

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
皮膚抗酸菌感染症の概要
皮膚抗酸菌感染症とは、抗酸菌という細菌が皮膚に感染し、しこりや潰瘍などの皮膚症状を引き起こす病気の総称です。原因となる抗酸菌には、結核菌やらい菌、それ以外に分類される非結核性抗酸菌(NTM)が含まれます。非結核性抗酸菌は、水や土壌に生息しており、皮膚に傷がある状態で接触すると感染のリスクがあります。
初期症状は、赤みや小さなしこりとして現れることが多く、痛みを伴わないため気づきにくいのが特徴です。進行すると、しこりが硬くなったり、潰瘍が形成されたりし、場合によっては深い皮膚損傷を伴うこともあります。診断には、培養検査やPCR検査が用いられます。
治療は抗菌薬の長期服用が基本で、菌の種類によっては外科的な処置が必要になることもあります。免疫力が低下している人や、頻繁に水や土壌に触れる機会が多い人は感染しやすいため、皮膚の清潔を保ち、傷の適切なケアを行うことが重要です。

皮膚抗酸菌感染症の原因
皮膚抗酸菌感染症の原因は、抗酸菌が皮膚に侵入することで発症します。抗酸菌には、結核菌、らい菌(ハンセン病の原因菌)、そして非結核性抗酸菌(NTM)が含まれ、それぞれ異なる感染経路を持っています。
結核菌は、過去に感染した人の体内に長期間潜伏し、免疫力が低下した際に再活性化して皮膚に症状を引き起こすことがあります。
らい菌は、長期間にわたり感染者と密接に接触することで感染し、皮膚や神経に影響を与えます。
非結核性抗酸菌は、自然環境に広く存在し、水や土壌を介して感染します。川や湖、熱帯魚の水槽などに生息し、手や足にある小さな傷から侵入し、皮膚に病変を生じることがあります。
免疫力が低下している人は、抗酸菌に対する抵抗力が弱まり、健康な人では感染しにくい菌でも発症しやすくなります。
皮膚抗酸菌感染症の前兆や初期症状について
皮膚抗酸菌感染症の症状は、感染した菌の種類や体の状態によって異なります。
皮膚結核
皮膚結核は、結核菌が皮膚に感染することで発症します。初期段階では、皮膚に小さなしこりや赤みが生じることが多く、進行すると硬くなったり、皮膚の奥へ広がったりします。
尋常性狼瘡(じんじょうせいろうそう)と呼ばれるタイプでは、赤褐色の斑点が現れ、時間とともに皮膚が薄くなり、瘢痕を残しながら進行する特徴があります。
皮膚疣状結核(ひふゆうじょうけっかく)では、結核菌が傷口から侵入し、徐々に増殖しながら盛り上がった病変を形成します。
リンパ節が腫れたり、皮膚が硬くなったりするケースもあり、症状の進行は比較的緩やかですが、適切な治療を行わないと慢性化する可能性があります。
ハンセン病
ハンセン病は、らい菌による慢性皮膚・神経感染症であり、症状の進行がゆっくりです。最初の兆候として、皮膚に白っぽいまたは赤みを帯びた斑点が現れることがあり、感覚が鈍くなる(知覚麻痺)特徴があります。触っても痛みや温度を感じにくく、汗が出にくくなる症状もあります。
進行すると、皮膚のしこりが増えたり、顔や手足に変形を伴う病変が現れたりします。神経が侵されることで、筋力低下やしびれが生じ、症状が進むと手足の変形や麻痺が顕著になります。
非結核性抗酸菌症
非結核性抗酸菌症は、土壌や水に生息する非結核性抗酸菌(NTM)が皮膚に感染することで発症し、感染する菌の種類によって異なる症状を示します。
フィッシュタンク肉芽腫は、痛みを伴わず数週間かけて進行します。水槽や淡水に触れた手に小さな赤いしこりができることが多く、しばらくすると硬くなり、徐々に広がります。
ブルーリ潰瘍では、最初は蚊に刺されたような小さな赤いしこりが現れ、その後中心部が壊死して潰瘍を形成することがあります。
迅速発育抗酸菌感染では、注射や外科手術、タトゥー施術部位に赤い腫れや膿を伴うしこりができ、感染部位が広がると痛みを伴います。
症状はゆっくり進行し、初期は軽微なため見逃されがちですが、数週間以上治らない皮膚の異常がある場合は注意が必要です。
皮膚抗酸菌感染症の検査・診断
皮膚抗酸菌感染症の診断には、症状の確認だけでなく、複数の検査を組み合わせて病原菌を特定することが重要です。患者の生活環境や既往歴を詳しく聞き取った上で、感染が疑われる場合には、組織の採取や遺伝子検査をおこない、細菌の種類を特定します。
細菌培養検査
感染部位の皮膚組織や膿を採取し、抗酸菌の培養をおこないます。抗酸菌は成長が遅く、培養結果が判明するまでに数週間から数ヶ月かかることもあります。
PCR検査(遺伝子検査)
抗酸菌のDNAを検出するPCR検査は、比較的短期間で病原菌の特定ができます。結核菌やらい菌などの診断には有効であり、少量の菌でも検出可能です。適切な抗菌薬が選択でき、早期の治療開始につながります。
画像検査(CT・MRI)
皮膚の異常が広範囲に及んでいる場合、感染が皮膚の奥深くまで進行していないかを調べるためにCTやMRIが用いられます。結核菌による感染では、皮下組織や骨への波及が疑われる場合があり、より詳細な画像診断が必要になることがあります。
皮膚抗酸菌感染症の治療
皮膚抗酸菌感染症の治療は、感染した菌の種類によって異なりますが、基本的には抗菌薬を長期間服用します。結核菌による感染では、複数の抗菌薬を組み合わせ、治療期間が6か月〜9か月に及びます。症状に応じて、部分切除の外科的治療が選択されます。
抗菌薬
抗菌薬は、菌の増殖を抑えながら体内から排除する効果を持ちます。治療効果が現れるまでには時間がかかりますが、確実に服用を続けることが重要です。
外科的治療
感染が進行し、潰瘍が大きくなった場合や、組織の損傷が広がった場合には、外科的な処置が必要になります。皮膚の奥深くまで感染が及んでいる場合には、感染部分を切除することで症状の悪化を防ぐことが可能です。また、重症な場合は皮膚移植が行われ、皮膚の回復を促します。
皮膚抗酸菌感染症になりやすい人・予防の方法
皮膚抗酸菌感染症は、免疫力が低下している人や、皮膚に傷ができやすい環境にいる人がなりやすいです。糖尿病や慢性疾患を持つ人、ステロイドや免疫抑制剤を使用している人は、体の防御機能が弱まり、感染リスクが高くなります。また、屋外での作業が多い農業従事者や、川や湖でのレジャーを頻繁に行う人は、水や土壌に生息する抗酸菌に触れる機会が多く、皮膚に小さな傷があると感染が広がる可能性があります。
皮膚抗酸菌感染症を予防するためには、日常的な手洗いや消毒を徹底し、皮膚の清潔を保つ必要があります。川や湖、熱帯魚の水槽などの水に頻繁に触れる機会がある場合は、傷口が直接水に触れないよう注意することが大切です。
結核菌による感染を防ぐためには、BCGワクチンの接種が有効とされており、特に乳幼児期の接種が推奨されています。
関連する病気
- 皮膚結核
- ハンセン病
- フィッシュタンク肉芽腫
- ブルーリ潰瘍
参考文献




