

監修医師:
前田 広太郎(医師)
腎膿瘍の概要
腎膿瘍とは細菌感染により腎臓に膿瘍ができる病気です。主に尿路からの上行感染で起こりますが、血行性感染も起こります。尿路解剖異常を有する患者に多く、発熱や悪寒戦慄、側背部痛といった症状が出現します。血液検査では炎症反応の上昇を示し、超音波検査やCTで腎実質の膿瘍を確認します。治療は抗菌薬の投与を行いますが、膿瘍が大きい・治療抵抗性などの場合にはドレナージを行います。
腎膿瘍の原因
腎膿瘍の原因は細菌感染です。血行性感染と、尿路からの上行性感染があり、上行性感染が多くを占めます。血行性感染の原因としては、皮膚感染、口腔内感染、呼吸器感染などが挙げられます。上行性感染では尿路結石、神経因性膀胱、前立腺肥大症、膀胱尿管逆流症など尿量の停滞は排尿障害に伴う尿路感染が原因となります。特に、尿路解剖異常を有する患者に多く、約3分の2のグラム陰性菌由来の腎膿瘍が腎結石や膀胱尿管逆流を伴っているとされています。このような患者の腎臓では、過去の感染歴により慢性的な腎盂腎炎や瘢痕形成が進行していることが多いとされます。
細菌の種類は、大腸菌が51.4%、黄色ブドウ球菌が10.0%、クレブシエラ・ニューモニエが8.6%という報告もあり、感染経路によって関与する微生物の種類が異なります。
腎膿瘍の前兆や初期症状について
症状として発熱、悪寒戦慄、側背部痛、全身倦怠感、体重減少を認めます。上行感染の場合、下腹部痛は排尿時痛などの下部尿路症状を認めることもあります。肋骨脊柱角叩打痛(背中下側の肋骨近くを叩くと痛みを感じる)が陽性となることもあります。
腎膿瘍の検査・診断
血液検査で白血球やCRPの上昇を認めます。血液培養検査で細菌を認める場合もあります。上行感染においては、膿瘍中の細菌と尿培養結果が一致しますが、膿瘍と尿路に交通がなければ尿中に細菌が分離されない場合があり、特に腎周囲膿瘍をきたした場合は尿中から細菌の検出が困難となります。画像検査として、超音波検査、CT検査で膿瘍や尿管結石など、尿路系の異常の有無を確認します。造影CTでは膿瘍壁の血流増加に伴いリング状サインを認めます。MRIも診断に有用とされます。
腎膿瘍の治療
抗菌薬による治療と経皮的・外科的ドレナージが行われます。抗菌薬は原因菌をカバーできる広域抗菌薬投与が選択され、起因菌・感受性が判明すれば適切な抗菌薬に変更します。上行性感染の主な起因菌はグラム陰性桿菌ですが、血行性感染が疑われる場合は、グラム陽性球菌をターゲットとした抗菌薬も投与します。約14日間の抗菌薬投与が推奨されます。抗菌薬に反応性が乏しい場合、膿瘍が大きい場合、感染抵抗性の減弱した症例については経皮的・外科的ドレナージを検討します。腎膿瘍のドレナージ適応は膿瘍の大きさにより変わり、5cm未満だと抗菌薬単独治療で十分なことが多く、5cm以上だと経皮的ドレナージが推奨されます。ドレナージカテーテルは排液が最小になるまで(通常7日以内)留置します。3〜5cmの膿瘍では抗菌薬単独でも92%以上が改善、5cmを超える病変では、経皮的あるいは外科的ドレナージを抗菌薬と併用することで良好な予後とされています。腎周囲膿瘍では診断を兼ねてドレナージを行うことが基本とされます。腎周囲膿瘍は尿路と交通があることが少なく、尿からの菌体検出が困難な場合が多いです。膿瘍内容物が唯一の培養可能検体となります。小さな膿瘍(3cm未満)で、他の培養検体が陽性の場合や、ドレナージの必要がないと判断される場合には、抗菌薬単独で治療が可能な場合もあります。特に、膿瘍が多房性または隔壁化している場合はドレナージが困難であり、外科的介入が必要となることがあります。
腎膿瘍になりやすい人・予防の方法
高齢者、手術後、糖尿病、ステロイド投与中、抗癌剤治療中など、全身性の疾患に大して感染に対する抵抗性が下がっている人に多いです。高齢者の糖尿病患者で多いとされます。尿路異常のある人や、妊娠で尿流の停滞とホルモンの変化により感染リスクが上昇するとされます。
参考文献
- 1)松本哲朗:膿腎症,腎膿瘍,腎周囲膿瘍.泌尿器外科 21:441−446,2008
- 2)有馬公伸:腎膿瘍/腎周囲膿瘍.臨床泌尿器科 71巻4号:pp.177-178,2017
- 3)Up to date:Renal and perinephric abscess




