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淋菌感染症
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
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皮膚科
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眼科(角膜外来)

淋菌感染症の概要

淋菌感染症は、淋菌という細菌による性感染症です。この細菌は、人の粘膜(尿道・膣・のど・肛門・目など)に感染し、炎症を引き起こします。主に、男性が感染すると尿道炎として、女性が感染すると子宮頸管炎として発症します。 感染者数は年々増加傾向にあります。性活動が活発である20歳代の年齢層に最も多く、男性の報告数が多いことが特徴です。この背景には、女性は感染しても自覚症状に乏しく、受診の機会が少ないことが要因のひとつとされています。無自覚のうちにパートナーに感染を広げてしまう可能性があるため、リスクのある行為をした場合には早期に検査を行い、治療を開始することが重要です。

淋菌感染症の原因

淋菌感染症の病原体は、淋菌という細菌です。主な感染経路は以下のとおりです。
  • 性行為(膣性交・肛門性交・オーラルセックス)
  • 母子感染
  • 手指や器具を介した感染

上記の原因について、一つひとつみていきましょう。  

性行為(膣性交・肛門性交・オーラルセックス)

性行為やオーラルセックスなどの性交類似行為にて、感染者と直接的な接触をし、粘膜を通して感染します。  

母子感染

妊婦が感染していると、出産時に母親から新生児に感染し、淋菌性結膜炎や関節炎を引き起こすことがあります。  

手指や器具を介した感染

手指や器具を介して粘膜に感染する可能性もあります。しかし、淋菌は粘膜を離れると数時間で感染性を失い、熱や消毒で死滅するため、感染する可能性は低いとされています。

淋菌感染症の前兆や初期症状について

淋菌感染症の症状や、症状の重さは性別や感染部位によって異なります。 男性が感染した場合は泌尿器科を、女性が感染した場合は婦人科を受診しましょう。  

男性生殖器淋菌感染症

感染後2〜7日で、主に尿道炎として発症します。尿道炎の初期症状は以下のとおりです。
  • 排尿時の痛み
  • 尿道から膿の分泌(白~黄緑色)
  • 頻用や排尿困難
  • 尿道のかゆみや違和感
  • 陰茎の先端(尿道口)の赤みや腫れ

感染が進行すると炎症が進み、前立腺炎や精巣上体炎を発症します。これらの症状を治療せずに放置していると、不妊症の原因になる可能性があります。 疑わしい症状がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。  

女性生殖器淋菌感染症

感染後1〜3週間で、主に子宮頸管炎として発症します。子宮頸管炎の初期症状には以下のようなものがあります。
  • おりものの異常(量や色の変化)
  • 排尿時の痛み
  • 頻尿や排尿困難
  • 下腹部の不快感や痛み
  • 不正出血

感染が進行すると上行性に炎症が進み、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎などの骨盤内炎症性疾患を引き起こします。これらの疾患を発症した場合、発熱や腹痛を生じることがあります。

またこれらが原因となって、卵管不妊症や、異所性妊娠(子宮外妊娠)などの不妊症の原因となる病気を引き起こすこともあります。

女性の場合、男性と比較して症状が出にくいことが多いようです。 症状が出ていなくても、パートナーの感染が発覚した場合など、感染した可能性のある行為をとったときには、速やかに医療機関を受診しましょう。  

淋菌性咽頭感染

オーラルセックスの増加により、淋菌感染症の10〜30%に、咽頭からも淋菌が検出されています。感染していても、喉の軽い痛みや違和感程度で症状が乏しいか、無症状であることが多いようです。  

淋菌性直腸感染

男性同性間性的接触者や、女性でみられます。肛門の痒みや嫌み、肛門性交痛、下痢、排便時の不快感や出血などが認められます。多くの場合、無症状であることが多いようです。  

淋菌性結膜炎

淋菌性結膜炎は、新生児に最も多くみられます。成人が感染した場合、まれではありますが化膿性結膜炎を引き起こします。通常は片側性で発症します。 症状としては、眼瞼浮腫、結膜浮腫、膿状の滲出物がみられます。感染後、1〜2日で発症するとされています。

淋菌感染症の検査・診断

淋菌感染症の検査では、尿や粘膜を調べて淋菌がいるかどうかを確認します。 検体は、男性の場合は初尿や尿道分泌物を使用します。女性の場合は子宮頸管をスワブという綿棒でぬぐっておりものを採取します。咽頭感染が疑われる場合は、咽頭をスワブでぬぐって採取した粘液や、うがい液を検体として使用します。 主な検査方法には以下の方法が用いられます。
  • 核酸増幅法
  • 分離・培養法
  • 検鏡法

これらの検査方法について、一つひとつみていきましょう。  

核酸増幅法

淋菌の遺伝子を、専用の薬物を用いて増幅させ検出する方法です。PCR法のほか、SDA法、TMA法などがあります。ほかの病原体との同時検出も可能です。

分離・培養法

淋菌を人工的に分離・培養して確定診断を行う方法です。特に、抗菌薬が効かない場合に行い、薬剤の効き目を確認します。

検鏡法

検鏡法では、採取した検体を顕微鏡で観察して、淋菌の有無を調べます。迅速な診断が可能な検査で、男性の尿道炎に対して有用です。なお、女性では感度が低いため推奨されていません。

淋菌に感染している場合、約30%の確率でクラミジアにも同時感染しています。そのため、検査の際にはクラミジア感染症の検査も同時に行うことが多いようです。

検査結果がでるには数日〜1週間ほどかかるため、明らかな症状が出ている場合は、検査結果が出る前に治療を開始することもあります。

淋菌感染症の治療

淋菌感染症と診断された場合には、抗菌薬による治療が開始されます。 感染している部位により、使用する薬剤や期間は異なります。 近年、淋菌の薬剤耐性化が世界的に問題視されています。薬剤耐性化とは、細菌に対して薬剤が効きにくくなることです。 そのため、治療後に再検査を受け、完全に治癒したか確認することが重要です。 現在、治療に有効とされている薬剤は、セフトリアキソンとスペクチノマイシンです。

また、患者さんのパートナーが感染していた場合、未治療であると再感染のリスクがあります。感染が判明したら、パートナーも早期に検査して適切な治療を受けることが重要です。

淋菌感染症になりやすい人・予防の方法

本章では、淋菌感染症になりやすい方の特徴と、予防方法について解説します。  

淋菌感染症になりやすい方

淋菌感染症に感染するリスクが高いとされているのは、以下の方です。
  • コンドームを使用せずに性行為を行う方
  • 性交渉の相手が不特定多数いる方
  • 淋菌感染症の既往歴がある方
  • ほかの性感染症(クラミジア・梅毒など)にかかっている方
 

淋菌感染症を予防する方法

淋菌感染症は適切な予防策をとることで、感染リスクを大幅に減らすことができます。予防のためには、以下の点に注意するとよいでしょう。

コンドームを正しく使用する(膣・肛門・口腔性交すべてにおいて) 感染が判明したら適切に治療を受け、完治したことを確認する   

コンドームを正しく使用する(膣・肛門・口腔性交すべてにおいて)

性行為をする際には、コンドームの正しい使用方法を確認して装着しましょう。ただし、コンドームの使用により感染のリスクは下がりますが、100%予防できるわけではありません。コンドーム使用の有無に関わらず、気になる症状がある際にはその都度検査を受けましょう。   

感染が判明したら適切に治療を受け、完治したことを確認する

感染後、治療が不完全であると再感染やパートナーへの感染リスクがあります。感染が判明した場合は適切に治療を受けて、完治したことを確認しましょう。  

これらの予防策は、淋菌感染症だけでなく、ほかの性感染症予防にも有効です。

関連する病気

  • 子宮頸管炎
  • 骨盤内炎症性疾患

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