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尿管異所開口
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

尿管異所性開口の概要

尿管異所性開口とは、本来であれば腎臓から膀胱の決まった位置(膀胱三角部)に繋がっているはずの尿管の出口(開口部)が、別の場所に誤って繋がってしまう先天性の病気です。これは妊娠4〜8週の胎児の発育中に尿管芽と呼ばれる部分の異常によって起こります。尿の出口が正常でない位置にあるため、特に女の子では尿失禁(尿が漏れてしまう)が起こることがあります。その他にも、繰り返す尿路感染症や、まれに尿が詰まる(尿路閉塞)ことで気づかれることもあります。最近では、出生前の超音波検査でこの異常が見つかるケースも増えています。尿管異所性開口は「先天性腎・尿路奇形(CAKUT)」の一つに分類され、他の腎臓や尿管の異常と一緒に見つかることも珍しくありません。症状がなければ経過観察することもありますが、多くは手術で治療されます。

尿管異所性開口の原因

尿管は通常、腎臓の腎盂という部分から出て、膀胱の三角部に繋がって尿を流します。しかし、胎児の発育中に尿管芽が異常な位置から発生すると、尿管の出口も異常な場所にできてしまいます。尿管芽が頭側から発生すると膀胱より下に、尾側から発生するとより上に開口する傾向があります。女児の80%以上は尿管が2本ある「重複尿管(重複腎盂尿管)」を合併しやすく、男児では約75%が単一の尿管で開口位置だけが異常です。全体の70〜80%は重複腎盂尿管で、そのうち20%近くが左右両方に異常が見られます。開口する場所も性別で異なります。男児では膀胱頸部や前立腺、精嚢、射精管などに開口することが多く、最も多いのは後部尿道(約50%)。女児では膀胱頸部や尿道、膣前庭部、膣、子宮などに開口するケースがあります。このような異常では、尿管が短くなって膀胱に逆流しやすくなったり(膀胱尿管逆流)、膀胱三角部の筋肉の未発達による排尿トラブルを引き起こすことがあります。また、Thom分類という6つのタイプに分けられ、日本では片側のみの異所性開口(I型)が多く見られます。合併しやすい異常には、腎臓の形成不全(低形成腎・異形成腎)や、停留精巣、尿道下裂、総排泄腔異常などの泌尿生殖器の異常があります。さらに、肛門や直腸の奇形、先天性心疾患、難聴、脊髄障害など他の器官に異常があることもあります。特に注意が必要なのは「OHVIRA症候群(閉塞性片側膣と同側腎異形成症候群)」と呼ばれるもので、思春期に腟閉塞と異所性尿管による症状が出ることがあります。外見上は腎臓がないように見えても、異形成腎が隠れていて、治療後に尿が排出されることで気づかれる場合があります。

尿管異所性開口の前兆や初期症状について

乳幼児期には、定期健診で水腎(水がたまった腎臓)や形成不全腎が見つかり、精密検査で診断されることが多いです。年長の女の子では「尿失禁」が主な症状として受診することが多く、「常に下着が濡れている」「座ると漏れる」「パッドが手放せない」といった形で現れます。男児の場合、尿道括約筋(尿を我慢する筋肉)が尿管開口部よりも体の外にあるため、通常は尿失禁の症状は見られません。代わりに、発熱や腰の痛み、頻尿などの尿路感染症の症状がきっかけで診断されることがあります。精管や精嚢に開口している場合、副睾丸炎や精巣上体炎として発症することもあります。

尿管異所性開口の検査・診断

尿管異所性開口は出生前超音波検査で発見されることもあります。出生後は、尿失禁が主訴の場合、外陰部の視診を行います。尿の流出が会陰部か膣前庭部、もしくは膣口から出ていることが確認できることも多いです。超音波検査で腎の形態を確認し、片側性か両側性か、水腎や水尿管があるかどうかを確認します。排尿時膀胱尿道造影、CTやMRI、膀胱鏡、逆行性腎盂造影などを行い、異所性開口の部位がどこにあるか特定します。しかし、異所性開口部位の同定が困難な場合も少なくなく、インジゴカルミンの静注や膣造影検査を行うこともあります。

尿管異所性開口の治療

治療は、年齢や症状、異所性開口の部位や重複腎盂尿管や膀胱尿管逆流、尿管狭窄といった合併症の有無、腎機能がどのくらい残されているかで異なります。異所性開口がある側の腎臓の機能に問題がなく、膀胱尿管逆流や通過障害の症状がなければ無治療で経過観察することも可能とされます。しかし、一般には手術が必要になることが多いです。腎機能が残っていれば尿路の再建術を行い、腎機能が残っていなければ摘除術を行うのが基本です。術式は腎摘除(腎臓を取り除く)、腎尿管摘除(腎臓と尿管を摘除)、膀胱尿管新吻合・尿管尿管吻合・尿管腎盂吻合といった尿路再建術などさまざまです。

小児における異所性尿管の手術予後は非常に良好で、尿失禁の改善や尿路感染の減少が多くの症例でみられます。治療成績がやや劣る傾向があるのは、 膀胱出口閉塞を伴う場合、両側性の単一系の異所性尿管の場合では排尿機能障害や膀胱容量不足が問題となり、尿を我慢することが難しくなる場合があり、膀胱拡大術を施行することもあります。

尿管異所性開口になりやすい人・予防の方法

欧米の報告では、男女比は1:2~3程度と女児に多いとされ、女児が8~9倍とする報告もあります。胎児の時の発生異常のため、予防の方法はありません。出生前超音波検査で早期に発見される場合が増えています。

参考文献

  • 1)鯉川 弥須宏:異所開口. 臨床泌尿器科 67巻 4号 pp. 86-87. 2013
  • 2)森義則:小児異所開口尿管54例 の臨床的検討. 日泌尿会誌, 92巻, 3号, 2001年: 470~473
  • 3)Chowdhary SK, Lander A, Parashar K, Corkery JJ. Single-system ectopic ureter: a 15-year review. Pediatr Surg Int 2001; 17:638.
  • 4)Up to date:Ectopic ureter

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