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前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

膀胱損傷の概要

膀胱損傷は膀胱外傷性損傷と医原性損傷に大別されます。外傷性では交通外傷が最も多く、骨盤骨折を伴うことが多いほか、別の臓器損傷や尿道損傷も併発している場合が多いです。医原性損傷は産婦人科手術中や、膀胱内手技、経尿道的膀胱腫瘍切除術で発生することが多いです。

初期症状は肉眼的血尿が最も一般的で、加えて腹部・骨盤部の痛みや排尿困難などを伴うことがあります。外傷の評価にはCT膀胱造影や逆行性膀胱造影が用いられ、膀胱内破裂か外破裂かを判断することで、治療方針が決まります。

腹膜外破裂であれば保存的治療が可能な場合が多い一方、腹膜内破裂では腹膜炎や敗血症のリスクが高く、原則として外科的縫合修復が必要です。

原因の約7割は交通外傷です。軽微な腹部外傷でも臓器損傷を伴う可能性があるため、事故後に症状がある場合は早めの医療機関受診が重要です。 医原性のものは産婦人科・泌尿器科系の手技が原因となることが多いです。子宮摘出術や癒着胎盤合併妊娠での帝王切開、膀胱癌に対する経尿道的膀胱腫瘍切除術で比較的リスクが高いです。

膀胱損傷の原因

膀胱損傷は、膀胱壁に外力が加わることで発生する外傷性疾患で、大きく分けて外傷性損傷と医原性損傷の2つに分類されます。

外傷性損傷の原因として最も多いのは交通外傷です。交通外傷に伴って膀胱を損傷した際には、骨盤を骨折している場合が多く、他の腹腔内臓器の損傷や尿道損傷が問題となることも多いです (参考文献 1) 。 医原性損傷は手術中に損傷する場合と膀胱内手技中に損傷する場合があります。外科手術中の膀胱損傷は産婦人科手術中に起きるものが多く、膀胱内手技では膀胱内のカテーテル治療 (経尿道的膀胱腫瘍切除術;TURBT) 中の損傷が比較的多いです (参考文献 1) 。

膀胱損傷の前兆や初期症状について

膀胱損傷の初期症状で最も重要なのは血尿です。特に目で見て分かるほどの血尿 (肉眼的血尿) は膀胱損傷を疑うサインです。 膀胱損傷をきたすような外傷では、骨盤骨折、他の尿路系の外傷、肝臓や脾臓などの腹腔内臓器の損傷を合併しやすいです。膀胱損傷の症状ではないですが、交通外傷後の腹部・骨盤部の強い痛みは、膀胱損傷を含めた外傷性疾患を疑うサインになります。

車にはねられた等の交通事故の際には、全身の状態の評価が必要です。お腹の中は出血や臓器損傷が目で見ただけでは分かりにくく、時間がたって出血量が多くなってきた後に急に状態が悪くなることもあります。 交通事故当事者になった際には、必ず救急車を呼んでください。

膀胱損傷の検査・診断

膀胱損傷が疑われる場合は、まず外傷歴と血尿の有無の確認が重要です。その上で、画像検査による評価が必要となります。

CT膀胱造影や逆行性膀胱造影では。造影剤を用いて膀胱外に尿が漏れ出ていないかを確認します。これにより、損傷の有無だけでなく、膀胱内破裂か膀胱外破裂かを評価します。 画像検査では他の臓器や骨格の損傷も併せて評価し、全身の状態を評価します。

膀胱損傷の治療

膀胱損傷の治療は、破裂した膀胱内部が腹腔内と通じているか否かによって、方針が異なります。

  • 腹膜外膀胱破裂
  • 腹膜外膀胱破裂では保存的治療が基本ですが、膀胱内に異物が存在する場合や、他の臓器が損傷している場合、骨盤骨折を手術で修復する場合には、損傷のした膀胱を手術で治しにいきます (参考文献 1) 。

  • 腹膜内膀胱破裂
  • 腹腔内への尿漏れを伴う破裂では、腹膜炎や敗血症、尿毒症を引き起こすリスクがあるため、外科的修復が原則です (参考文献 1) 。膀胱壁を縫合し、その後は一定期間カテーテルを留置し、状態が落ち着いたらカテーテルを抜去します。

膀胱損傷になりやすい人・予防の方法

先述のとおり、膀胱外傷の原因の多くは交通外傷で、膀胱損傷の原因全体の7割以上を占めます (参考文献 1) 。

医原性の膀胱損傷は産婦人科系。泌尿器系の手術・カテーテル治療中に多いです。

膀胱は子宮のすぐ前に位置しているので、子宮に触れるような手術をする場合には損傷リスクが高くなります。子宮摘出術中に膀胱を損傷することが多いですが、子宮筋腫に対する手術などで腫瘍のみ摘出する場合でも、子宮と膀胱の境目が腫瘍で分かりにくくなっているような場合があり、膀胱を損傷することがあります。 産科でも帝王切開の際に膀胱を損傷することがあります。特に癒着胎盤がある場合にはリスクが高く、12%程度で膀胱を損傷するとされています (参考文献 1) 。 早期の膀胱癌に対して近年行われることの多い経尿道的膀胱腫瘍切除 (TURBT) は、膀胱の内腔にある腫瘍と周辺の組織をカテーテルで削り取るような治療法です。この手技中に膀胱の壁が破裂してしまうことがあり、医原性の膀胱損傷の主な原因になっています (参考文献 1) 。

一般の方ができる予防法は特にありません。 自転車で転んで軽くお腹を打った程度の外傷でも、詳しく検査すると内臓が傷ついている場合があります。乗り物に関連する事故の跡は、たとえ最初は軽い外傷だと思っていたとしても、気になる症状が出てきたら病院を受診してください。

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