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尿道異物
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

尿道異物の概要

尿道異物とは、本来何も挿入されることのない尿道内に異物が存在する状態を指します。この状態は泌尿器科においては稀な疾患であり、ガイドラインも十分に整備されていません。そのため、患者の背景や症状に応じた個別対応が求められます。尿道異物の多くは、患者自身が尿道から異物を挿入することで発生します。これは性的嗜好(自慰や性的快感を目的とした行為)によるもので、20〜30歳代の若年男性に多く見られますが、思春期の例も報告されています。また、高齢者では、尿道カテーテルの誤使用や自己・事故によるカテーテルの切断が原因となることがあります。排尿時の痛みや出血、残尿感など下部尿路症状をきたします。問診と画像検査を行い、異物の材質・形状・位置を確認します。治療は経尿道的に摘出することですが、尿道の奥に異物があったり、形状的に困難な場合は外科的手術が必要になることがあります。尿路感染症合併の恐れがあることから抗菌薬による治療を行いますが、重篤な感染症をきたすこともあります。

尿道異物の原因

尿道異物としては、下部尿路(膀胱、尿道)の頻度が圧倒的に多いとされます。尿道異物の主な原因は、性的刺激を目的とした自己挿入です。自慰行為だけでなく性的行為中に外尿道口(尿が体外へ出る穴)に異物が入ることが多く、膀胱まで異物が達すると膀胱異物となります。男性が圧倒的に多いとされます。異物の種類は多岐にわたります。体温計、鉛筆、箸、ストロー、マドラーなどの棒状異物ゴムチューブ、ヘアピン、針、蝋燭などが挙げられます。医原性として留置カテーテルの自己切断や事故による残留、前立腺肥大症に対して挿入された尿道ステントが年単位にわたり放置され異物となった例もあります。高齢者や認知症患者では、留置カテーテルの管理ミスやせん妄に伴う自己操作が原因となるケースがあり、注意が必要です。

尿道異物の前兆や初期症状について

患者が自覚する最初の症状は、「異物が抜けなくなった」という訴えです。挿入後すぐに来院するケースが多いものの、羞恥心から受診が遅れ、異物が長期間留置されてしまう場合もあります。こうした例では合併症として、排尿時の違和感や痛み・出血、排尿困難、頻尿や残尿感、発熱や全身倦怠感(尿路感染による)などが出現します。異物が膀胱まで進入した場合、腹痛や腹部膨満感、さらに膀胱穿孔による腹膜炎症状が出現することもあります。

尿道異物の検査・診断

膀胱異物の診断のためには、まず問診を行います。自己申告が多く、何を入れたかを聴取します。視診・触診で尿道や陰茎部に異物を触れることができます。画像診断として、X線では金属や硬質素材の異物の検出に有用です。CTは異物の材質・形状・位置の詳細な確認が可能です。特に高齢者や精神障害などを伴い問診が難しい場合や症状を訴えづらい患者では、異物の残存確認に有用とされます。膀胱鏡検査では異物の位置が不明な場合や、摘出方法の検討のために行われます。

尿道異物の治療

治療の基本は、異物を安全に摘出することです。摘出方法としては経尿道的摘出として内視鏡的摘出が第一選択です。尿道鏡を使って異物を把持し、摘出します。麻酔はキシロカインゼリーによる局所麻酔や仙骨麻酔、サドル・ブロックといった麻酔などを使用し鎮痛します。異物が短期間であれば比較的容易に摘出可能です。難治例や長期留置例もあり、異物が長期間留置されると、尿道壁と癒着したり、結石化することがあり、摘出が困難な場合もあります。内視鏡で把持困難な場合、膀胱切開や尿道切開が必要となることもあります。異物が腹腔内へ迷入した場合(膀胱穿孔を伴うなど)、開腹手術が必要です。他の摘出方法として用手的摘出(手で異物を取る)があり、海外の報告では約半数の症例で「ミルキング(圧迫して外へ押し出す)」による摘出が成功しています。ただし、尿生殖隔膜を越えた症例(尿道の奥深くにある部位)ではミルキングは困難とする報告もあります。 後部尿道(体の奥側に近い尿道)にある場合はいったん膀胱に戻して膀胱異物として鉗子で摘出することもあります。合併症として、尿路感染への対応が必要です。短期間の異物留置でも20%以上で尿路感染が発生するとされ、抗菌薬の投与(1週間程度)が推奨されます。放置された異物では重症感染症に進展する可能性があり、フルニエ壊疽、水腎症、後腹膜膿瘍といった合併症が起こり得ます。こういったケースでは、ドレナージや集中治療管理が必要となることもあります。治療後の注意点として、異物挿入による尿道粘膜の損傷で一過性の尿閉(尿が出なくなること)を起こすことがあります。 長期的には尿道狭窄に移行し、排尿障害を引き起こす可能性があり、経過観察が重要です。また、尿道粘膜が損傷している場合は術後狭窄予防目的に尿道形成術を行うこともあります。

尿道異物になりやすい人・予防の方法

尿道異物がよくみられる人としては、若年の成人男性(特に20〜30代)が多いとされます。女性では20~40歳代にみられることが多いです。性的刺激を求めて異物挿入を行う人が多いです。認知症や精神疾患を有する高齢者(医原性または自己操作)にも尿道異物がみられることがあります。確立された予防方法はありませんが、尿路感染症の合併・重症化を防ぐためには早期発見・受診が重要です。

参考文献

  • 1)萩生田 純:尿道異物. 臨床雑誌外科 82巻 5号 pp. 584-585. 2020
  • 2)川村 寿一:尿道内異物. 臨床外科 59巻 11号 pp. 240-241. 2004
  • 3)赤尾 利弥:膀胱・尿道異物除去. 臨床泌尿器科 54巻 4号 pp. 156-158. 2000

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