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原発性アルドステロン症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

原発性アルドステロン症の概要

原発性アルドステロン症は、副腎皮質で作られるホルモンであるアルドステロンが、適切な制御を受けることなく分泌されてしまい、血中のアルドステロン濃度が異常に高くなってしまう疾患です。アルドステロンには血圧を上げる作用があるため、アルドステロンが増えてしまう原発性アルドステロン症の主な症状は高血圧で、高血圧の人の 5% が原発性アルドステロン症といわれています (参考文献 1) 。
原因には副腎にアルドステロンを無秩序に産生してしまうような腫瘍ができるタイプと副腎自体が異常に大きくなりアルドステロンの分泌量が増えてしまうタイプの2つが一般的です (参考文献 1, 2) 。
治療は片側の副腎に原因があれば手術を、左右両方の副腎に原因があれば薬物療法を行います (参考文献 3) 。
原発性アルドステロン症を放置すると脳卒中や心筋梗塞などの重大な疾患の発症につながります (参考文献 1)。高血圧だからといって軽視せず、しっかりと病院へ行って適切な治療を受けることが大切です。

原発性アルドステロン症の原因

原発性アルドステロン症の原因には大きく分けて次の二つがあるとされています (参考文献 1, 2) 。

  • 副腎の腫瘍が原因となるタイプ:40% ほど
  • 副腎皮質全体が通常より大きくなってしまう「副腎皮質過形成」が原因となるタイプ: 60~70%ほど
  • アルドステロンを産生する腫瘍が原因となるタイプではいくつかの遺伝子変異が腫瘍の形成に関連することが知られています (参考文献 1)。

後述する症状の理解をスムーズにするためにもアルドステロンのはたらきについても簡単に解説します。
アルドステロンは、腎臓の上に乗っかっている「副腎」という臓器から分泌されるホルモンで、腎臓でナトリウムや水分の再吸収を増やすことで血圧を保つ作用や、尿中にカリウムや酸を排泄することで血中カリウム濃度や血液の酸性度を調整する作用があります。
健康な人の身体ではアルドステロンの分泌量は血圧や体の中のミネラルの濃度によって厳密に調整されていますが、原発性アルドステロン症ではこの調整が機能せず、副腎が勝手にアルドステロンが分泌されてしまいます。

原発性アルドステロン症の前兆や初期症状について

原発性アルドステロン症の症状として有名なのは高血圧です。高血圧のなかには生活習慣が原因となるもののほかに他の疾患が原因となる二次性高血圧がありますが、原発性アルドステロン症は後者の代表的原因疾患です。近年では原発性アルドステロン症に罹患している人が、以前考えられていたよりも多いことが知られてきており、今日では高血圧患者のなかで原発性アルドステロン症を持つ患者さんの割合は 5% にものぼるのではないかと考えられています (参考文献 1) 。
原発性アルドステロン症では、過剰なアルドステロン分泌によって腎臓でのナトリウムや水分の再吸収量が増えて高血圧が持続しますが、血圧の値がかなり高くなることが特徴です。腫瘍が原因の患者では平均 184/112 mmHg 、過形成が原因の患者では平均 161/105 mmHg であったという報告があります (参考文献 2) 。
アルドステロンは尿中にカリウムを捨てる作用があるため、原発性アルドステロン症では低カリウム血症が引き起こされる場合があり、患者さんの約半数でみられます (参考文献 1) 。低カリウム血症自体が自覚症状を引き起こすことは少ないかもしれませんが、高血圧の患者さんで原因を探るうえでは重要な所見のひとつになっています。
病院で検査をしないと原発性アルドステロン症かどうかは分かりようがなく、一般の方が自分で気づける初期症状は「高血圧」なので、検診で指摘されたり、日々の血圧計測で血圧が上がってきたことに気づいたら早めに近くの内科を受診しましょう。

原発性アルドステロン症の検査・診断

先ほど紹介したとおり、高血圧の患者さんの 5% が原発性アルドステロン症に罹患しているとされています。現在では高血圧の患者さんに対して、原発性アルドステロン症の可能性がないかをチェックするスクリーニング検査が広く行われるようになりました (参考文献 1, 3) 。スクリーニング検査ではアルドステロンや、アルドステロンを作るためのスイッチとなる物質の濃度を測定して、アルドステロンが分泌されすぎていないか、アルドステロンが無秩序に出ていないかを確かめることが推奨されています (参考文献 3) 。
スクリーニング検査に引っかかり、様々な追加の検査をしたうえで「原発性アルドステロン症があるかもしれないぞ」となれば、次は原因を探ります。
CTなどの画像検査で副腎の状態を視覚的に確認したり、カテーテルで左右の副腎から返ってくる静脈の中のアルドステロン濃度を左右で比較したりして、原発性アルドステロン症の患者さん個人個人の特徴を探ります (参考文献 3) 。

原発性アルドステロン症の治療

原発性アルドステロン症を無治療のまま放置していると、脳卒中や心筋梗塞などの高血圧によって誘発される重大な病気に進展することがあります (参考文献 1) 。
原発性アルドステロン症の場合には高血圧に対する対症療法のみでは不十分で、原発性アルドステロン症に対する根本的な治療をすることが、重大疾患の発症を防ぐために重要であるとされています (参考文献 1) 。
左右の副腎のうち片方に原因がある場合には手術療法が、両方に問題がある場合にはアルドステロンの作用を弱める薬での治療をすることが一般的です (参考文献 1, 3) 。
副腎はアルドステロンのみならず、生命維持に必要不可欠なホルモンの多くを作る重要な臓器なので、両方に原因がある場合には「両方とってしまおう!」ということにはならないのです。
片側のみの場合にも手術を希望されない方は薬物療法を中心に考えていくこともできますが、手術を選択した場合よりも注意深い経過観察が必要となる場合があります (参考文献 1) 。

原発性アルドステロン症になりやすい人・予防の方法

原発性アルドステロン症の患者酸の一部は遺伝要素が絡んでいることが知られていて、家族性高アルドステロン症ともよばれています。家族性高アルドステロン症は原発性アルドステロン症と診断された人のうち、 ①20歳未満での発症 ②若年発症の高血圧や、血縁者に原発性アルドステロン症患者がいることが分かっている③本人や血縁者が40歳未満で脳卒中なったことがある ④重度の副腎過形成がある といった特徴がある方で疑われます (参考文献 4) 。
これを考えると、若いうちから血圧が高かったり脳卒中になっていたりする人、またはそのような人と血縁関係にある人は、原発性アルドステロン症の症状が将来出てくる可能性が比較的高いといえるでしょう。
原発性アルドステロン症の病態から考えると、「ならないための予防」よりは「重症化の予防」に目を向けるのがよいかもしれません。検診などで血圧が高いと指摘されたらしっかりと病院へ行き、血縁者に原発性アルドステロン症を疑わせるような既往がある人がいれば、担当の医師へ伝えましょう。早めに適切な診断・治療にたどり着くことが重要です。


参考文献

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