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腎不全(総論)
村上 知彦

監修医師
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

腎不全の概要

腎不全は腎臓の機能が正常の約30%以下にまで低下した状態を指します。腎臓は、血液をろ過して老廃物や水分を取り除き、尿を生成する重要な器官です。そのため、腎不全になると体内に老廃物や余分な水分が蓄積し、全身にさまざまな症状が現れます。

腎不全は、大きく急性腎障害と慢性腎臓病の2つに分類されます。
急性腎障害は、約数日間の経過で急激に体調が悪化し、尿が出なくなるなど緊急の治療が必要となる状態です。これには、腎臓に十分な血液が流れてこないために機能が低下する急性腎前性腎不全、腎臓の細胞が損傷を受けて機能が低下する急性腎性腎不全、そして尿管や膀胱のどこかが詰まって尿が流れなくなる急性腎後性腎不全があります。
慢性腎臓病は、約数ヵ月〜数年単位で徐々に腎機能が低下していく状態です。初期には自覚症状がない傾向があり、健康診断などで指摘されるケースが多いとされています。

腎不全が進行すると、血液をろ過する機能が低下するため、体内の水分バランスや電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン)濃度の調整がうまくいかなくなり、高血圧や貧血が生じます。
また、腎臓が新しい赤血球の生産を促すホルモン(エリスロポエチン)を十分に分泌できなくなることで、赤血球数が減少し、貧血が進行します。さらに、骨の健康に必要なカルシトリオール(活性型ビタミンD)を十分に作り出せなくなるため、骨が弱くなる場合もあります。

腎不全の原因

急性腎不全は、腎前性腎不全、腎性腎不全、腎後性腎不全の3つに分類されます。以下にそれぞれの原因を説明します。

  • 腎前性腎不全:腎前性腎不全は、腎臓への血流の減少が原因で発生します。脱水症、心不全、大量出血、血圧の低下、腎梗塞などが含まれます。これらの状態が続くと、腎臓に十分な血液が供給されず、機能が低下する場合があります。
  • 腎性腎不全:腎性腎不全には急性腎炎や薬剤性腎障害があり、腎臓の細胞や組織が損傷を受けることで、ろ過機能の低下につながります。
  • 腎後性腎不全:腎後性腎不全は、尿の排出経路に発生します。前立腺肥大症、尿管結石、膀胱がんなどが原因で尿の流れが妨げられると、腎臓に負荷がかかり機能の低下につながります。

慢性腎不全の原因は、主に糖尿病と高血圧ですが、その他の原因も併せて以下に紹介します。

  • 糖尿病性腎臓病:糖尿病は、腎臓の微細な血管を損傷する場合があるため、慢性腎不全の主要な原因になる可能性があります。高血糖状態が続くと、腎臓の血管に負担がかかり、ろ過機能の低下につながります。
  • 高血圧:高血圧もまた、腎臓の血管に直接的な損傷を与える場合があります。高血圧状態が長期間続くと、腎臓の血管が硬化し、ろ過機能が徐々に失われていく可能性があります。
  • その他の原因:慢性糸球体腎炎、腎硬化症、尿路閉塞、多発性嚢胞腎、自己免疫疾患などが挙げられます。これらの病態は、腎臓の微細な血管や組織に長期間にわたって損傷を与える場合があり、腎機能の低下を引き起こす可能性があります。

急性腎障害が適切に治療されずに慢性化する場合もあり、この場合は慢性腎不全として扱われます。したがって、急性腎障害のリスク要因も慢性腎不全の原因になる可能性があります。

腎不全の前兆や初期症状について

腎不全は大きく急性腎不全と慢性腎不全に分類されます。症状が表れた場合は、腎臓内科や内科、泌尿器科を受診しましょう。以下に、それぞれの前兆や症状について説明します。

急性腎不全

急性腎不全の主な前兆として、体液の過剰な貯留による体重増加や、足、足首、顔、手のむくみが見られます。尿量が減少する場合が多く、健康な成人の尿量が1日750mLから2リットル程度であるのに対し、急性腎不全では1日500mL以下になる場合があります。尿がほとんど出なくなる無尿もあります。

急性腎不全が持続し、老廃物が体内に蓄積すると、疲労感や頭を使う作業での集中力の低下、食欲不振、吐き気、全身のかゆみ(そう痒)などの症状が現れる場合があります。さらに進行すると、胸痛、筋肉のひきつり、けいれん発作、息切れなどの重篤な症状が出る可能性もあります。特に、尿がコーラ色になった場合は、糸球体腎炎などの腎疾患が疑われます。

慢性腎不全

慢性腎不全の初期症状には夜間頻尿があり、腎臓の濃縮機能が低下するために起こります。
腎機能がさらに低下すると、血液中に老廃物が蓄積し、疲労感や全身的な脱力感、注意力の低下が見られるようになります。食欲不振や息切れ、貧血も症状のひとつであり、これらが重なることで症状は悪化します。

老廃物の蓄積により、吐き気や嘔吐、不快な味覚が現れ、低栄養や体重減少につながる場合もあります。慢性腎不全の患者さんは、あざができやすく、出血が長引く傾向があります。
また、感染に対する抵抗力が低下し、痛風による急性関節炎や関節の腫れ、痛みが起こる場合があります。

筋力低下やけいれん、痛みが生じる場合もあります。ほかにも、腕や脚にチクチクする感覚や部分的な感覚の喪失、レストレスレッグス症候群が見られたり、脳症が発症すると、錯乱や嗜眠、けいれん発作が現れたりする場合があります。
心不全を併発すると息切れが生じ、体のむくみが特に脚に見られます。進行した慢性腎不全の患者さんでは、消化管潰瘍や消化管出血が多発し、皮膚が黄褐色に変色する場合があります。汗に含まれる尿素が結晶化して皮膚に白い粉が発生したり、全身にかゆみが生じたり、息が臭くなる場合もあります。

腎不全の検査・診断

腎不全が疑われる場合、主に血液検査、尿検査、画像検査、および腎生検が行われます。血液検査では、クレアチニンや尿素窒素の濃度を測定し、腎機能の低下を確認します。これらの濃度が高い程、腎機能の低下が進んでいることを示します。
また、カリウムやリンなどのミネラル濃度も測定され、代謝機能のバランスが評価されます。慢性腎不全が疑われる場合には、貧血の原因となるエリスロポエチンの値も測定されます。

尿検査では、尿中のタンパク質や糖の有無を調べ、腎臓のダメージの程度を評価します。簡易検査紙で行われる場合が多いようですが、詳細な分析のために尿中のタンパク質量を測定する場合もあります。

画像検査には、腹部超音波検査やCT検査が用いられ、腎臓の腫れや萎縮、腫瘍、尿管や膀胱の異常などを確認します。水腎症や膀胱の膨張の特定にも役立ちます。血管の閉塞が疑われる場合には、血管造影検査が行われる場合もあります。

腎生検は、慢性糸球体腎炎などの腎臓自体の病気が疑われる場合に行われます。この検査は腎臓に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で調べます。

腎不全の治療

腎不全の治療は、急性腎不全と慢性腎不全で異なります。
急性腎不全では、原因となる病気の治療と腎不全の症状改善が並行して行われます。例えば、尿路の閉塞を解消するためにカテーテル挿入が行われ、食事療法や水分制限、利尿剤の使用なども行われます。
腎機能が著しく低下している場合には、血液浄化療法が一時的に実施されます。腎臓に負担をかける薬剤の使用制限や、水分、ナトリウム、リン、カリウムの摂取制限も重要です。高カリウム血症や高リン血症には、カリウム濃度を下げる薬剤やリン吸着剤が投与されます。
食事療法と薬物療法で効果がない場合や腎機能低下が長期化した場合には、透析が行われます。

慢性腎不全では、腎機能のさらなる低下を防ぐ治療が目的とされます。ステロイドなどの薬物療法、血圧管理、電解質や水分の制限を含む食事療法が行われます。むくみには利尿剤が、カリウムやリンの異常にはそれらを調整する薬剤が使用されます。
腎機能が著しく低下している場合には、人工透析や腎移植が必要です。食事療法では、タンパク質の摂取制限や果物と野菜の摂取量の調整が行われ、リンを多く含む食品の摂取を制限します。中性脂肪とコレステロールを抑えるためにスタチン系薬剤が使用される場合もあります。

腎不全になりやすい人・予防の方法

腎不全になりやすい方には、いくつかの共通したリスク要因があります。

  • 糖尿病や高血圧を患っている
  • 慢性腎臓病や腎不全の家族歴がある
  • 高齢者の方
  • 肥満、喫煙、心血管疾患、および薬剤の長期使用など

以上から、腎不全を予防するにはいくつかの方法があります。

糖尿病や高血圧を患っている患者さんは、血糖値や血圧を適切に管理すると、腎臓へのダメージを減少させる可能性があります。
また、適切な食事療法も腎不全の予防に重要です。塩分の摂取を制限し、バランスの取れた食事を心がけることが推奨されます。カリウムやリンの摂取量を管理し、過剰なタンパク質の摂取を避け、適切な量を守りましょう。
定期的な運動も腎不全の予防につながります。適度な運動は血圧のコントロールや体重管理に役立ちます。
禁煙も推奨されています。喫煙は血管を収縮させ、腎臓への血流を減少させる場合があるためです。

これらの予防策を実践し、定期的な健康チェックと生活習慣の見直しを通じて、腎機能を保護しましょう。


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