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切迫性便失禁
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

切迫性便失禁の概要

切迫性便失禁は直腸(大腸の出口に位置する部分)や肛門の機能に異常が生じることで、便意を感じてからトイレまで排便が我慢できず、便が漏れる症状のことです。

年齢を問わず誰にでも起こり得る症状ですが、とくに全身の筋力が衰えてくる高齢者に多くみられます。現在、日本人では約500万人が便失禁の症状を感じているといわれています。

出典:一般社団法人 日本大腸肛門病学会「便失禁」

切迫性便失禁は直腸の機能や肛門の筋力、神経機能などの異常が組み合わさって生じます。

一人で悩みを抱えてそのままにしてしまうことも多いですが、保存療法や手術療法などの治療や、適切な運動・生活習慣によって改善が期待できます。

トイレに着くまでに排便を我慢できない場合など、切迫性便失禁の症状を感じたらできるだけ早く医療機関を受診しましょう。

切迫性便失禁の原因

切迫性便失禁は、主に「直腸の機能低下」「肛門周囲の筋力低下」「神経系の障害」が絡み合って起こります。

排便にかかわる器官として、直腸は便を一時的に溜める場所、肛門は便の排出口、神経系はこれらを制御するなどの役割があり、これらがうまく連携することでスムーズな排便をおこなっています。

しかし、脳梗塞や脊髄損傷などで神経系の障害がある場合、直腸や肛門などの制御がうまくできなくなり、便意を感じるタイミングが遅れたり、肛門周囲の筋肉のコントロールが難しくなったりします。

加齢によって肛門括約筋(こうもんかつやくきん:肛門の開閉に関わる筋肉)などの筋力低下が起きたり、、大腸の炎症性疾患や直腸がんの手術によって直腸や肛門の機能が低下したりすることで発症するケースもあります。

切迫性便失禁の原因は一つだけでなく複数の要因が組み合わさっている場合が多いため、医師による適切な診断と原因の特定が重要です。

切迫性便失禁の前兆や初期症状について

切迫性便失禁の前兆や初期症状は、通常であれば我慢できる便意を我慢できなくなる変化が現れ始めます。

症状が進行すると、便意を感じてからトイレにたどり着く前に便が漏れ出てしまうことがあります。このような症状によって外出する不安が生じ、行動が制限されたり、社会生活に支障をきたしたりする人も少なくありません。

これらの症状に加えて、急激な体重や血便がみられる場合は他の病気の可能性も考えられます。便の性状や排便習慣に変化が現れた場合は、できるだけ早く医療機関に受診するようにしましょう。

切迫性便失禁の検査・診断

切迫性便失禁の診断は、問診や直腸診、内視鏡検査などを組み合わせておこないます。問診では症状が出現した時期や程度、その他の腹部症状の有無などについて確認します。

直腸診は医師の指で直腸の状態や肛門の締り具合を確認する検査方法です。肛門周囲の皮膚の状態なども詳しく観察します。

より詳しい検査が必要と判断した場合は、肛門内圧検査を実施することもあります。肛門内圧検査は肛門に細い管を入れ、肛門の筋肉の力や反射の状態を測定する検査です。

場合によっては、直腸を含む大腸の状態を詳しく調べるために、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)やMRI検査などの画像検査をおこなうこともあります。

これらの検査結果と症状の経過などを総合的に判断して、切迫性便失禁を診断します。

大腸や肛門に関する検査は羞恥心や不安を感じる場合もあるかもしれませんが、切迫性便失禁の症状を感じる場合は、できるだけはやく医療機関を受診することが大切です。

切迫性便失禁の治療

切迫性便失禁の治療は、保存的な治療から開始されることが一般的です。生活習慣の調整や肛門周囲の筋肉を鍛える運動療法、薬物療法などをおこないます。

生活習慣の調整では、定期的な排便習慣を確立できるように指導します。毎日決めた時間にトイレへ行くことで、腸の動きを整えます。

運動療法では便意を我慢する筋肉を鍛えるために、肛門周囲の筋肉を鍛える体操をおこないます。体操は医師や理学療法士の指導のもと、正しい方法でおこなうことが大切です。

薬物療法では便の性状を整えるための整腸剤や、腸の動きを調整する薬を処方します。

保存的な治療で改善が見られない場合や症状が重度の場合は、部分的に欠損している肛門括約筋(こうもんかつやくきん:肛門の開閉に関わる筋肉)を縮めて補強する手術を検討することもあります。

治療には一定の期間が必要で、すぐに効果が現れないこともありますが、継続して続けることが大切です。また、必要に応じて治療内容を調整していくことで、より効果的に治療を進めることができます。

切迫性便失禁になりやすい人・予防の方法

切迫性便失禁は、全身の筋力が低下していたり運動習慣が少なかったりすることで発生するケースが多く、高齢者がなりやすいといわれています。便秘や下痢を繰り返すなどで排便習慣が整っていない人や、不規則な食生活を送っている人も要注意です。

出産経験がある人も肛門周囲の筋力が低下しやすい傾向があるため、切迫性便失禁になりやすいといえます。

予防方法としては、規則正しい食生活を心がけることが大切です。 食物繊維を十分に含む食事を摂ったり、水分を積極的に摂取したりすることで、便の性状を整えることができます。

運動面ではウォーキングなどの有酸素運動を定期的に行うことが効果的です。肛門周囲の筋肉を鍛える体操を習慣付けるのもよいでしょう。

生活面では、定期的な排便習慣をつけることが重要です。毎日決めた時間にトイレに行くよう心がけ、便意を感じたら我慢せずにトイレに行きましょう。我慢することはなるべく避け、リラックスした状態で排便することを心がけてください。

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