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腎結核
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

腎結核の概要

腎結核は、結核菌が腎臓に感染することによって引き起こされる感染症です。

結核菌は非常に小さな細菌であり、主に空気感染によって広がります。最初に肺に感染しますが、血液循環に乗って体内を移動し、腎臓などその他の臓器に到達して増殖することがあります。

肺以外の組織で発生する結核を肺外結核といい、結核患者全体の約7%にみられるとの報告があります。

出典:公益財団法人結核予防会結核研究所「結核の基礎知識」

腎結核は通常の結核と同様に薬剤を使用しての治療が一般的ですが、状態によっては腎臓の摘出を行う場合もあります。

日本では医療の進歩や環境改善により結核感染者数は減少していますが、抵抗力が低下している人や高齢者を中心に、依然として新規感染者も確認されてます。

腎結核の原因

腎結核の原因は「結核菌」という細菌への感染です。肺に感染した結核菌が血液に乗って腎臓に感染することによって引き起こされます。

結核菌には「休眠状態」になる特徴があります。一度体内に入った結核菌が身体の免疫能力によって活動を抑制され、長期間症状を引き起こさずに潜伏している状態のことをいいます。

休眠状態の結核菌は、糖尿病やHIV感染症、がんなどを患っている場合など、身体の抵抗力が低下していることをきっかけに再び活性化する場合があるため注意が必要です。

ステロイド薬や免疫抑制剤を長期服用している場合も、休眠状態の結核菌が活性化するリスクが高いことが知られています。

腎結核は結核菌の感染に加えて、身体の抵抗力が密接に関係して発症する病気です。腎結核の予防や早期発見のためには、普段から免疫力が維持できる生活を心がけることが大切です。

腎結核の前兆や初期症状について

腎結核の主な症状は、頻尿や排尿時痛、残尿感、背部痛といった腎泌尿器系の症状のほか、倦怠感や食欲不振など全身的な症状があります。

腎臓への影響が深刻化すると病変部が瘢痕化(はんこんか)し、尿管狭窄(尿管が狭くなる)や萎縮膀胱を来たし、腎機能そのものが障害される可能性があります。

頻尿や排尿時痛、残尿感などの症状は腎結核だけにみられる症状ではないため、これらの症状だけで腎結核かどうかを判断することは困難です。ただし、これらの症状が続く場合はできるだけ早く泌尿器科を受診し、原因を特定することが重要です。

結核に感染した可能性がある人や、結核の治療が十分でない人がこのような症状が出現した場合も早期に医療機関を受診しましょう。

腎結核の検査・診断

腎結核は尿検査をはじめ、胸腹部のX線検査やCT検査などを実施して診断が行われます。必要に応じてIGRA検査という血液検査を行う場合もあります。

腎結核における尿検査では、尿中の結核菌の有無を調べるために尿検体を培養し分析します。

胸腹部のX線検査やCT検査などの画像検査も、腎結核の診断で重要な役割を果たします。とくにCT検査では腎臓内部の小さな病変の発見につながり、病気の進行度を判断する重要な情報が得られます。

血液検査では、IGRA検査という結核菌に対する免疫応答を調べる検査であり、結核感染の診断補助に用いられます。

抗体とは、病原菌やウイルスなどの異物が体内に侵入してきた際に働くもので、抗体の有無を調べることで結核自体に感染しているかどうかを調べられます。

結核菌はゆっくりと増殖する特徴があるため、培養検査の結果が出るまでに時間がかかることもあります。

腎結核の治療

腎結核の治療は、結核に効果のある薬剤を複数組み合わせて行う化学療法が基本です。腎機能が低下し腎性高血圧など重い症状が出現している場合は、手術を検討する場合もあります。

化学療法では通常6ヶ月の間、数種類の抗結核薬を組み合わせて内服します。治療は長期にわたりますが、薬剤を確実に服用することで、高い確率で完治が期待できる標準的な治療法です。

出典:厚生労働省検疫所FORTH「結核について(ファクトシート)」

治療中は定期的に検査を行い、薬の効果や副作用の有無を確認します。抗結核薬による副作用として、肝機能障害や皮膚症状、神経炎などが起こることがあるため、適切な管理のもと治療を実施します。

また、腎臓の病変が進行し重度の障害が生じている場合は、腎摘出術や尿管拡張術を行う必要もあります。

なお、治療中は規則正しい生活を心がけ、十分な休養とバランスの良い食事を取ることが大切です。

結核菌の感染力が無くなるまでは、適切な感染対策(マスク着用、手洗い、咳エチケットなど)を徹底し、周囲への感染を防ぐことが重要です。

腎結核になりやすい人・予防の方法

腎結核は結核菌が血液循環に乗って腎臓に到達することで発症するため、腎結核になりやすい人は結核そのものに感染している人です。

なかでも注意が必要なのは、コントロール不良状態にある糖尿病やHIV感染症を患っている人、がん治療中の人など、身体の抵抗力が低下している人です。

また、ステロイド薬や免疫抑制剤などを長期間使用している人や高齢者なども注意する必要があります。

腎結核の予防では、結核に罹患しないことが第一に挙げられます。

結核患者との密接な接触を避けることや、日頃から手洗いやうがいを十分に行うこと、必要に応じてマスクを着用するなどの基本的な感染対策を徹底しましょう。

バランスの良い食事や適度な運動、十分な休息は身体の免疫能力を向上させ、結果として結核の予防につながります。

なお、日本では生後1歳までにBCGワクチンの接種が推奨されており、これは腎結核を含む結核全般の予防に重要な役割を果たしています。

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