

監修医師:
大坂 貴史(医師)
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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
目次 -INDEX-
尿素サイクル異常症の概要
尿素サイクル異常症では、アミノ酸分解により発生するアンモニアを処理しきれずに、アンモニアによる身体毒性が出てしまう、常染色体潜性遺伝・X染色体連鎖性遺伝の疾患です (参考文献 1) 。 新生児期の活動性低下、嘔吐、哺乳力低下、多呼吸といった症状が代表的ですが、酵素活性が部分的に残っている場合には、乳児期以降に症状が明らかになることもあります (参考文献 1, 2)。 新生児マススクリーニングの対象疾患になっているほか、症状や家族歴から尿素サイクル異常症が疑われるような場合には、詳細な病歴聴取のうえで詳細な検査をしていきます。 治療は、尿素サイクルに負荷をかけないようにたんぱく質摂取量の制限を軸に、アミノ酸排泄を促進する薬剤や透析治療を組み合わせて、病態のコントロールを目指します (参考文献 3) 。尿素サイクル異常症の原因
体の中でアミノ酸を分解するとアンモニアが発生しますが、アンモニアは体にとって有害なため、違う物質に変換する必要があります。その時に使われるのが「尿素サイクル」というしくみです。 尿素サイクルでは有害なアンモニアを、尿に溶かして排出しやすい尿素に変換します。 尿素サイクル異常症では、尿素サイクルを回すために必要な酵素の一部に異常があるために、処理しきれないアンモニアや、アンモニアになる前のアミノ酸分解産物が体に蓄積し、有害な症状が出てきます。 尿素回路異常症は遺伝性疾患です。常染色体潜性 (劣勢) 遺伝をとるものとX染色体連鎖性遺伝の形式をとるものがあります (参考文献 1) 。尿素サイクル異常症の前兆や初期症状について
尿素サイクル異常症にはいくつか病型があり、臨床像が異なります。 新生児期に発症するものは「新生児期発症型」と呼ばれ、生後24~48時間程度で症状が出てきます (参考文献 1, 2) 。母乳にはたんぱく質が含まれ、そのたんぱく質を分解する過程でアミノ酸ができるため尿素サイクルを働かせる必要が出てきますが、尿素サイクルが働かないために授乳開始直後に症状が出るというメカニズムです (参考文献 2) 。 初期症状は赤ちゃんがずっと眠そう、体温が保てない、哺乳力が低下するといったもので、頻回の嘔吐、赤ちゃんがぐったりする、昏睡、多呼吸といった症状が続きます (参考文献 2) 。 乳児期以降に発症する症例を「遅発型」と呼びます。尿素サイクルの機能が部分的に残っている場合に、感染症や妊娠を誘因に症状が出てくることが知られています (参考文献 1, 2) 。症状としては慢性の嘔吐症、発達の遅れ、睡眠障害などが知られているほか、食事でのたんぱく質摂取で頭が痛くなることもあるようです (参考文献 1) 。 早めに発見して対処することが重要な病気です。赤ちゃんに多い病気でもあるので、生まれて間もない赤ちゃんに上記の症状があれば、入院中であれば病棟のスタッフ、退院後であれば近くの小児科を受診しましょう。尿素サイクル異常症の検査・診断
尿素サイクル異常症には「発症前型」というものがあり、これは文字通り症状が出る前に尿素サイクル異常症と診断される場合を言います (参考文献 2) 。新生児マススクリーニングや、家族内で発症者が分かった場合に血縁者が検査され、診断されるような場合です。 マススクリーニング以外の検査には次のようなものがあり、尿素サイクル異常症であることを確定させたり、尿素サイクルのどの段階に異常があるのか探ります (参考文献 2) 。- 血液検査: 血中のアンモニアの値や酸塩基バランス、血糖値などを確認し、他の同様の症状を呈する病気と区別します。
- 血中・尿中のアミノ酸分析: 尿素サイクル異常症で増えるアミノ酸があるので、それらが増えていないか確認します。
- 尿有機酸分析: 尿素回路に異常があると蓄積する、オロト酸という物質の尿中濃度を測定します。
- 遺伝子解析
- 酵素活性の検査
尿素サイクル異常症の治療
初期治療で大事なのは嘔吐や哺乳量低下により失われやすい体液を補充すること、たんぱく質の摂取を制限すること、アミノ酸分解を抑えることです (参考文献 3) 。 血中アンモニア濃度があまりにも高くて収拾がつかない場合には、アミノ酸を体の外に排出しやすくするための薬物の投与や透析治療によってアンモニアを取り除くこともあります (参考文献 3) 。 症状が安定した後には、できるだけ早い段階で口は経鼻胃管からの栄養に切り替えます。たんぱく質を含まない調合乳を軸に、体の成長や生命の維持に困らないだけのたんぱく質やアミノ酸の量を計算して、血液検査の結果も参考にしながら、食事内容を考えていきます (参考文献 3) 。 尿素サイクル異常症を根本的に治す治療法は今日時点で開発されていません。定期的な診察に加えて、食事療法や薬物療法、必要な分のアミノ酸の補充を続ける必要があります (参考文献 3)。 これらの治療でも十分な治療効果が得られない場合、リスクとベネフィットを慎重に検討したうえで、肝臓移植をすることがあります (参考文献 4)。尿素サイクル異常症になりやすい人・予防の方法
遺伝性疾患なので、子どもに尿素サイクル異常症の患者がいる場合には、次に生まれてくる子には、遺伝形式に応じた一定の発症リスクがあるといえます。 遺伝疾患なので発症予防は難しいですが、早期診断により治療効果を期待できる疾患でもあります。気になる症状が赤ちゃんに出てきたときに担当の医師にすぐに伝えることが、重症化や後遺症の予防になるといえるでしょう。また、赤ちゃんの○○カ月検診に毎回しっかり行き、医師の定期的な診察を受けることも重要です。関連する病気
- アルギニノコハク酸合成酵素欠損症
- カルバモイルリン酸合成酵素1型欠損症
- オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症
参考文献
- 参考文献1:UpToDate. Urea cycle disorders: Clinical features and diagnosis (2023)
- 参考文献2:日本先天代謝異常学会. 尿素サイクル異常症 (2012)
- 参考文献3:UpToDate. Urea cycle disorders: Management (2023)
- 参考文献4:国立研究開発法人 国立成育医療センター. ”尿素サイクル異常症” . 病気に関する情報 子どもの病気 (閲覧 2024.11.05)




