アミロイドーシスになりやすい方として、具体的には次のとおりです。

  • 多発性骨髄腫などの血液疾患
  • 関節リウマチ、炎症性腸疾患、結核などの慢性炎症を来す疾患
  • 遺伝性ATTRのご家族がいる方
  • ご高齢の方

アミロイドーシスそのものを予防する方法は確立されていませんが、腎アミロイドーシスの予防法としては次のような対策が挙げられます。

  • 持病を適切に管理する
  • 定期的な尿検査や血液検査で早期発見に努める
  • 遺伝性ATTRのご家族がいる場合、早めに医療機関を受診する

腎アミロイドーシスは、進行すれば腎機能が悪化してしまいます。以前は対症療法が中心でしたが、近年では病気の原因に応じて新薬も登場しており、治療の選択肢が広がってきていますむくみなど体調の変化を感じた際には、早めに医療機関を受診するようにしましょう。

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参考文献

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