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糖尿病性腎症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

糖尿病性腎症の概要

糖尿病性腎症とは、糖尿病によって腎臓が徐々に傷つき、最終的に腎不全へと進行する恐れのある合併症です。腎臓には糸球体(しきゅうたい)という血液をろ過して尿を作る仕組みがありますが、高血糖が続くと酸化ストレスや炎症が起こり、糸球体の細胞がダメージを受けます。壊れた糸球体の代わりに残った部分が過剰に働くことで血圧が上がり、さらに障害が進む悪循環が生まれます。その結果、腎臓全体の働きが低下していきます。

初期の段階では自覚症状がほとんどなく、検査でしか発見できません。進行すると足のむくみや胸・腹への水の貯留、吐き気や食欲低下、さらに赤血球を作るホルモンが減ることで貧血も見られます。最終的には透析が必要となる場合もあります。診断には尿や血液検査が用いられ、特に尿中のアルブミンやタンパクが重要となります。

治療の中心は血糖コントロールです。食事療法や薬物療法に加え、血圧管理、脂質異常の改善、禁煙などの生活習慣の見直しも重要です。日本では2型糖尿病の増加とともに患者数も増えてきましたが、2010年以降は減少傾向が報告されています。それでも2型糖尿病患者の4割以上が腎症を発症しているとされ、血糖を良好に保つことが最大の予防策となります。

糖尿病性腎症の原因

腎臓の中には糸球体(しきゅうたい)という、血液をろ過して尿を作る小さな網のような構造があります。高血糖が続くと、糸球体は様々な影響を受けて傷んでいきます。

まず、高血糖の影響があります。血糖が高い状態は、細胞の働きを乱し「酸化ストレス」という細胞を傷つける反応を起こします。これにより糸球体の細胞がダメージを受けます。

次に、壊れた糸球体の代わりに残っている糸球体が余分に働こうとすることも影響します。すると糸球体の中の血圧が上がり、高血圧の状態が続きます。この負担がさらに糸球体を傷つける悪循環を生みます。

また、高血糖や酸化ストレスはサイトカインという炎症を起こす物質を増やします。これによる炎症反応も糸球体を傷害する原因となります。

このような変化が積み重なり、糸球体の組織は硬くなってろ過の働きを失い、次第に腎臓の働き全体が低下していきます。

糖尿病性腎症の前兆や初期症状について

糖尿病性腎症は、初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。早期に発見するには検査が必要です。進行すると溢水(いっすい)症状、消化器症状、貧血などが現れます。溢水(いっすい)症状は全身に水がうっ滞することによる症状です。足が浮腫み、胸やお腹に水がたまることもあります。消化器症状としては吐き気や食欲不振などが見られます。また、腎臓は赤血球を作るホルモンを出しているため、その働きが低下すると貧血が起こります。自覚症状が出たときには、すでに病気が進んでいることが多いため、定期的な検査で早期発見することがとても大切です。

糖尿病性腎症の検査・診断

糖尿病性腎症の診断は、症状に加えて尿検査や血液検査で腎機能を調べることで行われます。特に尿に含まれるタンパク質やアルブミンが重要な手がかりになります。

病気の進行度は次のように分類されます。

  • 第1期:尿にタンパクは出ないが、腎機能が少し落ちていることがある。
  • 第2期(早期腎症期):尿に微量のアルブミンが出る。尿検査を3回行ったうち2回以上、30〜299mg/mgCrのアルブミンが検出される。
  • 第3期(顕性腎症期):尿中アルブミンが300mg/mgCrを超える。またはタンパク尿が持続的に陽性となる。
  • 第4期(腎不全期):腎機能が著しく低下。透析を検討する段階。
  • 第5期(透析療法期):腎機能が失われ、透析が必要になる。

糖尿病の合併症には網膜症や神経障害もあります。腎機能障害が見られてもこれらの糖尿病合併症が見られない場合には他の病気が原因の腎機能障害かどうかを調べるため、腎生検が行われることもあります。

糖尿病性腎症の治療

糖尿病性腎症の治療の中心は進行を遅らせることです。一度壊れた腎臓の機能は元には戻らないため、早期からの治療が大切です。

治療は血糖コントロールが最も重要となります。食事療法や薬、インスリン注射などで血糖をできるだけ正常に近づけます。

その他に、血圧管理や生活習慣の改善を行います。高血圧を合併している場合は降圧薬を用い、130/80mmHg未満を目標とします。生活習慣の改善としては、脂質のコントロール、禁煙を行います。

また、近年に登場したSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬は糖尿病性腎症の進展予防のために使われることがあります。

糖尿病性腎症になりやすい人・予防の方法

糖尿病性腎症は糖尿病の人に起こる病気です。その中でも糖尿病性腎症の家族歴がある方、特に透析の家族歴がある方には起こしやすいと言われています。2型糖尿病の増加とともに患者数も増えてきましたが、2010年以降は減少傾向にあると報告されています。日本で行われた調査では、2型糖尿病の患者さんのうち32%が第2期(早期腎症)、7%が第3期(顕性腎症)、2.6%が第4期(腎不全)にあたり、全体として40%以上の人が腎症を発症していると考えられています。

予防のポイントは血糖値並びに血圧を良好にコントロールすることです。高血糖を放置すると腎臓が徐々に傷んでしまうため、日常的に血糖値を管理することが最も大切です。

参考文献

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