

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
エクリン汗孔炎の概要
エクリン汗孔炎とは、いわゆる「あせも」などの汗腺の炎症に、感染が加わることで起こる皮膚の病気です。
エクリン汗腺は全身に分布しており、汗を出しながら体温をコントロールしています。エクリン汗腺がとくに多い手のひらや足の裏に発症しやすく、赤いブツブツとした発疹ができ、かゆみや痛みをともなうことがあります。ほかにも、わきの下や首などに発症することもあります。
高温多湿の環境では、汗の分泌が増え、汗腺の閉塞や皮膚のバリア機能低下を引き起こしやすくなります。その結果、細菌感染が生じ、エクリン汗孔炎の発症リスクが高まります。
また、免疫力の低下や、アトピー性皮膚炎などの基礎疾患を持つ人は、より発症しやすい傾向にあります。
適切な治療をおこなえば比較的早く治りますが、放置すると悪化する可能性があるため、早期治療と早期発見が重要です。日常生活では、通気性の良い衣服を選び、こまめに汗を拭き取るなど、皮膚を清潔に保つことがエクリン汗孔炎の予防につながります。

エクリン汗孔炎の原因
エクリン汗孔炎は、皮膚の常在菌であるブドウ球菌やレンサ球菌などが、エクリン汗腺に入り込むことでおこります。
通常、これらの菌は皮膚の表面に存在しており、身体に悪影響を与えることはありません。
しかし、汗をかきやすい環境や、皮膚のバリア機能が低下している状態では、菌が汗腺に入り込みやすくなります。
たとえば、高温多湿の環境で汗をかきやすい夏場や、運動後などがあげられます。また、アトピー性皮膚炎や湿疹などで皮膚のバリア機能が低下している場合も、エクリン汗孔炎を発症しやすいです。
さらに、ステロイド外用薬を長期間使用していると、免疫力が低下し、感染リスクが高まります。
エクリン汗孔炎の前兆や初期症状について
エクリン汗孔炎の初期症状は、赤いブツブツとした発疹です。これらの発疹は、汗をかきやすい部位、特に手のひらや足の裏、わきの下、首などにあらわれやすいのが特徴です。
発疹は、かゆみや痛みをともなうことがあります。症状が進行すると、発疹は膿をもった状態になったり、周囲に広がったりします。発熱や倦怠感などの全身症状があらわれる可能性もあります。
症状が悪化すると、蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの重篤な合併症を引き起こす場合もあります。
また、エクリン汗孔炎の初期症状は、ほかの皮膚疾患と類似している場合があるため、自己判断せずに、皮膚科の専門医の診察を受けることが重要です。早期に適切な治療を開始することで、重症化を防ぎ、早期回復につながります。
エクリン汗孔炎の検査・診断
エクリン汗孔炎の診断は、問診と視診、細菌培養検査などでおこないます。
問診では、症状があらわれた時期や、かゆみや痛みの有無などを確認します。特に、発汗の程度や、高温多湿な環境にいたかどうかなど、発症に関連する可能性のある要因について聞きます。
視診では、発疹の状態(色、大きさ、分布)、周囲の皮膚の状態などを観察します。エクリン汗孔炎では、典型的には赤い小さな発疹が多発し、かゆみや痛みを伴うことが多い傾向です。
必要に応じて、ダーモスコピーという拡大鏡で観察する場合もあります。また、細菌培養検査をおこなう際には、抗生物質が原因菌に対して、どのような効果があるのかを調べる感受性検査の実施を検討する場合もありますも同時に検討します。
感受性検査の結果は、抗生物質を選ぶ際の情報として役立ちます。これらの検査を通して、エクリン汗孔炎の原因菌を特定することで、適切な治療につなげられます。
エクリン汗孔炎の治療
エクリン汗孔炎の治療は、症状の程度によって異なります。それぞれの具体的な方法を解説します。
抗生物質の服用と軟膏の塗布
エクリン汗孔炎の症状が軽度の場合は、抗生物質の服用や軟膏の塗布で治療します。
エクリン汗孔炎の主な原因菌は黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌などです。これらの菌に有効な抗生物質を選びます。医師の判断により、飲み薬と塗り薬を併用する場合もあります。
塗り薬は、入浴後、患部を清潔にしてから、1日数回塗布してください。塗布前に患部を優しく洗い、清潔なタオルで水分を拭き取ることが大切です。特に、乳幼児の場合は、患部を掻きむしらないように注意し、爪を短く切っておくことも重要です。
飲み薬と塗り薬は、いずれも医師や薬剤師の指示に従って使用してください。自己判断で中止すると、症状が悪化するかもしれません。
切開して膿を排出
重度のエクリン汗孔炎で、膿がたまっている場合は、切開して膿を排出する処置をおこなうことがあります。
切開排膿は、局所麻酔をしてから、メスで皮膚を切開し、膿を排出する処置です。膿が溜まっている部分を切開し、膿を完全に排出することで、炎症を効果的に抑え、症状を改善します。切開後は、傷口を清潔に保ち、感染を防ぐために、適切な処置が必要です。
切開排膿後は、抗菌薬の服用や塗り薬を併用して、傷口を清潔に保つようにしてください。医師の指示に従い、定期的に傷口の洗浄や消毒を行い、感染の兆候がないか確認することが重要です。
また、傷口が完全に治るまでは、患部を圧迫しないように注意し、安静に過ごすことが望ましいです。重度のエクリン汗孔炎は、適切な治療をおこなわないと、蜂窩織炎や敗血症などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
そのため、早期に医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
エクリン汗孔炎になりやすい人・予防の方法
エクリン汗孔炎になりやすいのは、汗をかきやすい人や、皮膚のバリア機能が低下している人です。
たとえば、乳幼児、肥満の方、多汗症の方、アトピー性皮膚炎の方などがあげられます。また、高温多湿の環境のなかで作業したり運動したりする方もエクリン汗孔炎の発症リスクが高まります。
エクリン汗孔炎を予防するためには、通気性の良い服装を心がける、汗をかいたらこまめに拭き取る、シャワーを浴びて皮膚を清潔に保つなどが必要です。
特に、吸湿性・速乾性に優れた素材の衣服を選び、汗をかいたらこまめに着替えたり、室内の温度や湿度を適切に管理し、汗をかきにくい環境を整えたりすることも重要です。
また、日頃からバランスの取れた食事や十分な睡眠を心がけ、免疫力を高めることも、エクリン汗孔炎の予防につながります。
エクリン汗孔炎は、適切な治療をおこなうと、比較的早く治る病気です。しかし、放置すると悪化するかもしれません。気になる症状があらわれたら、早めに皮膚科を受診しましょう。
関連する病気
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- 皮膚抗酸菌感染症
参考文献
- アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024|日本皮膚科学会ガイドライン
- 辛島正志.エクリン汗腺の疾患.MB Derma.No.124.2007




