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シラミ症
稲葉 龍之介

監修医師
稲葉 龍之介(医師)

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福井大学医学部医学科卒業。福井県済生会病院 臨床研修医、浜松医科大学医学部付属病院 内科専攻医、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員、磐田市立総合病院 呼吸器内科 医長などで経験を積む。現在は、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員。日本内科学会 総合内科専門医、日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本感染症学会 感染症専門医 、日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医。日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会(JMECC)修了。多数傷病者への対応標準化トレーニングコース(標準コース)修了。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。身体障害者福祉法第15条第1項に規定する診断医師。

シラミ症の概要

シラミ症とは、シラミが人間の頭皮や体毛、衣服などに寄生して発生する感染症です。 原因となるシラミは、羽を持たない小さな吸血性の昆虫です。頭髪に寄生するアタマジラミと、衣類などに潜んで吸血するコロモジラミ、主に陰毛などに寄生するケジラミの3種類があります。 シラミが慢性的に寄生し、常に刺されている状態をシラミ症と呼びます。

アタマジラミの体長は2〜3mmほどで、幼虫から成虫まで主に頭髪に寄生して吸血します。 コロモジラミはアタマジラミと形態学的に分類することはできませんが、アタマジラミより一回り大きい(体長2〜4mmほど)のが特徴です。衣服や寝具の縫い目や折り目に卵を産み付け、幼虫とともにその場に潜み、皮膚に移動して吸血します。 また、コロモジラミは発疹チフス塹壕熱回帰熱を媒介します。 ケジラミの体長は1〜2mmほどで、前2種とは明らかに違うカニに似た形態をしています。主に陰毛に寄生しますが、腋毛や睫毛などの体毛へ移動して寄生することもあります。

また、シラミ症はその症状によるかき傷に細菌が侵入し、二次感染を引き起こすことがあります。

シラミ症の原因

シラミ症の原因は、寄生したシラミの種類により異なります。

アタマジラミ症

アタマジラミは、頭部への直接的な接触により感染します。頭髪に寄生するアタマジラミは、感染者と非感染者が頭を密着させたときなどに、直接乗り移って感染を広げます。学校や幼稚園など小児の多い集団での感染が最も多く、次いでシラミ症感染者と生活をともにする家族間での寝具、タオル、帽子などの共用による感染が認められます。

コロモジラミ症

コロモジラミは不衛生な衣服に寄生します。日本では路上生活者の衣服でコロモジラミの寄生が認められ、また、少数ですが、独居老人の衣服への寄生例も確認されています。

ケジラミ症

ケジラミの感染原因の多くは性行為によるものですが、感染者の使用した衣服や寝具などを介して家族へ感染する可能性があります。

シラミ症の前兆や初期症状について

シラミ症の多くは、感染者がかゆみを自覚することにより発見されます。数匹の幼虫または成虫が寄生し始めた初期段階でかゆみを感じることはほとんどありません。 寄生後1ヶ月程度経過し、シラミの個体数が増加する頃にシラミの唾液によってアレルギー反応が起こり、激しいかゆみに襲われます。ただし、かゆみの感じ方には個人差があります。

ケジラミ症は、ケジラミの排泄した黒色点状の血糞が付着した肌着により、寄生に気付くこともあります。 コロモジラミ症はかゆみに加え発疹を伴う場合があります。また、コロモジラミは広範囲に多数寄生するため、出血するほどかきむしる患者さんが多くみられます。 アタマジラミ症とコロモジラミ症の疑いがある場合は、皮膚科を受診します。ケジラミ症の多くは性行為感染症であるため、自覚症状がある場合、女性は皮膚科または婦人科を、男性は皮膚科または泌尿器科を受診してください。

シラミ症の検査・診断

シラミ症の検査、診断はシラミ類を肉眼で確認することによります。 アタマジラミおよびケジラミは、毛髪を肉眼または拡大レンズで観察することにより発見できます。コロモジラミは衣類に寄生するため、衣類または寝具の縫い目や折り返し部分からシラミを見つけることで診断を得ます。

ケジラミ症の患者さんは、クラミジアトリコモナス梅毒などを合併していることもあるため、ほかの性感染症の検査も必要です。

シラミ症の治療

シラミ症の治療の第一はシラミ類を駆除することです。 日本では医療機関で処方できるシラミの治療薬がなく、駆除には市販薬を使用します。また、シラミ症の治療には、シラミの駆除と感染対策を同時に行うことが重要です。

シラミの駆除薬品

現在日本では、ピレスロイド系フェノトリンを有効成分とするパウダー剤および液剤と、ジメチコンを有効成分としたローション剤が販売されています。フェノトリン系の薬剤はシラミの幼虫・成虫の駆除が可能ですが、殺卵効果はありません。対してジメチコン系の薬剤は幼虫・成虫の駆除に加え、殺卵効果も認められています。

アタマジラミの治療

アタマジラミ症の治療には、シラミの駆除と感染対策を並行して行います。

アタマジラミの駆除

アタマジラミの卵は、産み付けられて約10日で孵化した後、7〜16日間は産卵しません。成虫の寿命は30〜35日で、1日3〜9個、生涯で約100〜200個を産卵します。この周期にしたがって、薬剤による殺虫処理を行います。卵の除去には、薬剤とアタマジラミ専用梳き櫛(すきぐし)の併用でより効果が期待できます。

衣類・寝具などの消毒

感染者の衣服、シーツ、帽子、タオルなどを、55度以上の温水に10分間浸すことで、虫卵・幼虫・成虫を死滅させることができます。

小学校・幼稚園・保育園などの対策

アタマジラミが集団内で感染が発見された場合は、広範囲に蔓延している可能性があります。発生状況に基づいた一斉駆除が重要です。

コロモジラミの治療

コロモジラミ症を治療するには、感染者の衛生状態の改善が必要です。シラミが付着した衣服や寝具は破棄します。身体をシャワーなどで洗い流し、清潔な衣類を着用させます。 基本的に、コロモジラミの駆除に薬剤は不要ですが、寄生が広範囲におよぶ場合は使用を検討します。激しいかゆみに対しては、アレルギー反応を抑える塗り薬の使用など対症療法を行います。

ケジラミの治療

ケジラミの寄生している部位の剃毛により、確実な駆除が可能です。毛深い場合、または剃毛が困難な部位に寄生している場合には薬剤を併用し治療します。また、セクシャルパートナーとのピンポン感染(お互いに感染させてしまうこと)を防止するため、同時に治療を行います。

シラミ症になりやすい人・予防の方法

シラミ症になりやすい方や予防の方法は、原因となるシラミの種類によって異なります。

アタマジラミ症になりやすい方・予防の方法

国立感染症研究所が行った調査によると、アタマジラミ症感染者の9割近くを0〜11歳が占めており、女児の寄生率が高い傾向があります。各地の小学校・幼稚園・保育園での集団発生事例も報告されています。 親あるいは養育者が子どもの頭髪を丁寧に調べることで、シラミの早期発見、早期駆除につながります。また、子どもの洗髪を定期的に補助し、丁寧に洗浄することも大切です。

コロモジラミ症になりやすい方・予防の方法

経済的・身体的に不利な条件に置かれている方がコロモジラミ症に感染しやすい傾向があります。具体的には、住環境に問題がある方(路上生活者を含む)や、一人暮らしで身の回りのことをするのが特に難しい高齢者、障害のある方などが挙げられます。 予防には、住環境の整備と、衣服や身体を清潔に保つことが重要です。

ケジラミ症になりやすい方・予防の方法

ケジラミ保有者との性行為を含む身体的接触を避けることが予防となります。

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