

監修医師:
大坂 貴史(医師)
腎臓損傷の概要
腎臓損傷(腎外傷)とは、腎臓に外力が加わることで起こる損傷で、交通事故や転倒、スポーツ外傷などが主な原因です。日本では交通事故が原因のほとんどを占めているほか、転倒・転落やスポーツやアクティビティでの受傷により腎臓を損傷する場合があります。
症状としては側腹部の痛みや圧痛、血尿などがあり、腎臓損傷の多くの症例で血尿がみられます。後腹膜という体の奥深くにあるため、大量に出血していても外見上わからないことがあります。 救急搬送されたら、まずは全身状態を安定させます。その後は造影CTを用いた全身評価をして、腎臓損傷自体の重症度評価のほか、肝臓や脾臓、脳といった他の重要臓器の評価もします。
安静にするほかにはカテーテル治療や支持的な治療が中心となりますが、腎損傷の程度が重い場合には手術が必要になります。他の臓器損傷も合併している場合が多いので、優先度をつけながら治療していきます。
日常生活における予防としては、シートベルトの着用や防具の装着が有効です。スキー、スノーボード、サイクリングはスポーツのなかでは腎臓損傷のリスクが高いので、安全対策の見直しをしてみてください。
腎臓損傷の原因
腎臓損傷 (腎外傷ともよびます) は、腎臓に加わる外力によっておこる外傷です。腎臓は後腹膜腔に位置し、肋骨や筋肉によってある程度保護されているものの、交通事故や高所からの転落、スポーツ外傷などにより損傷を受けることがあります。
腎損傷は「鈍的外傷」と「穿通性外傷」に大別されます。前者は交通外傷や転落などによる打撲が中心で、日本では腎臓損傷の原因の多くがこの鈍的外傷に分類されます。腎臓損傷の原因で特に多いのが交通外傷で、全体の約7割を占めます (参考文献 1) 。 腎臓周辺での操作を要する治療中に、誤って腎臓を損傷してしまうことがあり、これを医原性腎臓損傷とよび、腎臓損傷の原因全体の数%程度を占めるようです (参考文献 1) 。
腎臓損傷の前兆や初期症状について
腎臓損傷の典型的な初期症状としては、側腹部の痛みや圧痛、肉眼的血尿が挙げられます。 原因ともかぶりますが、腎臓は肋骨の下のほうから腰にかけてを強く打った場合には、腎臓損傷のリスクが高くなります。この場所に擦過傷・打撲跡ができるような外傷を負った場合には、腎臓損傷に気をつけなければいけません。 自分でも気づきやすい症状に血尿があります。腎臓損傷患者の 80〜95% で血尿がみられるとされています (参考文献 1) 。
腎臓は血流の多い臓器であり、腎損傷の重症度によっては致死的な出血をきたす可能性があります。しかしながら「後腹膜」という場所に腎臓が位置するために、体の外に血が出てこず、出血が気づかれにくいという恐さがあります。 交通事故のほか、スポーツなどで強く体を打ったあとは、体の中を詳しく調べる必要があるので、必ず救急車を呼んでください。
腎臓損傷の検査・診断
交通外傷で救急搬送された場合を想定して説明します。 まずはバイタルとよばれる気道・呼吸・循環・意識状態を評価します。腎臓損傷による出血で循環が保たれていなければ、意識状態や血圧に異常が出てきます。同時に交通事故の状況や、どのように体を打ったのかを整理します。その後は全身の体表を見たり触ったりして、受傷している箇所にめぼしをつけます。
腎損傷の評価に必要不可欠なのは造影CTです。腎実質の損傷の程度のほか、腎盂、血管の評価が重要で、これにより重症度をGradeⅠ〜 Vまでで判定します (参考文献 1) 。 腎臓損傷は他の臓器や器官の損傷も合併することが多いです。腎臓に近い場所にある肝臓や脾臓の損傷のほか、頭部外傷による頭蓋内出血、骨盤骨折による大量出血など、腎臓のほかも外傷の程度を評価していきます。
腎臓損傷の治療
治療は腎臓損傷の重症度と全身状態によって異なります。全身の状態を評価したうえで、重症度・緊急度の高いものから対処していきます。 Grade I〜IIIの腎臓損傷では非手術療法が基本です。安静にするほか、カテーテル治療で出血を止めたり、チューブを刺して尿を体外に出すドレナージが選択肢になります (参考文献 1) 。 これらの治療でも状態が良くならないときには手術に踏み切る場合があります。
一方、Grade IV以上の重症例や、造影CTでの画像評価をする前にショック状態になるような場合には、初めから手術を選択します (参考文献 1) 。 手術では可能な限り腎臓を温存できるような腎縫合術や部分切除術が検討されますが、コントロールがつかない場合にはやむを得ず腎摘出が必要になります (参考文献 1) 。
腎臓損傷になりやすい人・予防の方法
腎臓損傷は偶発的な事故により起こることが多いため、完全な予防は難しい面がありますが、リスクを下げることは可能です。たとえば次のような対策が有効です。
自動車事故対策としてのシートベルトの着用
高所作業やスポーツ時の防護具の使用
作業やスポーツをする環境の見直し
なお、スポーツでの受傷はコンタクトスポーツよりもスキーやスノーボード、サイクリングがハイリスクとされています。これらのアクティビティをする方は、一度安全対策について見直してみてください。




