家族性慢性膿皮症

監修医師：
五藤 良将（医師）

家族性慢性膿皮症の概要

家族性慢性膿皮症は、細菌感染による炎症性の皮膚病変を繰り返す遺伝性疾患です。
主に頭部や頸部、脇の下、臀部、鼠径部、外陰部などの汗腺が多い部位に症状が現れます。
家族性慢性膿皮症が発症するメカニズムは不明ですが「ガンマセクレターゼ」という遺伝子の異常によって引き起こされることが明らかになっています。

家族性慢性膿皮症の症状では、皮膚の赤みや痛み、膿、盛り上がりなどの症状が繰り返し起こります。
これらの症状が持続することで、瘢痕（はんこん：傷あと）や瘻孔（ろうこう：傷によってできた穴）が形成され、治癒した後も何度も再発します。
そのため、整容面で大きな支障をきたすことが多く、患者の生活の質を著しく低下させます。

さらに深刻な問題として、患部にがん細胞が活性化する可能性があり、生命予後にも影響を与える可能性があります。
診断は主に病理学的検査によっておこなわれ、治療は抗生剤による薬物療法や外科的切除が中心となります。

家族性慢性膿皮症の患者は、慢性的な感染症の処置が続くことや、整容面での問題、日常生活におけるさまざまな制限により、身体的にも精神的にも大きな負担を強いられます。
患者の生活の質を向上させるためにも、早期診断と適切な治療介入による包括的なケアが必要とされています。

家族性慢性膿皮症の原因

家族性慢性膿皮症の主な原因は、ガンマセクレターゼ遺伝子の異常であることが明らかになっています。
常染色体優性遺伝によってガンマセクレターゼ遺伝子の異常が起こるため、家族からの遺伝によって起こるケースが多いです。

ガンマセクレターゼ遺伝子の異常は元々若年性アルツハイマー病の原因として知られていましたが、異常が起こる形態によって異なる疾患を引き起こすことがわかっています。

ガンマセクレターゼ遺伝子の皮膚における正確なはたらきはまだ完全に解明されていませんが、遺伝子の異常が家族性慢性膿皮症を引き起こす仕組みについて、さらなる研究が進められています。

家族性慢性膿皮症の前兆や初期症状について

家族性慢性膿皮症の初期症状は、細菌感染による痛みや発赤を伴う皮膚病変として現れます。
通常、思春期以降に発症し、アポクリン汗腺が多く存在する部位に好発します。
主な発症部位は、頭部や頸部、脇の下、臀部、鼠径部、外陰部などになります。

皮膚病変は次第に膿を形成し、一時的に治癒したように見えても再発を繰り返す特徴があります。
この再発のサイクルが続くことで、病変部位に瘢痕や瘻孔が形成されていきます。
これらの過剰な皮膚の跡は、患者の外見に大きな影響を与え、整容面での支障をきたす原因となります。

さらに深刻な問題として、瘢痕部位に有棘細胞がんが発生するリスクがあります。
有棘細胞がんが発生した場合、適切な対処が遅れると、患者の生命を脅かす可能性もあるため、初期症状を見逃さず早期に適切な治療を開始することが重要です。

家族性慢性膿皮症の検査・診断

家族性慢性膿皮症の診断は、臨床症状の確認、病理検査、遺伝子検査などを組み合わせておこなわれます。
臨床症状の確認では、頭部や頸部、脇の下、臀部、鼠径部、外陰部などの皮膚に膿や瘢痕、瘻孔が6ヶ月以上続いている場合に家族性慢性膿皮症の可能性が高くなります。

病理検査では、患部の皮膚を一部採取して顕微鏡で詳細に調べます。
毛包（毛を産生する組織）に白血球の蓄積が見られたり、真皮層（表皮の内側にある組織）に瘻孔が形成されていたりするのが観察されることがあります。
組織に「癌真珠」などの特徴的な所見がないかも確かめ、有棘細胞がんが発症しているかどうかも調べます。

遺伝子学的検査では、ガンマセクレターゼ遺伝子の異常を調べることで、より確実な診断が可能になります。
場合によっては皮膚腺病や鼠径リンパ肉芽腫症、クローン病などの症状が類似している皮膚疾患との鑑別もおこないます。
これらの総合的な検査アプローチにより、家族性慢性膿皮症の正確な診断と適切な治療計画の立案が可能となります。

家族性慢性膿皮症の治療

家族性慢性膿皮症の治療は、症状の程度によって異なるアプローチが取られます。
軽症例では、抗生剤の内服や外用薬による治療が主におこなわれます。
瘢痕や瘻孔が形成されて難治化した症例や、有棘細胞がんが確認された症例では、外科的切除が検討されることがあります。
特に有棘細胞がんが発症している場合は、患者の生命予後に大きく影響するため、できるだけ早い段階での治療が望まれます。
治療法の選択は、患者の状態や病変の進行度に応じて慎重に評価したうえで判断されます。

家族性慢性膿皮症になりやすい人・予防の方法

家族性慢性膿皮症は常染色体優性遺伝の形式を取るため、家族に発症者がいる場合、発症リスクが高くなります。
完全な予防法は現在のところありませんが、早期発見と早期治療が重要です。

特に、瘢痕部位が有棘細胞がんに移行するリスクがあるため、発症後は定期的な医療機関の受診が不可欠です。
また、体や頭皮を清潔に保ち、皮膚を傷つけないよう注意することで、細菌感染のリスクを軽減できます。
規則正しい生活を送ったり、肥満や喫煙を避けたりして、健康的な生活習慣を心がけることも症状を抑えられる可能性があります。
これらの対策によって、家族性慢性膿皮症の症状の悪化をできる限り抑えることが期待できます。