監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
過活動膀胱の概要
過活動膀胱(OAB: Overactive Bladder)は、急に我慢できない強い尿意(尿意切迫感)を感じることを主な症状とする病気です。正常な膀胱は脳からの指令によってコントロールされていますが、過活動膀胱では膀胱がコントロールを失ったような状態となり、少量の尿がたまっただけでも膀胱が過剰に反応してしまいます。そのため、トイレが近くなったり(頻尿)、就寝後何回もトイレに起きたり(夜間頻尿)、強い尿意によりトイレにたどりつくまでに我慢ができずに尿が漏れる(切迫性尿失禁)などの症状が現れるのが特徴です。
過活動膀胱は比較的よく見られる病気であり、日本では40歳以上の男女の約12.4%(約810万人)が過活動膀胱に罹患していると報告されています。高齢になるほどその頻度は高くなり、70歳以上では4人に1人が過活動膀胱で悩んでいるともいわれています。過活動膀胱は生活の質(QOL)を大きく低下させるため、適切な治療が求められます。
過活動膀胱の原因
過活動膀胱の原因は、脳と膀胱の間の神経伝達に障害が起きることで、排尿に関する指令がうまく伝わらなくなってしまいます。通常は膀胱に尿が溜まることで、膀胱から脳へ信号が伝わり、尿意を催します。しかし過活動膀胱では、排尿が溜まりきる前に膀胱が収縮し、尿意を催してしまうのです。
尿が溜まる前に膀胱が収縮してしまう原因ははっきりとはわかっていませんが、加齢やストレス、脳や神経の障害によって引き起こされていると考えられています。
過活動膀胱を引き起こす疾患は、以下の通りです。
異常のある箇所 | 疾患 |
---|---|
脳に異常がある場合 | ・脳血管疾患 ・パーキンソン病 ・脳腫瘍 ・多系統萎縮症 ・正常圧水頭症 ・進行性核上性麻痺 ・大脳白質変性症 |
脊髄に異常がある場合 | ・脊髄損傷 ・椎間板ヘルニア ・多発性硬化症 ・脊髄小脳変性症 ・脊髄腫瘍 ・頸椎症 ・後縦靭帯骨化症 ・脊柱管狭窄症 |
末梢神経に異常がある場合 | ・糖尿病性末梢神経障害 |
神経の病気がなくても、前立腺肥大症や加齢による膀胱機能の変化、明らかな原因疾患がない(特発性)場合なども過活動膀胱を引き起こす可能性があります。
また、生活習慣や環境要因も過活動膀胱の発症に影響を与えます。例えば、過剰なカフェインやアルコールの摂取、肥満、便秘、ストレスなどが膀胱の過敏性を高める要因となります。これらの要因が複雑に絡み合って過活動膀胱を引き起こすことが多いです。
過活動膀胱の前兆や初期症状について
過活動膀胱の前兆や初期症状としては、以下のようなものがあります。
強い尿意
膀胱に尿が少ししかたまっていないにもかかわらず、急に強い尿意を感じる状態です。このような尿意切迫感は、日常生活や仕事中に突然起こることが多く、生活に支障が出る場面もあります。
頻尿
頻尿とは、日中に8回以上トイレに行く状態を指します。夜間頻尿も初期症状の一つであり、夜中に1回以上トイレに起きることが頻繁に起こります。これにより、睡眠の質が低下し、日中の活動に支障をきたすことがあります。
切迫性尿失禁
強い尿意を感じた際にトイレに間に合わずに尿が漏れてしまう状態です。冷たい水に触れた時や水の音を聞くと強い尿意を催して、漏れてしまうことが起こりやすくなります。
これらの症状がみられた場合、 泌尿器科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。
過活動膀胱の検査・診断
ここでは、過活動膀胱診断するまでの検査について解説します。
問診
患者さんの症状や生活習慣、既往歴などを詳しく聞き取り、過活動膀胱の可能性を評価します。具体的には、尿意切迫感、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁などの症状の有無や頻度を確認します。
尿検査
尿検査では、尿の成分や性質を分析し、血尿や細菌が入っていないか確認します。過活動膀胱と同じく頻尿を呈する疾患に、膀胱炎(間質性膀胱炎)があります。過活動膀胱は一般的に尿を「止める」治療になるため、膀胱炎がある場合悪化させてしまうかもしれません。尿トラブルにおいて、尿検査は必須の検査です。
超音波検査、残尿測定
超音波検査では、膀胱や腎臓の状態を確認し、結石や腫瘍などの異常がないかを調べます。残尿測定では、排尿後に膀胱内に残っている尿の量を測定し、排尿機能の評価を行います。
過活動膀胱症状質問票(OABSS)
過活動膀胱症状質問票(OABSS)は、症状の重症度を評価するためのシートです。尿意や排尿回数に関する4つの質問に対し、該当する回数の項目を選択します。
各質問にはそれぞれスコアが設定されており、全ての質問のスコアを合計して重症度を評価する形式です。質問の「急におしっこがしたくなり、我慢が難しいことがありましたか」の項目で週に1回以上を選択し、さらに全質問の総合点数が3点以上であれば過活動膀胱と診断されます。総合点数が5点以下は軽症、6~11点は中等症、12点以上は重症と判定されます。
これらの検査結果を総合的に判断し、過活動膀胱の診断が確定されます。診断が確定したら、適切な治療が開始されます。
過活動膀胱の治療
過活動膀胱の治療には、行動療法、薬物療法、その他の治療法があります。
以下でそれぞれ解説します。
行動療法
行動療法では、生活指導や膀胱訓練が行われます。生活指導で行うのは、水分摂取の見直し、便秘の改善、減量、今飲んでいる薬の見直しなどです。膀胱訓練では、尿意を少しだけ我慢することで膀胱の容量を増やし、2〜3時間の排尿間隔を目指します。また、膣や肛門を締めるようにトレーニングをする骨盤底筋訓練も有効です。
薬物療法
薬物療法では、抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体作動薬、漢方などが使用されます。抗コリン薬は、膀胱の収縮を抑えて、尿意切迫感を改善するのに効果的です。β3アドレナリン受容体作動薬は、膀胱の筋肉を弛緩させ、膀胱の容量を増やす効果があります。これらの薬物療法は、行動療法と併用して行われることが多いです。
その他の治療
難治性過活動膀胱に対しては、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法(ボトックス療法)や仙骨神経刺激療法(SNM)が行われます。ボトックス療法は、膀胱の筋肉にボツリヌス毒素を注射することで、膀胱の筋肉を弛緩させ、異常な収縮を抑える治療法です。SNMは、仙骨神経に電気刺激を与え、膀胱の過活動を抑える治療法です。
これらの治療法を組み合わせて、患者さんの症状に応じた最適な治療が行われます。治療の効果を評価しながら、必要に応じて治療法を調整していきます。
過活動膀胱になりやすい人・予防の方法
過活動膀胱になりやすい人
過活動膀胱になりやすい人には、いくつかの特徴があります。まず、大きな要因となるのは加齢です。年齢を重ねるとともに、膀胱の機能が低下しやすくなり、過活動膀胱のリスクが高まります。特に、70歳以上の高齢者では、過活動膀胱の発症率が高くなります。
また、前立腺肥大症や骨盤底筋群の筋力低下も過活動膀胱のリスクを高める要因です。男性では前立腺肥大症が原因となることが多く、女性では出産や加齢による骨盤底筋群の筋力低下が原因となることが多いです。
さらに、生活習慣や環境要因も過活動膀胱のリスクを高めることがあります。過剰なカフェインやアルコールの摂取、肥満、便秘、ストレスなどが膀胱の過敏性を高める要因となります。
予防方法
過活動膀胱の予防には、生活習慣の改善から始めていきましょう。適度な運動や体重管理、ストレスの解消を心がけましょう。カフェインやアルコールの摂取を控えることも効果的です。
便秘の改善や適正体重の維持も重要です。便秘があると膀胱に圧力がかかり、過活動膀胱のリスクが高まります。食物繊維を多く含む食事を心がけ、適度な運動を取り入れることで便秘が改善されます。また、肥満は膀胱に負担をかけるため、適正体重を維持することも大切です。
ストレスの管理も過活動膀胱の予防に役立ちます。ストレスが膀胱の過敏性を高めるため、リラックスする時間を持ち、ストレスを軽減する方法を見つけましょう。