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夜間多尿
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

夜間多尿の概要

夜間多尿とは、主な睡眠時間中に尿が過剰に産生される状態を指します。一方、夜間頻尿とは、夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという自覚症状のことです。夜間頻尿は、夜間の尿量増加や膀胱容量の低下など、さまざまな要因に関連する一般的な症状であり、そのうち尿量の増加が関与するものを夜間多尿と呼びます。

夜間多尿の原因

夜間頻尿の病因については、夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の3要因があり、加えて循環器疾患も関与しており、これらの要因が単一あるいは複数で関与しています。

夜間頻尿の原因の一つである夜間多尿は、24時間尿量が多い多尿に伴う夜間多尿と、夜間睡眠時の尿量のみが多い夜間多尿があります。①夜間尿量が10ml/kgを超える、②夜間尿量が90ml/時を超える(男性のみ)、③夜間多尿指数(夜間尿量/24時間尿量)が33%を超える(65歳以上)、20%を超える(若年者)、④夜間頻尿指数(夜間尿量/最大1回排尿量)が1.5を超える、などの診断基準があります。多尿の定義は24時間尿量が40ml/kg/体重を超えることとされ、その病因としては水利尿と浸透圧利尿に分類されます。

水利尿とは、水分を過剰に摂取することにより、水が再吸収されずに尿として排泄されることです。水分過剰摂取の原因として、脳血管障害、虚血性心疾患、尿路結石予防のための水分摂取、精神疾患による心因性多尿や、症候性多飲症や薬剤性多飲症があります。症候性多飲症の原因としては、口渇中枢の障害(多渇症)、脳腫瘍、脳炎後および頭部外傷や放射線治療などが原因として挙げられます。薬剤性としては抗コリン薬、クロルプロマジンなどの副作用である口渇が原因となります。

水分再吸収阻害の原因として、バソプレシンという抗利尿ホルモンの分泌低下、もしくは腎臓におけるバソプレシンの反応性低下が原因で、腎臓から水が再吸収されないことがあり、尿崩症と呼ばれます。中枢性尿崩症と腎性尿崩症があり、、腎性尿崩症は先天性異常や腎疾患によるもの、電解質異常伴うもの、薬剤性などに分類されます。

浸透圧利尿とは、尿中の浸透圧が上昇することにより尿量が増加する現象です。尿中のナトリウムが増加することによる電解質利尿と、非電解質利尿に分類されます。電解質利尿には、利尿薬の使用、生理食塩水の輸液、急性腎不全の利尿期などがあてはまります。くも膜下出血などの頭蓋内疾患に合併する塩類喪失症候群もあります。非電解質利尿では、糖尿病による尿糖により多尿をきたす場合や、造影剤、グリセオール、マンニトールといった高浸透圧性薬剤による利尿もあります。

その他には、抗利尿ホルモンの日内変動で夜間多尿をきたすこともあります。加齢により夜間に抗利尿ホルモンが多く分泌されることがあります。心血管性の夜間多尿もあり、健康的な若年者では夜間血圧は低下しますが、夜間血圧の低下が少ない高齢者や高血圧患者においては夜間尿量が増加します。心不全や老化により心機能が低下すると、立位が多い日中は下半身に水分が貯留し、下腿浮腫となります。就寝時に横になると、循環血流量が上昇し、腎血流量が増加することにより尿量が増えます。

夜間多尿の前兆や初期症状について

夜間多尿の原因により症状は異なります。口渇が強く飲水行動が過剰になる場合は、初期の糖尿病による浸透圧利尿であったり、薬剤による症状、尿崩症の可能性を示唆します。夜間多尿以外を示唆するような症状としては、尿意切迫感、尿失禁などの下部尿路症状、肉眼的血尿、尿閉、睡眠障害、再発性尿路感染、前立腺などがあります。

夜間多尿の検査・診断

診断のアプローチとしては、排尿日誌をもとに、①尿量、②飲水量、③尿意切迫感、④尿失禁、⑤排便状況などの評価を行います。水分摂取のパターン、他の排尿症状の有無、基礎疾患の有無を確認し、夜間頻尿が多尿によるものなのか膀胱容量の低下や他の原因か併発しているのか鑑別を行います。膀胱蓄尿障害の有無が重要であり、残尿量の測定は、排尿障害や尿閉の診断に役立ちます。可能であれば、感染リスクの低い超音波検査を実施します。 検査としては、全例に基本的な血液検査と尿検査を実施し、感染が疑われる場合は尿培養も行います。

夜間多尿の治療

第一選択の治療法として行動療法が挙げられ、安全性が高いです。まず、飲水に関する指導を行います。夜間多尿の原因として最も多くを占めるものは多飲・夜間多飲、つまり「水の飲みすぎ」です。飲水量の目安として、体重の2%まで1日の飲水量を制限する(体重60kgだと1200ml/日)、24時間尿量を20~25ml/kg/体重に調整する、24時間尿量を1500mlになるように水分量を調整する、などの方法があります。飲水量が低下すれば、夜間排尿回数は減少します。注意点としては、汗をかくような運動をしている状態を想定していないことや、尿量の調整は難しいことから、季節や患者の生活習慣に合わせて調整していく必要があります。飲水制限強化による脱水を引き起こさないよう注意が必要です。また、カフェインを含むエナジードリンクやコーヒーには利尿・覚醒作用があることから、摂取量や時間に注意する必要があります。

塩分の過剰摂取により夜間多尿も起きるため、塩分制限を実施します。

運動療法としては夕方から就寝前までに30分程度の適度な歩行運動などを行い、日中に下肢に移動した水分を血管内に戻した上で、筋肉のポンプ作用によって静脈還流を促し、就寝前までの尿量増加を誘発することが、夜間尿産生の減少につながります。運動には発汗作用もあり、ストレスの低減や睡眠深度をより深くすることで膀胱知覚による覚醒が起こりにくくなる可能性があります。その他、下肢を挙上しながらの30分以内の昼寝、弾性ストッキングの着用により下腿浮腫を軽減する方法や、日光浴により発汗を促し夜間のメラトニン分泌量を増大させることにより夜間頻尿を軽減されるとされます。利尿薬の服薬時間の変更も有用です。

夜間多尿に対する薬物療法は、保険適応のある薬剤としてデスモプレシンがあります。デスモプレシンは男性の夜間多尿に対して保険適応です。加齢に伴い、抗利尿ホルモンであるバソプレシンの分泌が低下し夜間多尿になりますが、その合成アナログ製剤であるデスモプレシンは抗利尿作用を持ちます。抗利尿効果はバソプレシンの3~10倍、作用時間は男性50μg/錠で約3.45時間です。有効性が高い薬剤ですが、高齢者では有害事象が出現する懸念もあることから、低ナトリウム血症、心因性多飲症、心不全、利尿薬内服中、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群、中等度以上の腎機能障害、副腎皮質ステロイド投与中の患者などは禁忌となっているため注意が必要です。

利尿薬は、半減期の短いループ利尿薬やサイアザイド利尿薬を就寝6~8時間以上前に投与することで夜間多尿に起因する夜間頻尿を改善させます。夜間頻尿に対する保険適応はありません。その他、非ステロイド性抗炎症薬、三環系抗うつ薬が治療薬として挙げられますが、いずれも保険適応外です。

夜間多尿になりやすい人・予防の方法

夜間多尿になる場合、多くが水分摂取の過剰です。飲水量の制限、カフェイン類の摂取を就寝前に避けること、夕方から就寝前の軽い運動や日中の日光浴などの行動療法によって改善が期待できます。夜間頻尿のリスク因子としては糖尿病、高血圧、肥満といったものがあり、特に糖尿病の寄与が男性において顕著な傾向があります。

参考文献

  • 1)日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会 編集:夜間頻尿診療ガイドライン [第2版] . リッチヒルメディカル. 東京. 2020
  • 2)鳥本 一匡, 他:夜間多尿. 臨床泌尿器科 78巻 2号 pp. 100-105. 2024
  • 3)松尾 朋博, 今村 亮一:多尿,夜間多尿に対する治療戦略. 臨床泌尿器科 78巻 2号 pp. 100-105. 2024年
  • 4)Up to date:Nocturia in adults: Clinical presentation, evaluation, and management

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