監修医師:
荘子 万可(to clinic shibuya)
プロフィールをもっと見る
杏林大学医学部卒業。京都府立医科大学 泌尿器科学教室 病院助教として、泌尿器科や男性医療、透析医療に従事。壮年期以降の身体的・精神的パフォーマンスの低下や健康リスクの増大を大きな社会的課題と認識し、2024年7月より、ビジネスパーソンへ人生を一気通貫したヘルスケアを提供することをミッションとして、「to clinic shibuya」 を開院。日本泌尿器科学会認定泌尿器科専門医、日本抗加齢医学会専門医、日本メンズヘルス医学会テストステロン治療認定医。
急性腎不全の概要
概要
急性腎不全(AKI)は、急激に腎機能が低下する疾患で、腎臓が老廃物や余分な水分を正常に排出できなくなる状態を指します。急性腎不全は短期間に発症し、治療が遅れると深刻な合併症や死亡に至る可能性がありますが、早期に適切な治療を受けることで完全な回復が可能なこともあります。
分類
急性腎不全は一般に以下の3つのカテゴリーに分類されます。
- 腎前性(Prerenal AKI):
腎臓への血流が不足することによって生じます。 - 腎性(Intrinsic AKI):
腎臓そのものに損傷がある場合に生じます。 - 腎後性(Postrenal AKI):
尿の排出に障害があり、腎臓に負担がかかる場合に生じます。
急性腎不全の原因
急性腎不全の原因は多岐にわたりますが、代表的な要因としては以下のものがあります。
腎前性の原因
- 脱水:
嘔吐や下痢、大量の出血による体液喪失。 - 低血圧:
心臓のポンプ機能の低下、重篤な感染症(敗血症)、大規模な手術など。 - 薬剤:
利尿剤、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、ACE阻害薬やARBなどの降圧薬。
腎性の原因
- 急性尿細管壊死(ATN):
腎臓の尿細管の損傷のことで、ショック、敗血症、毒素(薬物や造影剤)によって引き起こされることが多いです。 - 急性間質性腎炎:
薬物や感染症に対する免疫反応によって起こります。 - 糸球体腎炎:
様々な原因で腎臓の糸球体と呼ばれる部位に炎症が起こる疾患群です。
腎後性の原因
- 尿路閉塞:
尿管結石、前立腺肥大、腫瘍などによる尿の流出障害によって起こります。 - 尿路狭窄:
尿路の一部が狭くなることで尿の排出が困難になり、尿の流出障害が起こります。
急性腎不全の前兆や初期症状について
急性腎不全の前兆や初期症状は多岐にわたりますが、以下のような症状が一般的です。
- 尿量の減少:
急激な尿量の減少、無尿または乏尿(24時間で400ml以下の尿)。 - 疲労感や倦怠感:
腎機能低下に伴う代謝物の蓄積によって起こります。 - 呼吸困難:
尿量低下に伴い体内に余分な水が蓄積することで生じます。 - 浮腫(むくみ):
呼吸困難と同様の原因で起こります。足や顔などから見られ、進行すると全身の浮腫となります。 - 意識混濁やけいれん:
重症例では、尿毒素の蓄積に伴う神経系の症状が現れることがあります。
急性腎不全の検査・診断
急性腎不全の診断には以下の検査が用いられます。
血液検査
血中クレアチニンや尿素窒素(BUN)を測定し、腎機能の評価を行います。クレアチニンの急激な上昇がAKIの指標となります。
尿検査
尿中の蛋白質、赤血球、白血球の有無、尿比重などを評価します。
画像診断
腎臓の超音波検査やCTスキャンを用いて、腎臓の形態異常や尿路閉塞を確認します。
生検(組織検査)
腎臓の損傷の原因が明確でない場合や特定の腎疾患が疑われる場合に行われます。
急性腎不全の治療
急性腎不全の治療は原因と症状に応じて異なりますが、一般的なアプローチは以下の通りです。
原因に対する療法
- 腎前性急性腎不全:
輸液や血圧管理により腎血流の回復を図ります。 - 腎性急性腎不全:
原因に応じた治療を行います。
(例:薬剤性の場合は薬物中止、感染症の場合は抗生物質の投与) - 腎後性急性腎不全:
尿路閉塞の解除を図ります。
(例:カテーテル挿入や手術による結石除去)
支持的治療
- 利尿薬の使用:
浮腫や過剰になった体液を管理するために使用されることがあります。 - 血液透析:
機能が急激に低下し、体液や老廃物が危険なレベルに達した場合に体外的に老廃物と溜まっている水分を除去する目的で行われます。
急性腎不全になりやすい人・予防の方法
急性腎不全になりやすい人
- 高齢者:
加齢に伴う腎機能低下が背景にある高齢者は、急性腎不全のリスクが相対的に高いです。 - 既往歴のある人:
糖尿病、高血圧、慢性腎臓病のある人はリスクが高いです。 - 多量の薬物を服用している人:
特定の薬剤は腎機能に影響を与える可能性があります。
予防の方法
- 十分な水分補給:
特に脱水のリスクが高い環境や状況では重要です。 - 適切な薬物管理:
腎機能に影響を与える薬剤の使用に注意し、医師の指導のもとで服用します。 - 定期的な健康診断:
腎機能の定期的な評価を行い、早期の異常を見逃さないようにします。
参考文献
- KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury. Kidney International Supplements, 2012.
- Palevsky, P. M., et al. (2020). “Definition and classification of acute kidney injury.” Critical Care Medicine.
- Bellomo, R., et al. (2012). “Acute kidney injury.” The Lancet, 380(9843), 756-766.
- Kellum, J. A., & Prowle, J. R. (2018). “Acute kidney injury: Clinical practice guidelines and beyond.” Current Opinion in Critical Care.