

監修医師:
前田 広太郎(医師)
尿道損傷の概要
尿道損傷は、会陰部に強い外力が加わることで尿道が損傷する疾患で、男性に多くみられます。外傷によるものと、医療行為による医原性のものがあります。
典型的な症状には、外尿道口からの出血、血尿、排尿困難や尿閉があります。診断には逆行性尿道造影が用いられ、尿道の連続性や造影剤の漏れを確認します。外傷性の場合には、ほかの外傷性疾患の有無を評価するために全身CTを撮影します。
治療は損傷の重症度によって異なりますが、初期治療の中心は尿を外部に排出するための尿道カテーテルの留置や膀胱瘻の作成です。長期的には尿道狭窄などの後遺症に対して再建手術が検討されます。
リスク因子としては、交通事故、会陰部を打つリスクの高いアクティビティ (格闘技など) 、前立腺肥大症や早期の膀胱癌に対する経尿道的治療が挙げられます。個人でできる予防としては、格闘技の際の股間を守るためのプロテクター着用や、適切な尿道カテーテル挿入・抜去手技の習得があります。
尿道損傷の原因
尿道損傷は、尿道に直接または間接的に強い力が加わることで発生する疾患です。身体的構造の違いから、女性よりも男性に圧倒的に多いです。 原因には大きく分けて外傷によるものと、医原性のものの2つがあります。 尿道損傷の原因となる外傷は、会陰部の鈍的外傷が代表的です。これは作業中のハシゴから落ちて会陰部を打撲したり、交通事故により会陰部を強打するといったような外傷です。骨盤骨折に合併して尿道損傷が起こる場合もあります。交通事故や労働災害、転落事故で生じる高エネルギー外傷の1〜20% で尿道損傷が起こるとされています (参考文献 1) 。
医療行為による医原性損傷も少なくなく、尿道カテーテルの挿入や抜去の際に損傷したり、経尿道的内視鏡処置中におこる機械的圧迫や誤操作などによっても生じることがあります。自宅で患者さん自身が日常的に尿道カテーテルを用いる場合がありますが、これも原因になります。
尿道損傷の前兆や初期症状について
尿道損傷の代表的な症状は、外尿道口 (尿が出てくる場所) の血液付着、血尿、排尿困難、尿閉です (参考文献 1) 。他にも会陰部や下腹部の腫脹、皮下血腫、女性の場合には膣裂傷を合併することがあります (参考文献 1) 。 会陰部を打った後や経尿道的処置をした後に上記のような症状が出てくる場合には、泌尿器科を受診してください。交通事故をはじめとした全身を強打するような外傷の場合には、速やかに救急車を呼んでください。
尿道損傷の検査・診断
まずは、どのような流れで受傷したのか整理するほか、全身の身体診察をします。尿道損傷に関連する箇所の出血や腫脹の有無を確認するほか、骨盤骨折や他の内臓損傷を疑うような所見がないかを確かめます。
診断の中心となるのは、造影剤を尿道から膀胱に注入し、その連続性や損傷の有無を評価する逆行性尿道造影です (参考文献 1) 。正常な尿道であれば外尿道口から膀胱までが造影され、途中の断裂や造影剤の漏れだしはありませんが、尿道損傷では断裂部位から造影剤が漏れだします。
尿道外傷を生じるような外傷では、他の臓器の損傷の有無を評価したり、骨折の有無も確かめなければいけません。CT撮影をして全身の状況を確認します。軟性膀胱鏡で損傷部位を直接確認することも有効です。
尿道損傷の治療
全身状態を安定させた後は、尿道損傷の重症度によって治療法が分かれます。 初期治療の目的は尿閉症状の緩和、尿が外部に漏れだすことによって発生する感染症の予防、尿道狭窄や勃起障害などの合併症の予防です (参考文献 1) 。 初期治療の中心は尿のドレナージです。尿道からカテーテルを膀胱まで入れる方法と、膀胱に穴をあけて直接外に排出する方法 (膀胱瘻) があります。尿道損傷では、無理にカテーテルを挿入すると損傷を悪化させる場合があるので、膀胱瘻の作成がよく行われます。 膀胱瘻を作った場合、ドレナージのための処置により尿道損傷が悪化する可能性は低いですが、尿道の自然治癒の過程で尿道が狭くなるので、状態が落ち着いたのちに狭窄解除のための治療を行います (参考文献 1) 。
尿道狭窄に対する治療の中心は尿道形成術です。損傷の部位や重症度によって最適な手術方法を決定しますが、尿道を元の形に近いように修復することが困難な場合もあります。そのようなときには尿の通り道を変更するような手術 (尿道会陰瘻、禁制導尿路作成) のほか、カテーテルの長期留置などが選択肢になります (参考文献 1) 。
尿道損傷になりやすい人・予防の方法
尿道損傷のリスクが高いのは、以下のようなケースです。
- 骨盤骨折を伴う交通事故や転落事故にあった人
- 格闘技など、股間を強打する危険性の高いスポーツやレジャーを行う人
- 尿道カテーテル挿入・抜去の機会が多い患者
- 泌尿器系疾患で、経尿道での内視鏡治療を受ける人 例:前立腺肥大症、早期の膀胱癌
アクティビティの際に股間を守るプロテクターを装着することや、尿道カテーテルを自分で入れる機会の多い人は正しい手技に習熟することが予防になります。




