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瘢痕性類天疱瘡
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

瘢痕性類天疱瘡の概要

瘢痕性類天疱瘡(はんこんせいるいてんぽうそう)は「粘膜類天疱瘡」とも呼ばれ、免疫機能の異常によって粘膜がただれたり水疱ができたりする疾患です。比較的まれな疾患で、特に60歳代以降の高齢者に好発する傾向があります。

天疱瘡および類天疱瘡は自己免疫疾患の一種で、それぞれ厚生労働省の指定難病に登録されています。人から人へうつるような病気ではなく、遺伝もしません。

類天疱瘡の病態は「瘢痕性(粘膜)」と「水疱性」に大きく分けられます。水疱性では皮膚症状が主体であるのに対し、瘢痕性は眼や口腔内などの粘膜に病変ができることが特徴です。また、さらに細かい分類として、眼の粘膜のみに主症状を呈する「眼型粘膜類天疱瘡」という病型もあります。

瘢痕性類天疱瘡は、免疫機能の異常に伴い「自己抗体」が作られることで発症します。自己抗体とは、本来ウイルスなどの外敵に対抗するために作られる「抗体」が自分の体内の組織に向けて作られるものです。

瘢痕性類天疱瘡では、自己抗体によって粘膜の細胞が障害され、水疱やただれなどの症状が出現します。

軽症の場合には、口腔内のみが障害されて口内炎として見過ごされるケースもあります。しかしその一方で、重症の場合には眼の粘膜が瘢痕化して失明したり、のどの粘膜にできた病変によって呼吸困難に至ったりするケースもあります。

また、状態によっては悪性腫瘍発症のリスクを高める可能性が指摘されており、悪性腫瘍合併の早期発見・治療のため継続的な経過観察が必要なケースもあります。

治療では、重症度に応じて免疫を調整するための治療がおこなわれます。

出典:公益財団法人日本皮膚科学会ガイドライン 「類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン」

瘢痕性類天疱瘡の原因

瘢痕性類天疱瘡は免疫機能の異常によって発症することが分かっています。

体内にできた「自己抗体」が、表皮とその下の真皮の結合部分(ヘミデスモゾーム構成タンパク)を攻撃してしまう反応が確認されており、こうした自己抗体の活動が症状を引き起こします。

自己抗体が攻撃してしまうタンパク質の種類はいくつか存在し、瘢痕性類天疱瘡では「BP180」や「ラミニン332」などが多いとされています。しかし、そもそも患者さんの体内でこのような自己抗体ができてしまう原因については、まだ解明されていません。

瘢痕性類天疱瘡の前兆や初期症状について

主に眼や口腔内の粘膜にただれや水疱などを認めます。また、他に鼻腔内や食道、のど(咽頭・喉頭)、陰部などに症状が現れるケースもあります。

口腔内のただれや水疱は、頬の粘膜や歯肉などに生じることがあります。特に歯肉が赤くなり、皮が剥ける「剥離性歯肉炎」が多く見られます。

眼の場合には、通常両眼に症状が見られます。ただれや水疱の他、異物感や燃えるように熱くなる感覚、乾燥などを伴うこともあります。

のどや食道に病変ができるケースがまれであるものの、発生した場合には気管や食道の内側が狭くなり、呼吸困難を来して気管切開を要するケースもあります。

一般的に瘢痕性類天疱瘡の症状は粘膜にとどまり、皮膚の症状はないか、あっても軽症であることが多い傾向にあります。

瘢痕性類天疱瘡の検査・診断

瘢痕性類天疱瘡の検査では、患部の診察や血液検査、病理組織学的検査などがおこなわれます。

血液検査では、原因となる自己抗体の有無を確認します。しかし、自己抗体は必ずしも血液中から検出できるわけではなく、確定診断のためには病理組織学的検査が必要です。

病理組織学的検査では、患部の粘膜を一部採取し、顕微鏡で観察して自己抗体の有無を調べます。

瘢痕性類天疱瘡の治療

現在のところ、瘢痕性類天疱瘡を根本的に治療する方法は確立されていません。
したがって、治療は薬物療法を中心とした対症療法がおこなわれています。

瘢痕性類天疱瘡は、適切な治療によって「寛解(かんかい)」(病気が完全に治ったわけではないが、症状が抑え込まれている状態)を目指すことは可能で、軽症の場合などは、治療により比較的早期に症状が軽快するケースもあります。一方で、症状が再発することもあるため、症状がおさまっても経過観察が必要です。

症状が口腔内の粘膜のみの場合や、口腔内の症状に加え軽度の皮膚症状を認める程度の場合には、副腎皮質ステロイド外用療法や、抗菌薬の「テトラサイクリン」とビタミンBの一種である「ニコチン酸アミド」を併用した内服療法などがおこなわれます。

一方、口腔内の病変が広範囲に見られる場合や、眼の粘膜、鼻腔内、陰部、食道、のどの粘膜などに症状を認める場合、重症の場合には、副腎皮質ステロイド薬の内服治療や免疫抑制薬を用いた薬物療法が考慮されます。

このような治療法で十分な効果が期待できない場合には「ステロイドパルス療法」や「シクロフォスファミドパルス療法」「IVIG療法」「血漿交換療法」がおこなわれることもあります。

ステロイドパルス療法は、高容量の副腎皮質ステロイド薬を点滴で数日間投与する治療法です。

シクロフォスファミドパルス療法では、免疫調整作用のあるシクロフォスファミドという薬剤を内服または点滴で投与します。

IVIG療法は、過剰な免疫機能を調整する「免疫グロブリン」という薬剤を投与する治療法で、数日間点滴で投与します。

血漿交換療法は、血液中の「血漿」と「血球」のうち、自己抗体が含まれる血漿のみを取り出し、正常な血漿に置き換える治療法です。特殊な装置を使い、数時間かけて治療をおこないます。

いずれの治療法にも、免疫力の低下やアレルギー、血圧の低下などの副作用が出現するリスクがあります。そのため、症状の変化を入念にモニタリングしながら治療をおこないます。

瘢痕性類天疱瘡になりやすい人・予防の方法

瘢痕性類天疱瘡の発症メカニズムは完全には解明されておらず、なりやすい人や予防の方法は分かっていません。
発症は60代以降の高齢者に多く報告されていて、男女比に差はありません。

瘢痕性類天疱瘡は、軽症の場合には口内炎などと勘違いして見過ごされるケースもあります。瘢痕性類天疱瘡は難治性ではあるものの、早期に発見できて治療を受けることができれば、症状をコントロールしやすいとされています。口腔内や眼の粘膜に水疱、ただれなどの症状を認める場合には、放置せず医療機関を受診して適切な診断と治療を受けるとよいでしょう。

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