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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

夜間頻尿の概要

夜間頻尿は、多くの高齢者を悩ませる代表的な下部尿路症状のひとつです。
「夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという愁訴」と定義されています。

生活の質(QOL)の低下に強く関連する訴えですが、QOLが障害されていなければ治療は必須ではありません。
実際にQOLに影響すると考えられるのは、夜間睡眠中2回以上起きなければいけない状態です。

夜間頻尿の頻度は、男女ともに加齢にともなって高まります。
尿意により中途覚醒を繰り返すことで、睡眠の質が悪化し、日中の眠気や活動性の低下につながります。
さらに、夜間の転倒、それにともなう骨折などの怪我を引き起こし、生命予後を悪化させる可能性もあるのです。

夜間頻尿の背景には多彩な疾患が存在するといわれています。
泌尿器科、婦人科疾患に始まり、睡眠障害や内科疾患など、幅広い領域にまたがって原因が認められます。
適切な治療選択のためには、正確な病態の把握が欠かせません。

夜間頻尿の原因

夜間頻尿の原因は大きく分けて、夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の3つです。

膀胱容量の減少に夜間多尿がともなっていたり、睡眠障害に夜間多尿をともなっていたりすることもあります。
3つの要因は重なる部分も多く、単一または複数で影響していると考えられます。

夜間多尿

夜間多尿とは、睡眠時の尿生産量が多い状態のことです。

夜間頻尿に関係する夜間多尿には、24時間尿量が多い場合と夜間睡眠時のみ尿量が多い場合があります。

尿量が多くなる原因として、水分の過剰摂取、抗利尿ホルモン分泌の日内変動の変化、心血管性、薬剤性などがあげられます。

膀胱蓄尿障害

膀胱蓄尿障害は、膀胱容量の減少により、膀胱にためられる尿の量が少量となる状態のことです。

膀胱容量自体が低下する場合と、膀胱内残尿の増加により尿をためられる膀胱容量が低下する場合があります。

原因として以下の疾患があげられます。

  • 過活動膀胱
  • 間質性膀胱炎
  • 膀胱痛症候群
  • 前立腺肥大症
  • 前立腺がん
  • 骨盤臓器脱

中高年の男性における夜間頻尿の原因として、特に前立腺肥大症は頻度が高く、重要です。
中高年女性においては、腟から骨盤内臓器(膀胱や子宮など)が脱出してしまう骨盤臓器脱により夜間頻尿となることがあります。

睡眠障害

睡眠障害は、何らかの原因で寝つきが悪くなったり、睡眠が浅く分断されやすくなったりする状態です。

夜間頻尿と睡眠障害は合併頻度が高く、相互に関係しているといわれています。
夜間に尿意を感じると中途覚醒し、中途覚醒すると尿意を感じるというような関係性です。
この関係性から悪循環をきたしやすいとされています。

高齢者では特に、夜間頻尿と睡眠障害のどちらもあらわれやすく、両者をともに治療していくことが重要となります。

また、睡眠障害には、他の疾患が関与している場合も少なくありません。
糖尿病、パーキンソン病、レストレッグス症候群(むずむず脚症候群)、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などは、不眠だけでなく夜間頻尿も起こりやすいとされています。

夜間頻尿の前兆や初期症状について

夜間頻尿は、就寝中に排尿のために1回以上起きなければならず、QOLが低下する場合に問題となります。

夜間の排尿回数は、寝る前の水分摂取量や睡眠時間の長さなどによっても個人差があります。
そのため、実際の臨床現場では、2回以上トイレに起きてしまう場合をQOL低下につながるとして、問題視する傾向にあります。

夜間何度もトイレへ行く場合は、泌尿器科を受診し、医師に相談することをおすすめします。

その他にもみられる可能性があるのは、夜間頻尿の原因である多尿や膀胱蓄尿障害に関連した症状です。

  • 昼夜ともに頻尿である
  • 尿意切迫感、排尿困難、残尿感などの下部尿路症状

上記の症状が夜間頻尿とともに、または先行してあらわれる可能性があります。

夜間頻尿の検査・診断

夜間頻尿の診断では、基本的に病歴・症状の聴取、身体所見、尿検査による評価が行われます。

必要に応じて検査が追加され、夜間頻尿の主な原因である夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の有無を検索します。

夜間頻尿の原因を明らかにするために重要とされる検査が排尿記録です。
特に、日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医の診察において必須の検査とされています。

排尿記録

排尿記録とは、24時間にわたり毎回の排尿時刻や排尿量を記録するものです。
就寝時間と起床時間も記載することで、睡眠中の排尿回数と排尿量を知ることができます。

調査期間として一般的に連続3日間、最低でも2日間が必要です。

排尿記録に加え、水分摂取量や尿意切迫感、尿失禁回数などを記録する排尿日誌というものもあります。

排尿日誌により知ることができる項目は以下のとおりです。

  • 昼間・夜間睡眠中排尿回数
  • 24時間排尿回数
  • 24時間尿量
  • 多尿の有無
  • 夜間尿量
  • 夜間多尿の有無
  • 最大排尿量

夜間頻尿の診断や治療の評価に利用されます。

夜間頻尿の治療

診断により特定された原因それぞれに対して治療が行われます。

夜間頻尿に対する治療について、多尿・夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の3つの原因に対応した治療を紹介します。

多尿・夜間多尿

まず第一選択として、非薬物療法である飲水指導、運動療法、減塩指導などが行われます。

夜間の飲水過多、アルコール、カフェインの摂取は、夜間多尿を引き起こす因子です。
飲水指導では、これらを避けるよう指導します。

特に飲水過多が原因となる場合、飲水指導は有効です。
1日に尿量20〜25mL/kg(体重)となるよう飲水量を調整することが推奨されています。

運動療法では、夕方あるいは夜間における運動により、間質にたまっている水分を汗として排出する効果が期待できます。
推奨される運動は、散歩やダンベル運動、スクワットなどです。

減塩指導は、塩分過剰摂取がある患者さんに行われます。
夜間多尿の改善には、どの程度1日食塩摂取量を減らすべきかは明確ではありません。
しかし、減塩により夜間頻尿の軽減が期待されるため、目標値として6g/日未満が推奨されています。

薬物療法としては、男性の夜間多尿に対してデスモプレシンが保険適用となっています。

膀胱蓄尿障害

膀胱蓄尿障害の治療は、原因と症状に応じて薬物療法が行われ、場合によっては手術も含まれます。

過活動膀胱と前立腺肥大症は、どちらも頻度の高い膀胱蓄尿障害です。

過活動膀胱では、抗コリン薬、β3アドレナリン受容体作動薬による治療が有効とされています。

前立腺肥大症では、α1アドレナリン受容体遮断薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、5α還元酵素阻害薬による治療が有効です。

睡眠障害

まずは非薬物療法から開始し、必要に応じて薬物療法を行います。

非薬物療法として、よく眠れるような環境の整備や生活リズムの改善も重要です。

薬物療法としては、不眠の症状によって睡眠薬を使い分けることが重要とされています。

夜間頻尿になりやすい人・予防の方法

夜間頻尿の頻度は、男女どちらも年齢とともに急上昇します。

加齢以外のリスク因子としては、以下があげられます。

  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 脳血管障害
  • 利尿薬の利用
  • 心疾患
  • 腎泌尿器疾患
  • 肥満
  • 睡眠障害

加齢が関連する疾患も多く、夜間頻尿において年齢による影響が大きいことがわかります。

夜間頻尿の予防として、生活習慣の改善があげられます。

推奨される具体的な生活指導の内容は、以下のとおりです。

  • 就寝前の飲水を控える
  • 就寝前3〜4時間のアルコールやカフェイン類は避ける
  • 就寝前1時間、中途覚醒時の喫煙は避ける
  • 就寝1時間前から部屋の照明は暗くして、音楽、香りなどリラックスできるような環境を作る
  • 昼間に光を浴びる
  • 朝一定の時間に起床する
  • 規則正しい食事習慣
  • 入床1〜2時間前に入浴する
  • 昼食後に約30分の昼寝をする
  • 夕方に軽い運動を行う

上記の習慣をできる限り実行することで、夜間頻尿の予防や改善につながる可能性があります。


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