

監修医師:
大坂 貴史(医師)
目次 -INDEX-
小児ネフローゼ症候群の概要
小児ネフローゼとは、子どもに起こる「ネフローゼ症候群」という腎臓の病気の一種です。ネフローゼとは、尿に大量のたんぱく質が漏れ出すことによって、体にさまざまな異常が起こる状態を指します。特に、小児期に発症するものを「小児ネフローゼ」と呼び、3歳から6歳の間に多く見られます。
この病気では、腎臓の中で血液をろ過する「糸球体(しきゅうたい)」という部分の働きがうまくいかなくなります。糸球体は本来、体に必要なたんぱく質を血液中にとどめておく役割をしていますが、ネフローゼになるとその機能が弱まり、たんぱく質が大量に尿中に流れ出てしまいます。
その結果、体に必要なたんぱく質が失われ、血液の中の水分が血管外に漏れ出してしまい、全身にむくみが起こるようになります。顔が腫れぼったくなったり、お腹が膨れたり、まぶたや足がむくんだりといった変化が特徴的です。放っておくと、栄養不足や感染症、血栓症などの合併症を引き起こすこともあるため、早期の診断と治療がとても大切です。
小児ネフローゼ症候群の原因
小児ネフローゼの多くは「一次性ネフローゼ」と呼ばれるもので、原因がはっきりと特定できないことがほとんどです。つまり、風邪や怪我など特別なきっかけがなく、突然発症することが多いのです。このタイプは「微小変化型ネフローゼ症候群」と呼ばれることもあり、腎臓の組織を顕微鏡で見ても目立った異常が見られないのが特徴です。
一方で、まれにウイルス感染や薬剤、アレルギー反応、遺伝的な素因などが関係している場合もあり、こうしたケースは「二次性ネフローゼ」と呼ばれます。また、ごく一部の患者では、先天的な腎臓の異常や遺伝子の変化が原因で起こる「先天性ネフローゼ」が存在しますが、これは生後すぐに発症し、重症化しやすいタイプです。
どのタイプであっても、腎臓の糸球体の構造や機能に何らかの異常が起こることが共通しており、その結果、たんぱく質の漏れ出しという症状が現れるのです。
小児ネフローゼ症候群の前兆や初期症状について
小児ネフローゼの初期症状として最もわかりやすいのは、「むくみ」です。とくに朝、まぶたが腫れぼったくなることが多く、「なんとなく顔が丸くなった」「お腹がふくれてきた」といった変化から気づかれることがあります。進行すると、足首や太もも、背中などにもむくみが広がっていき、体重が急激に増える場合もあります。
むくみの他にも、「おしっこの量が少ない」「尿が泡立つ」といった尿の変化も初期のサインです。これは尿中に大量のたんぱく質が漏れ出ているためで、特に朝起きたときに尿が泡立っていることに気づくことがあります。
病気が進行してくると、体の中のたんぱく質や水分のバランスが崩れ、倦怠感、食欲不振、腹痛などの症状が出ることもあります。また、血液中のたんぱく質が減ることで免疫力が下がり、風邪をひきやすくなったり、肺炎や腹膜炎といった感染症にかかりやすくなることもあります。
さらに、血液の粘り気が強くなることで、血管の中に血の塊(血栓)ができやすくなり、まれに脳梗塞や肺塞栓などの合併症を引き起こすこともあります。こうした合併症を防ぐためにも、早期の発見と治療が重要です。
小児ネフローゼ症候群の検査・診断
小児ネフローゼが疑われた場合、まず行われるのは尿検査です。尿中のたんぱく質の量を測ることで、腎臓からのたんぱく漏出があるかどうかを確認します。定性試験でたんぱく尿が「+++」や「++++」と出る場合には、ネフローゼ症候群の可能性が高くなります。
次に、血液検査によって血中のたんぱく質(アルブミン)の量を確認します。ネフローゼではこの数値が著しく低下しており、同時にコレステロールや中性脂肪が高くなる傾向が見られます。これらの変化は、ネフローゼ特有の体内の代謝異常を示しています。
さらに、必要に応じて超音波検査(エコー)で腎臓の大きさや構造を調べたり、重症例では腎生検といって腎臓の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査が行われることもあります。
また、血液中の免疫機能や感染症に関する検査を行い、二次性ネフローゼかどうかの見極めも行われます。診断が確定したら、症状の程度や経過を見ながら、治療方針が決定されていきます。
小児ネフローゼ症候群の治療
小児ネフローゼの治療の中心は、「ステロイド薬(副腎皮質ホルモン)」による内服治療です。これは、腎臓の炎症を抑えるとともに、たんぱく質の漏れを減らす効果が期待できます。多くの子どもはこの治療に良好に反応し、1〜2週間で尿たんぱくが消失することもあります。
治療開始後、尿たんぱくがなくなった状態を「寛解(かんかい)」と呼びます。ただし、ステロイドを急にやめてしまうと再発することがあるため、一定期間かけて少しずつ薬を減らしていきます。再発を繰り返す場合には、ステロイド以外の免疫抑制薬や抗アレルギー薬が使われることもあります。
また、むくみが強い場合には、利尿剤(おしっこを出しやすくする薬)や食事の塩分制限、水分制限が行われます。感染症を防ぐためには、手洗いやマスクの着用、必要に応じて予防接種などの工夫も必要になります。
学校生活や運動については、症状の安定度に応じて医師と相談しながら調整していくことが望ましいです。特に治療中は免疫が下がりやすいため、無理のない生活が求められます。ネフローゼは多くの子どもが良好な経過をたどる病気ですが、長期的な経過観察と家族の協力が必要となる病気でもあります。
小児ネフローゼ症候群になりやすい人・予防の方法
小児ネフローゼは、はっきりとした予防方法が確立されているわけではありません。特に微小変化型ネフローゼのように、原因が明確でないタイプでは、発症を予防するための具体的な対策は難しいのが現状です。
ただし、ウイルス感染がきっかけになることがあるため、風邪やインフルエンザなどの感染症を予防することは一定の効果が期待できます。手洗い・うがいの習慣づけや、必要に応じたワクチン接種、十分な睡眠と栄養バランスのとれた食事など、子どもの健康を守る基本的な生活習慣が重要です。
また、ネフローゼを一度発症したことがある子どもは、再発しやすい傾向があるため、日常生活での体調の変化を丁寧に観察することが大切です。体重が急に増えたり、まぶたや足のむくみが見られたりした場合には、早めに受診して医師に相談することをおすすめします。
小児ネフローゼは、早期に適切な治療を受けることで、十分にコントロール可能な病気です。多くの子どもたちは成長とともに再発が少なくなり、最終的には薬が不要になるケースも少なくありません。だからこそ、正しい知識をもって子どもの変化に気づき、早めに対処することが何よりも大切です。
参考文献




