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尿道腫瘍
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

尿道腫瘍の概要

尿道腫瘍とは、尿の通り道である尿道にできものができる病気です。良性のものと悪性(癌)に大別されます。良性腫瘍は男性では極めてまれとされますが、女性では閉経後に尿道カルンクルというできものがみられることも少なくありません。尿道癌は全悪性腫瘍の1%以下というまれな疾患で、女性で頻度が高いとされています。症状として、男性では排尿障害や失禁、女性では血尿や尿が出づらいといった症状が主体です。診断は、尿細胞診や膀胱尿道内視鏡を行い、生検で組織診断を行います。CTやMRIで転移や他の臓器へ腫瘍が広がっていないかを確認します。治療は、癌が表面のみであれば内視鏡による切除や電気凝固術などを行いますが、腫瘍が広がっていたり転移していたりすると外科的切除や放射線化学療法を必要とします。一般に、体から遠い部位にある尿道癌の予後は比較的良いとされますが、体に近い部位の尿道癌は病期が進行している段階で発見されることが多く、予後は不良です。

尿道腫瘍の原因

尿道の成り立ちは男女で異なります。

尿道を解剖学的に分けると、尿道は前部尿道(体の外側)、後部尿道(体に近い側)に分けられます。男性では陰茎の先っぽから陰茎の根本(前立腺の手前)迄が前部尿道であり尿道は長いですが、女性では前部尿道は非常に短く、尿道全体も4cmと男性と比較して短いのが特徴です。

尿道の表面を構成する細胞の種類によっても尿道は分けられ、遠位尿道(体から遠い)は扁平上皮や多列円柱上皮、重曹扁平上皮といった細胞で構成され、近位尿道(体に近い)は移行上皮(膀胱や尿管と同じ細胞)で構成されています。どの部位に尿道癌が発生するかで、癌の種類も異なり予後も様々です。

尿道の良性腫瘍は、嚢腫、乳頭腫、腺腫、線維腫・筋腫・線維筋腫、血管腫といったものがあります。いずれも極めてまれなものです。乳頭腫は体から近い部分にできたものは再発や悪性化する可能性があるとされます。

尿道の悪性腫瘍は尿道癌と呼ばれ、原因として男性では性行為感染症や尿道炎に起因する尿道狭窄や、ヒトパピローマウイルス(HPV)16が関わっていると考えられています。

女性では尿道の扁平上皮癌の約60%でヒトパピローマウイルス16や18が関わっていると考えられています。慢性刺激や尿道カルンクル(閉経後の女性に多い尿道の良性のできもの)、尿路感染症が関わっているとされます。尿道カルンクルは更年期以降の女性に多く、女性ホルモンの量が少なくなるとできやすいとされます。尿道カルンクル自体は良性腫瘍ですが、尿道カルンクルを持つ女性2.5%に尿道癌が見つかるとされ、注意が必要です。

尿道腫瘍の前兆や初期症状について

男性では、排尿障害(尿が出づらい、尿が散乱するなど)、溢流性尿失禁(尿が漏れてしまう)といった尿道狭いことによる症状が主体となります。血尿、尿道出血、尿道痛、排尿時痛が認められることがあります。

女性では尿道出血が多く、尿閉(尿が出なくなる)もみられます。その他頻尿といった骨盤底筋が過敏になるような症状がみられ、腫瘤を触れるといった症状がみられます。

尿道腫瘍の検査・診断

視診にて腫瘍を確認します。さらに、男性では直腸診や外陰部の触診で硬く触れるしこりがあるかどうか確認します。女性の場合は、両側の鼠径部を触れてリンパ節が腫れていないかどうか確認します。内診により直腸や子宮など婦人科領域の悪性腫瘍がないかどうかも確認します。

血尿や排尿障害の原因を特定するための検査の一環として、尿検査、尿細胞診を行います。尿細胞診は、男性の尿路上皮癌では80%が陽性となり、扁平上皮癌は50%が検査陽性となります。女性では尿路上皮癌の場合は50%が陽性となり、扁平上皮癌は77%陽性となりますが、このように癌があっても尿細胞診ではわからないこともあり、検査が陰性でも注意が必要です。他にも腫瘍マーカーを測定します。膀胱尿道鏡検査は、腫瘍の広がりや位置・組織の型を評価するために必要な検査です。膀胱尿道鏡検査の悪性腫瘍に対する感度は83.3%、特異度は95.1%と膀胱癌を見つけるのに優れています。これらの診察で尿道腫瘍が疑われた場合は生検を行い病理検査を行い、腫瘍の組織型を確認します。

尿道癌が確定すれば、転位の有無や腫瘍の広がりなど病期を確認するためにCTやMRIで周辺臓器の画像検査を行います。特に、リンパ節転移の有無を評価するにはMRIが優れており、正確性は93%とされています。

前部尿道癌(尿の出口から近いところ)の場合は多くが表在性で進行度は低いですが、後部尿道癌(尿道で体に近いところ)の場合は深部まで浸潤していることが多いです。診断が確定した段階では、男性患者の多くが早期病変であることが多いですが、女性患者では臓器浸潤が多く、見つかった時点で癌がかなり進行していることが多いです。

尿道腫瘍の治療

良性の腫瘍は、症状があれば電気的焼灼術や外科的切除を行います。尿道カルンクルも基本的には無症状であれば経過観察や、軟膏を塗ったりする保存的治療を行いますが、大きい場合には外科的切除を検討します。また、尿道癌でないかどうかを慎重に判断する必要があります。

尿道癌の治療は、男性、女性ともに、表在性の癌であれば内視鏡による切除や電気凝固術を行います。浸潤性であれば外科的切除の適応となります。近位部尿道癌ではしばしば浸潤性で骨盤内リンパ節転移を伴うため、拡大手術やリンパ節切除が行われます。拡大手術を考える場合、膀胱を切除せずに温存できるかどうか、できない場合は尿路変更をどのようにするかなどの問題が生じるので、手術適応を慎重に決定します。手術適応がないと判断された場合や再発・転移例では放射線療法や化学療法が行われます。

尿道癌の5年生存率は、遠位部尿道癌で60%程度、近位部尿道癌で10~20%であり、近位部尿道癌の予後は不良です。

組織型別の5年生存率は、扁平上皮癌で64%、移行上皮癌で61%、腺癌で31%と腺癌の予後が不良とされています。腺癌は65%が発見時に既に進行期にあるとされ、18%で遠隔転移、19%にリンパ節転移を認め、2年以内に64%が死亡するという報告があります。

尿道腫瘍になりやすい人・予防の方法

良性の尿道腫瘍は非常にまれな病気です。閉経後の女性における尿道カルンクルの発生頻度は、泌尿器科を受診した女性の3%程度にみられたという報告もあり、比較的よくみられる疾患です。

尿道癌は非常にまれな悪性腫瘍です。ヨーロッパでの発症率は100万人当たり男性が1.6人、女性が0.6人とされ、米国では男性が4.3人、女性が1.5人と男性にやや多いとされます。高齢者に多く、55歳未満では発症がほとんど見られません。

いずれの尿道腫瘍も予防方法は確立されていません。

参考文献

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  • 2)Herney Andrés García-Perdomo, et al. Urethral cancer: a comprehensive review endorsed by the Global Society of Rare Genitourinary Tumours. BJU Int . 2024 Aug;134(2):175-184.
  • 3)Cheau Williams, et al. Urethral carcinoma: A compilation of case studies and research findings. Urol Case Rep . 2020 Apr 3;31:101169.
  • 4)中村 晃和:尿道腫瘍(悪性腫瘍). 臨床泌尿器科 67巻 4号 pp. 265-267. 2013
  • 5)赤坂 裕:尿道腫瘍. 臨床泌尿器科 25巻 12号 pp. 953-962. 1971

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