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神経因性膀胱
村上 知彦

監修医師
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

神経因性膀胱の概要

神経因性膀胱とは、膀胱の働きをコントロールしている神経に障害をきたし、尿が出なくなった状態のことです。

通常、膀胱内に尿が溜まると、膀胱から脳にトイレに行くよう信号が送られるため、トイレに行きたくなります。

ただし、神経因性膀胱を発症すると、この信号が伝わらないため、尿を溜めたり出したりがスムーズにできなくなります。

症状を放置しておくと、尿路感染症や腎臓の機能障害を引き起こす可能性があります。重症化を防ぐために、早期の診断と適切な治療が重要です。

神経因性膀胱

神経因性膀胱の原因

神経因性膀胱は、膀胱や尿道を制御する神経系の異常により発生します。原因となる疾患は、主に次のとおりです。

  • 脳血管障害
  • パーキンソン病
  • 多系統萎縮症
  • 認知症
  • 脊髄損傷
  • 多発性硬化症
  • 脊柱管狭窄症
  • 椎間板ヘルニア
  • 二分脊椎
  • 糖尿病

脳や脊髄の疾患によって、膀胱の収縮や尿道の開閉をコントロールする神経信号の伝達が妨げられることで、神経因性膀胱が生じます。

また、末梢神経系の疾患によって、膀胱の感覚が鈍化したり、排尿筋がうまく機能しなくなったりすることもあります。

上記で挙げた疾患以外にも、大腸がんや子宮がんなどの手術後に神経障害が生じ、神経因性膀胱が起こるケースもあります。

神経の障害が膀胱機能に与える影響は複雑であるため、原因を特定するためには詳細な検査や診断が大切です。

神経因性膀胱の前兆や初期症状について

神経因性膀胱の前兆や初期症状は、排尿に関わるトラブルが中心です。尿意を感じても排尿がうまくいかない「排尿困難」や排尿した後も違和感を覚える「残尿感」がみられることがあります。

障害された神経の部位による主な症状は以下のとおりです。

分類 障害された神経の部位 主な症状
上位型
(痙性神経因性膀胱)
仙髄より中枢の神経 ・頻尿
・尿失禁
下位型
(弛緩性神経因性膀胱)
仙髄より抹消の神経 ・尿閉(尿が出ない)
・溢流性尿失禁(膀胱の容量がいっぱいであふれ出てくる)

上位型の場合は、膀胱は過敏になっている状態(過活動膀胱)であるため、膀胱内に尿がほとんどない、もしくは全くない場合でも尿意を感じます。頻尿や尿失禁などの症状が現れるため、夜間、繰り返し目が覚めることもあります。

下位型の場合は、膀胱が伸びきった状態となり収縮できなくなります。そのため、尿意を自覚できない(排尿をしたいという感覚がない)ことが多く、尿閉や溢流性尿失禁などの症状が現れます。

また人によっては、上位型と下位型の両方の要素がみられる場合もあります。

さらに、神経因性膀胱の症状によって、尿がうまく排出できないことで尿路感染症や尿路結石、水腎症を起こす可能性があります。

排尿するのに時間がかかったり、逆に尿意がないまま無意識に漏れてしまうこともあるため、日常生活に支障をきたすケースは少なくありません。

これらの症状は、脳や脊髄の障害、あるいは末梢神経の異常によって引き起こされるため、異常を感じた場合は早めに医療機関を受診することが大事です。

神経因性膀胱の検査・診断

まずは問診で排尿の頻度や残尿感、失禁の有無などの症状を詳しく聴取します。また神経因性膀胱の原因となる疾患があるかどうかを確認するために、既往歴の聴取や全身状態のチェックも必要です。

排尿機能を評価するために、尿流測定を実施します。排尿する量や時間、パターンなどから尿が出る神経障害が排尿にどのような影響を与えているのか調べます。

残尿測定は、超音波を使用して排尿後の膀胱内に残る尿の量を評価するものです。排尿した後でも膀胱内に尿が残りやすいため、神経因性膀胱を疑う重要な指標です。

必要に応じて、CTやMRIなどの画像診断を使って神経系の異常を確認したり、尿検査や採血をしたりする場合もあります。

神経因性膀胱の治療

神経因性膀胱の主な治療は、次の通りです。

  • 薬物療法
  • カテーテルによる治療
  • 手術

ほかにも、骨盤底体操や膀胱訓練を実施することもあります。患者さんの症状や原因に応じて、様々な方法で治療します。

薬物療法

神経因性膀胱への薬物療法では「尿を溜めることができないのか」もしくは「尿を出すことができないのか」を見分けた上で治療を開始します。主に次の薬を使います。

薬剤名 主な作用
抗コリン薬 膀胱の過度な収縮を抑えることで、急にトイレに行きたくなったり、何度も排尿したくなったりする症状を改善する
β3受容体刺激薬 膀胱を広げて尿道を縮めることで膀胱内に尿を溜めやすくして頻尿をや急な尿意を改善する
α遮断薬 尿道の筋肉を緩めることで排尿しやすくする
コリン作動薬 副交感神経系を強めて、膀胱の収縮力を増強させる

このような薬物療法を実施しても改善がみられなかった場合に、カテーテルや手術による治療が行われることがあります。

カテーテルによる治療

薬物療法で改善がみられなかったり、膀胱内に明らかに尿が溜まっていたりする場合は、カテーテルによる治療を行うことがあります。

1日に数回、その都度カテーテルを挿入して排尿を促す方法と、一定期間カテーテルを留置する方法があります。

カテーテルを挿入して排尿を促すことで、膀胱内に尿が長期にわたって滞留することによって発症する尿路感染症を避けられます。

手術

神経因性膀胱の重症例では、まれに手術の適応となる場合があります。

  • 膀胱拡大術
  • 逆流防止術
  • 尿失禁防止術

神経因性膀胱の原因や症状によって、それぞれの手術が選択されます。

神経因性膀胱になりやすい人・予防の方法

神経因性膀胱になりやすい人には、特定の疾患や神経障害を持つ人が多いです。

特に、脳血管障害やパーキンソン病、脊髄損傷など神経系に影響を与える病気を持つ方がリスクが高いとされています。さらに、糖尿病や慢性的な椎間板ヘルニア、骨盤手術による神経損傷も神経因性膀胱の原因となりやすい要因です。

予防の方法としては、まず神経系の病気の早期発見と適切な治療が重要です。例えば、糖尿病を持つ方は血糖値の管理を徹底し、神経障害の進行を遅らせることが予防につながります。

また、腰痛や背骨に関わる問題を持つ方は、無理な動作や姿勢に注意し、脊髄に負担をかけない生活習慣を心掛けることが大切です。

定期的な医療機関でのチェックアップや神経系の健康維持も、神経因性膀胱の発症リスクを軽減するための有効な手段です。


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