

監修医師:
前田 広太郎(医師)
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巣状分節性糸球体硬化症の概要
巣状分節性糸球体硬化症とは、腎臓の一部の糸球体(巣状)の一部分(分節)に硬化を認めるという病理学的な診断名です。一次性と二次性に分かれ、特に一次性では高度の蛋白尿と低アルブミン血症からなるネフローゼ症候群を呈します。治療はステロイドや免疫抑制剤を使用しますが、しばしば治療抵抗性であり、末期腎不全に至る可能性もある疾患です。
巣状分節性糸球体硬化症の原因
巣状分節性糸球体硬化症は、腎臓にある糸球体のポドサイト(足細胞)の異常により濾過機能に障害が起こることで発症します。腎臓が原発の一次性と、他の原因による二次性に分けられます。一次性巣状分節性糸球体硬化症の機序は不明ですが、T細胞の機能異常に伴う糸球体足細胞の障害や未知の液性因子が関与している機序が想定されています。二次性巣状分節性糸球体硬化症は、ウイルス(HIV1、パルボウイルスB19、EBウイルス、サイトメガロウイルスなど)、薬剤(ヘロイン、インターフェロン、リチウム、ビスホスフォネート、カルシニューリン阻害薬、非ステロイド性消炎鎮痛薬など)、悪性腫瘍(特にリンパ腫)、構造的・機能的適応反応(超低出生体重児、片腎、腎形成不全、膀胱逆流など)、血行動態異常(血管閉塞、肥満、チアノーゼ性先天性心疾患、鎌状赤血球など)などが原因となり発症します。腎病理所見では糸球体の50%以下に分節性の硬化病変を認めます。Columbia分類では病理学的に5つの亜型に分類されます。巣状分節性糸球体硬化症の約7割がNOS(=他に特定されない)というタイプであり、その場合末期腎不全への進行率は約20%です。最も予後不良なのはcollapsing variantという型で、末期腎不全への進行率は47%と高いです。
巣状分節性糸球体硬化症の前兆や初期症状について
一次性巣状分節性糸球体硬化症は、尿量の低下、浮腫、体重増加などが急激に出現することが典型的な症状とされます。症状は数日~数週単位で増悪します。しばしば、微小変化型ネフローゼ症候群も同様の経過をとるため、症状のみでは鑑別が困難です。一方、微小変化型ネフローゼ症候群とは違って、高血圧や顕微鏡的血尿がみられる頻度が高いです。二次性ネフローゼ症候群は一次性ネフローゼ症候群よりも症状が緩徐に進行することが多く、ネフローゼ症候群の頻度も低いことから下腿浮腫もみられにくいです。
巣状分節性糸球体硬化症の検査・診断
尿定性・尿沈渣で血尿や蛋白尿を確認します。糸球体性血尿は60~70%に認めます。血液検査では腎機能やアルブミン、コレステロール値などを確認します。尿蛋白が高度でアルブミン値が低ければネフローゼ症候群の診断となり、ネフローゼ症候群を引き起こす他疾患を検索すべく各種抗体などをスクリーニングで検査します。腎生検を行い、病理組織学的診断を行います。病理所見は一部の糸球体(巣状)の一部の部位(分節性)にしかみられないことから、採取された検体によっては、ほとんど異常所見がなく微小変化型ネフローゼ症候群と診断されてしまうこともあります。光学顕微鏡所見だけでなく電子顕微鏡による所見で足突起の消失・癒合パターンを確認することも重要です。一次性では足突起のびまん性(80%以上)が特徴的で、二次性では足突起の消失は部分的(80%未満)であることが多いです。小児の場合はネフローゼ症候群を呈しても圧倒的に微小変化型ネフローゼ症候群が多い(約80%)ことから、治療前に腎生検を行わないこともあります。ステロイド治療抵抗性の場合や、微小変化型ネフローゼ症候群以外が強く疑われるような場合に腎生検を施行します。
巣状分節性糸球体硬化症の治療
ステロイドによる治療を行います。ステロイドパルスを含めた中等量から高用量のステロイド療法を開始します。経口ステロイド療法は初回20~50%程度の奏効率です。寛解導入後はステロイドを漸減していきます。4週以上のステロイド治療にも関わらず、完全寛解もしくは尿蛋白が1g/日未満に至らない不完全寛解Ⅰ型の場合はステロイド抵抗性ありと判断し、シクロスポリンなどの免疫抑制剤を追加します。寛解後は平均6ヶ月程度ステロイドの治療が続けられています。免疫抑制剤併用によっても頻回再発やステロイド依存を引き起こす症例では、リツキシマブなど他薬剤の投与を検討します。薬剤抵抗性の場合で、血清コレステロール値が高値であればLDLアフェレーシス、単純血漿交換、二重濾過血漿交換を行うことがあります。二次性ネフローゼ症候群で原因がはっきりしていれば、原因の除去を行います。ネフローゼ症候群では血栓症を発症しやすく、肺塞栓や腎静脈血栓症の頻度は巣状分節性糸球体硬化症では14~18%程度とされ、血栓症の予防投薬を必要に応じて行います。高血圧や脂質異常症、ステロイド治療による副作用の予防については病状に応じて投薬を行います。ステロイド治療や免疫抑制療法で治療困難な場合は、降圧薬など腎保護薬を補助的に使用します。
巣状分節性糸球体硬化症の腎生存率(維持透析に至らない率)は10年で85.3%、15年で60.1%、20年で33.5%と長期的な予後は不良です。巣状分節性糸球体硬化症は約5年の観察期間で完全寛解が70%程度とされます。腎移植を行っても非常に再発が多い疾患の一つで、腎移植後の再発率は30%前後であり、一次性巣状分節性糸球体硬化症のみだと再発率はさらに高いと推測されます。
巣状分節性糸球体硬化症になりやすい人・予防の方法
一次性のネフローゼ症候群は、年間5000例程度が腎生検で診断に至っています。腎生検が施行されたネフローゼ症候群のうち、約10%が巣状分節性糸球体硬化症とされます。小児期ではさらに多く、15%程度とされています。小児期発症のネフローゼ症候群の約3割、成人期発症では約1割がポドサイト関連遺伝子異常によって発症することが知られています。予防の方法は確立されていませんが、巣状分節性糸球体硬化症でステロイド抵抗性の場合には、遺伝学的検査を行うことを考慮します。
参考文献
- 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業) 難治性腎障害に関する調査研究班:エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2020. 東京医学社. 東京. 2020
- Up to date:Focal segmental glomerulosclerosis: Clinical features and diagnosis
- Up to date:Focal segmental glomerulosclerosis: Pathogenesis




