

監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
成人アトピー性皮膚炎の概要
アトピー性皮膚炎(Atopic Derematitis:AD)は、アレルギー疾患のひとつで、かゆみを伴う湿疹や皮膚炎を慢性的に繰り返す病気です。
1980年代頃までは、主に乳幼児期や学童期に発症し、成長とともに軽快していくと考えられていました。しかし近年では、思春期を過ぎても症状が持続するケースや、思春期や成人期になってから新たに発症する例が増加しています。これらを成人アトピー性皮膚炎(または成人型アトピー性皮膚炎)とよびます。
日本における成人アトピー性皮膚炎の年代別有症率は、20代が10.2%、30代が8.3%、40〜60代が6.6%という調査結果もあります。
成人アトピー性皮膚炎の原因
成人アトピー性皮膚炎を発症する原因は完全には解明されていませんが、アトピー素因、バリア機能の異常などの個体要因に加え、ダニ、花粉や精神的ストレスといった環境・外的要因が複雑に絡み合っていると考えられています。また、発症原因に個人差があるのも特徴です。
個体要因1 アトピー素因
本疾患の患者さんの多くはアトピー素因を持つといわれています。アトピー素因とは既往歴・家族歴に気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のうち一つ以上があることを指します。加えて、アレルギー反応を引き起こす抗体であるIgE抗体を産出しやすい体質であることもアトピー素因とされています。
個体要因2 バリア機能の異常
角層や表皮のバリア機能異常により皮膚が乾燥し、アレルゲンや細菌の侵入が容易となることで湿疹やかゆみが生じます。
日本におけるアトピー性皮膚炎の患者さんの約20〜30%は、皮膚のバリア機能に重要な役割を果たすフィラグリン遺伝子というタンパク質に変異を持っていることが明らかになっています。フィラグリン遺伝子の変異はアレルギー性鼻炎や、喘息の発症因子でもあります。
環境・外的要因
成人アトピー性皮膚炎の外的要因は主に下記のとおりです。これらの外的刺激が発症または増悪の要因と考えられます。
- ハウスダスト・花粉
- 細菌やカビ
- 発汗
- 食物
- 金属
- 精神的・肉体的ストレス
- 生活環境の変化
成人アトピー性皮膚炎の前兆や初期症状について
本疾患の発症初期にはかゆみを伴う紅斑(赤み)や丘疹(盛り上がった発疹)がみられます。発症部位は顔や首、胸、背中など上半身が中心で、皮疹が首から顔に現れる顔面型や、かゆみの強い(丘疹)が体幹や四肢に多発する痒疹型があります。
皮疹は身体のどこにでも出現しますが、外的要因が加わる部位には早く、強く出現します。多くは左右対称であることも特徴です。
本疾患の症状が持続する患者さんの多くは、皮膚が乾燥傾向(乾燥皮膚、乾皮症、ドライスキン、アトピックスキン)にあり、慢性期になると皮膚の苔癬化や色素沈着が見られるようになります。一部の患者さんでは、湿疹が全身に広がり、紅皮症に至る重症例も見られます。
成人アトピー性皮膚炎は重症化や合併症を防ぐためにも早期の治療が大切です。疑わしい症状がみられた場合は皮膚科を受診してください。
成人アトピー性皮膚炎の検査・診断
成人アトピー性皮膚炎は、掻痒(そうよう)、特徴的皮疹と分布、慢性・反復性経過の3つの基本項目を満たした場合、症状の軽重を問わず診断されます。一方で、本疾患と症状が類似する皮膚疾患も多く、接触皮膚炎、脂漏生皮膚炎、疥癬、乾癬、膠原病などとの鑑別ないし合併の有無を確認することも重要です。診断の際に疾患の重症度を判定することで、適切な治療が可能となります。
検査
正確な診断と悪化因子の検索、適切な治療選択の補助として検査を行います。主な検査には血液検査による血清総IgE値、血清特異的IgE抗体の測定、末梢血好酸球数、血清LDH値、血清TARC値、皮膚検査(プリックテストなど)があります。
成人アトピー性皮膚炎の治療
現在、成人アトピー性皮膚炎を根治する治療法は確立されていません。そのため治療の最終目標は、症状がなくなるか(寛解の導入)、症状があっても軽微で日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に達し、それを維持すること(寛解の維持)にあります。
治療はスキンケア、薬物療法、悪化因子の対策の3本柱からなり、これらは科学的な根拠に基づいた有効性が明らかな標準治療として位置づけられています。
本疾患ではかゆみ、外見の問題、治療の負担などでQOL(Quality of Life:生活の質)が低下しやすいといわれており、QOLに配慮した治療が求められています。
スキンケア
患者さんの多くは、皮膚のバリア機能と水分量が低下し、乾燥状態にあります。保湿剤を用いたスキンケアを行うことで、皮疹が軽微な場合は症状が回復する場合があります。保湿剤にはワセリン、尿素含有軟膏、ヒルドイド含有軟膏などがあります。
皮膚の汚れを落とし、清潔に保つことも大切です。入浴やシャワーは皮膚バリア機能の回復に適した38〜40度で行い、入浴後は保湿剤を塗布し肌の乾燥を防ぎます。
薬物療法
この病気の治療で大切なことは、皮膚の炎症とかゆみを速やかに抑えることです。そのために、ステロイド外用薬、タクロリムス軟膏、デルゴシチニブ軟膏、ジファミラスト軟膏などの外用薬を用います。なかでもステロイド外用薬は、治療の基本となる薬剤で、皮疹の重症度、症状、部位に応じて適切な強さの剤型を使い分けます。
症状が重い場合および外用薬で十分な効果を得られない場合は、経口ステロイド薬や抗炎症内服薬(シクロスポリンやJAK阻害薬など)、さらにはデュピルマブという生物学的製剤の併用を検討します。
また、寛解の維持にはスキンケアと外用薬の塗布を定期的に行うプロアクティブ療法の有効性が認められています。
悪化因子の対策
成人アトピー性皮膚炎を症状を悪化させる原因は個人差があり、また、複数に及ぶ場合があります。なかでも精神的・肉体的ストレスが症状の悪化に深く関係している可能性が指摘されています。医師と相談しながら悪化因子を特定し、可能な限り除去または軽減することが大切です。
成人アトピー性皮膚炎になりやすい人・予防の方法
現代社会では、成人アトピー性皮膚炎を引き起こす要因が多く存在します。発症しやすい体質に加え、ハウスダストや花粉、生活環境の変化、食物・金属アレルギーなど原因は多岐にわたります。日常生活において、皮膚を清潔に保つこと、規則正しい生活を送ること、そして適切なストレス管理を行うことが、発症や症状の悪化を予防するうえで大切です。
関連する病気
- 接触皮膚炎
- 乾癬
参考文献
- 日本皮膚科学会ガイドライン.アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024
- 神庭直子 、石川利江.成人アトピー性皮膚炎患者におけるアトピー性皮膚炎に対する認知と
well-beingとの関連―アトピー性皮膚炎否定的認知尺度・アトピー性皮膚炎肯定的認知尺度の作成と認知パターンがQOLおよび自己肯定意識に及ぼす影響の検討―
- 市山進.アトピー性皮膚炎の病態と鑑別診断
- 秀道広 他.アレルギー性皮膚疾患診療の勘所
- 青木敏之 他.アトピー性皮膚炎発症要因調査の試み
- 厚生労働省.アトピー性皮膚炎の概要と基本的治療
- 厚生労働省.学童・成人アトピー性皮膚炎の臨床像・病態・経過
- 慶應義塾大学病院.アトピー性皮膚炎
- 山梨大学医学部附属病院アレルギーセンター.アトピー性皮膚炎




