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広範囲皮膚剥脱
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

広範囲皮膚剥脱の概要

広範囲皮膚剥脱(こうはんいひふはくだつ)は、強い外力が加わることで、皮膚が広い範囲にわたって剥がれてしまう外傷です。
交通事故や高速回転する機械への巻き込みなどが主な原因であり、特に工事現場で働く人々や、皮膚が脆弱な高齢者などでリスクが高いとされています。

症状としては、大量の出血と激しい痛みが特徴的です。
皮膚だけでなく、筋肉や腱などの深部組織も損傷すると、運動麻痺やしびれなどの神経症状が現れることもあります。
これらの症状は患者の生活の質を著しく低下させる可能性があります。

診断は主に問診と視診によっておこなわれますが、損傷している組織の状態をより詳細に把握するために、CT検査やMRI検査などの画像検査が実施されることもあります。
画像検査により、皮膚剥脱の範囲や深さ、合併する組織損傷の程度を正確に評価します。

治療においては、まず創部の洗浄や消毒、保護などの基本的な処置がおこなわれます。
感染予防のために抗生物質の投与をすることもあります。
損傷が広範囲に及ぶ場合や、自然治癒が困難と判断された場合には、植皮術(体の別の部位から採取した皮膚を損傷部位に移植する手術)が検討されます。

受傷直後の応急処置として、創部を生理食塩水などで洗浄し、乾燥を防ぐためにガーゼなどで適切に固定することが重要です。
できるだけ早い段階での応急処置が、その後の治療効果や予後に大きな影響を与える可能性があります。

広範囲皮膚剥脱の原因

広範囲皮膚剥脱は主に外傷によって引き起こされ、そのなかでも交通事故や機械による事故が一般的です。
自動車やトラックとの衝突事故のほか、高速回転する機械に皮膚が巻き込まれることで発生することがあります。
ベルトコンベアに髪の毛が巻き込まれて頭皮が剥脱したり、ズボンが巻き込まれて陰嚢の皮膚が剥がれたりするケースが報告されています。

また、皮膚が脆弱な高齢者などでは、体位変換などのわずかな摩擦でも広範囲の皮膚剥脱を起こす可能性があるため、注意が必要です。

広範囲皮膚剥脱の前兆や初期症状について

広範囲皮膚剥脱には特有の前兆はありませんが、機械に巻き込まれそうになる、強い摩擦を受けるなどの危険な状況に注意することが重要です。
症状は、皮膚が広い範囲で剥がれ、大量の出血と強い痛みが伴います。
剥離した部分では赤い肉が露出し、場合によっては骨が見える程度まで深刻化することがあります。

さらに、皮膚だけでなく筋肉、腱、神経などの深部組織も損傷している場合は、運動麻痺やしびれなどの神経症状が現れることもあります。
これらの症状が見られている場合は、早急な医療処置が治療効果や予後に大きな影響を与えます。

広範囲皮膚剥脱の検査・診断

広範囲皮膚剥脱の診断は主に問診と視診によっておこなわれます。
医師は患者の受傷状況を詳しく聞き取り、皮膚剥離の範囲や深さを目視で確認します。

ガラス破片などの異物が刺さっている可能性がある場合や、深部組織の欠損が疑われる場合では、画像診断が必要になることがあります。
骨折の可能性がある場合は、X線検査やCT検査が実施されます。
また、神経や筋肉、腱の損傷が疑われる場合は、MRI検査がおこなわれることもあります。

これらの検査により、皮膚剥脱の程度だけでなく、合併する可能性のある深部組織の損傷も詳細に評価できます。

広範囲皮膚剥脱の治療

広範囲皮膚剥脱の治療では、まず創部を生理食塩水などで十分に洗浄し、異物を取り除きます。
出血が止まらない場合はガーゼなどを当てて圧迫止血をおこない、出血が多い場合は心臓に近い部分を圧迫します。
その後、必要に応じて薬剤が含まれた軟膏を塗布し、専用の保護用品(ドレッシング材)で患部を保護します。
壊死して生着が期待できない皮膚は、デブリードマンと呼ばれる切除処置をおこなうこともあります。

損傷が広範囲に及ぶ場合や、自然治癒が困難もしくは時間がかかると判断された場合には、外科的処置が検討されます。
剥がれた皮膚を縫合する手術や、体の別の部位から採取した皮膚を損傷部位に移植する植皮術が実施されることがあります。
植皮術には移植する皮膚の厚さによって分層植皮と全層植皮にわかれ、損傷の程度や部位に応じて適切な方法が選択されます。

植皮術をした後に、陰圧をかけて創傷の治癒を促す「陰圧閉鎖療法」という物理療法をすることもあります。

また、感染予防のために抗生物質の投与がおこなわれることもあります。
これらの治療を適切に組み合わせることで、広範囲皮膚剥脱からの回復を促進し、合併症のリスクを軽減できます。

広範囲皮膚剥脱になりやすい人・予防の方法

広範囲皮膚剥脱は、特定の環境で働く人や皮膚が脆弱な人がなりやすい傾向にあります。

工事現場で働く人や、回転するローラーやベルトを扱う人は、手足や髪の毛が巻き込まれることで発症するリスクが高くなります。
また、皮膚の弱い高齢者、低栄養状態の人、抗がん剤治療中の人、放射線治療を受けている人、長期間ステロイド剤を使用している人なども、発症リスクが高くなります。

予防方法としては、工事現場などでは手袋や防護服などの適切な保護具を着用したり、機械作業時には巻き込み防止のため、ゆったりした服装を避けたりすることが重要です。
皮膚の弱い人に対しては、ベッド柵や家具の角にカバーや衝撃材を取り付けて外傷を予防します。
高齢者などの介助時には体に優しく触れ、手足を強く握ることは避けるべきです。

さらに、皮膚の脆弱性の進行を防ぐことも重要です。
日々の皮膚ケアとして、清潔を保ちながら適切な保湿をすることが推奨されます。
低刺激性のローションなどを使用し、こまめな保湿を心がけることで、皮膚の弾力性を維持できます。

これらの予防策を日常的に実践することで、広範囲皮膚剥脱のリスクを軽減できます。

関連する病気

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  • 剥脱創
  • 表皮剥離
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参考文献

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