

監修医師:
前田 広太郎(医師)
膀胱頸部硬化症の概要
膀胱頸部硬化症は、膀胱の出口(膀胱頸部)が狭くなってしまい、尿の流れに障害を起こす状態を指します。この狭窄は、先天的な構造異常や、手術・炎症などの後天的な原因によって起こり、特に前立腺肥大症に対する手術や神経障害と関係が深いです。男性に多く見られる疾患で、排尿に関する様々な問題(頻尿、尿勢低下、尿意切迫など)を引き起こすことがあります。自覚症状が少ないこともあり、知らないうちに排尿障害が進行することがあります。症状が軽度の場合は経過観察となることもありますが、薬物治療や外科的治療が必要となることもあります。術後に再狭窄や尿失禁をきたすこともある疾患です。
膀胱頸部硬化症の原因
膀胱頸部の狭窄には、大きく分けて「器質的(構造的)原因」と「機能的原因」があります。
器質的原因としては、先天性狭窄(生まれつき膀胱頸部が狭い)、前立腺手術後の瘢痕形成(特に前立腺肥大症の治療後や、前立腺癌に対する前立腺全摘術の後)、慢性前立腺炎による線維化、排尿筋の肥大(排尿に負担がかかり続けることで筋肉が厚くなる)といったものが挙げられます。前立腺体積が小さいこと、経尿道的治療で膀胱頸部への過剰な切除や凝固がリスクファクターとされます。
機能的原因として、神経因性膀胱(脳や脊髄などの神経障害により排尿がうまくできなくなる)、膀胱頸部協調不全(膀胱と尿道の筋肉の動きがうまく連携しない)、精神的・薬物的要因(ストレスや薬剤が原因になることも)、といったものが挙げられます。これらの原因は単独ではなく、しばしば組み合わさって発症します。加齢とともに前立腺肥大症と合併しやすくなるのも特徴です。
膀胱頸部硬化症の前兆や初期症状について
膀胱頸部硬化症は排尿のトラブルとして現れますが、症状は個人差が大きく、無症状のまま経過することもあります。よく見られる症状としては、排尿困難(尿が出にくい、開始までに時間がかかる)、尿勢低下(尿の勢いが弱い)、終末時滴下(排尿後に尿がポタポタ残る)、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感といった症状があります。ただし、特に生まれつきの機能的な狭窄がある場合、尿の勢いが弱い状態が「当たり前」となっているため、異常と気づかれにくいこともあります。
膀胱頸部硬化症の検査・診断
膀胱頸部硬化症の診断は、症状だけでなく、いくつかの検査を組み合わせて行われます。まず、問診を行い、男性では前立腺肥大の有無を直腸診で確認します。超音波検査では、膀胱壁の肥厚や残尿の有無を調べ、前立腺の状態も評価可能です。内視鏡検査(膀胱鏡)では、 膀胱頸部や尿道の構造を直接確認し特徴的な所見が見られる場合もあります。排尿時膀胱尿道造影(VCUG) では、排尿中に造影剤で膀胱頸部の狭さを評価します。通常、膀胱頸部径が0.6cm未満であれば膀胱頸部硬化症を疑います。尿流動態検査(ウロダイナミクス)では、膀胱や尿道の圧力を測定し、排尿するための筋肉の活動と尿の流れを評価します。特にビデオ併用での測定が効果的とされます。これらの検査で、膀胱頸部の構造的な問題か、神経的・機能的な問題かを見極めます。
膀胱頸部硬化症の治療
治療は症状の程度と原因によって異なります。無症状または症状が軽い場合は、定期的な観察のみで十分なこともあり、経過観察となることもあります。内科的治療薬物療法としては、α遮断薬などを用いて膀胱頸部の緊張を和らげる治療があります。外科的治療としては内視鏡的切開術(TUIBN)があり、尿道鏡を用いて膀胱頸部を切開し広げる手術です。前立腺手術との併用もあり、前立腺肥大を伴う場合、同時に処置を行うこともあります。術後に注意すべき合併症は、尿道出血や会陰部の血腫、偽尿道、尿路感染症や敗血症です。一部の患者では、機能的狭窄が長期間続いた結果、器質的変化(瘢痕や肥大)が加わり、より積極的な治療が必要になることもあります。膀胱頸部硬化症において再狭窄が起こった場合は再度内尿道切開術を行うこともあります。施設によって基準が異なりますが、2 回から3 回程度再狭窄を認めた場合は開放手術による再建術を行うこともあります。また、膀胱頸部硬化症の患者は先行する手術(経尿道的前立腺手術や前立腺摘除術)によって膀胱頸部の括約筋機能がすでに失われていることが多く、術後に尿失禁のリスクが高くなることに注意が必要です。重度の尿失禁が発生した場合、少なくとも半年間は再狭窄がないことを確認してから、人工尿道括約筋埋込術を考慮します。人工尿道括約筋埋込術後に再狭窄を起こし経尿道的治療を行うと、尿道びらん(粘膜が損傷する)の高リスクとなるためです。
膀胱頸部硬化症になりやすい人・予防の方法
膀胱頸部硬化症は、発症しやすい人は、男性(特に中年以降)、前立腺手術の既往がある、脊髄損傷や神経疾患がある、慢性前立腺炎を繰り返す、といった人にみられることが多いです。男性の20%にみられるという報告がありますが、前立腺肥大症と誤診されている例が多数あるとされ、正確な有病率は不明です。喫煙、肥満、手術の際の縫合不全などが膀胱頸部硬化症のリスクファクターになるとされます。経尿道的前立腺切除術(TURP)後に膀胱頸部硬化症(膀胱頸部狭窄)は約2.8%の患者に発生したとする報告もあります。確立された予防法はありませんが、排尿障害を感じたら早めに泌尿器科を受診する、前立腺疾患の適切な治療と管理を行う、神経障害のある人は定期的な泌尿器評価を受ける、といった点が早期発見に重要です。
参考文献
- 1)龍宮 克尚:膀胱頸部硬化症の鑑別. 臨床泌尿器科 57巻 4号 pp. 73-77. 2003
- 2)新地 祐介:尿道狭窄内視鏡手術:尿道狭窄症,膀胱頸部硬化症,膀胱尿道吻合部狭窄. 臨床泌尿器科 77巻 4号 pp. 188-191. 2023
- 3)堀口 明男:尿道狭窄症・膀胱頸部硬化症に対する内尿道切開. 臨床泌尿器科 72巻 4号 pp. 217-221. 2018
- 4)C Herrando, et al. Bladder neck sclerosis after transurethral resection of the prostate. "Study Group of the Puigvert Foundation". Actas Urol Esp . 1994 Feb;18(2):85-9.




