

監修医師:
五藤 良将(医師)
貧血性母斑の概要
貧血性母斑(ひんけつせいぼはん)は、血管の奇形によって発生する白斑のことです。一見メラニン色素の減少による白斑に見えますが、貧血性母斑は皮膚の毛細血管の機能的な特徴によって生じているものであり、無症状で健康上の問題はありません。
特徴的なのは、入浴や運動などの体温の上昇で周囲の皮膚が赤くなった際に、貧血性母斑の部分だけが反応せず白く残るという点です。
貧血性母斑は身体のどの部分にも生じますが、とくに前胸部に好発します。人口の約1〜2%に認められ、多くの場合は気づかれないまま過ごしていることもあります。
貧血性母斑は健康な人にも見られますが、神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)などの症状として現れることがあるため、貧血性母斑が出現した場合は医療機関を受診することをおすすめします。
貧血性母斑の原因
貧血性母斑の原因は先天的な血管の奇形によるものです。
通常、皮膚の色は、血管が体温調節をするために拡張と収縮を繰り返すことで赤くなります。しかし、貧血性母斑が生じている部位では奇形した血管がカテコールアミン(交感神経系に作用を及ぼす神経伝達物質)という物質に過敏に反応し、常に収縮して血流が制限された状態になることで、皮膚が赤く変化せず白い斑点が生じます。
これらは生まれつきの血管の奇形によって生じると言われていますが、奇形が生じる原因については明確にわかっていません。
重要なのは、貧血性母斑はメラニン色素の減少や欠損によって生じる尋常性白斑や脱色素性母斑とは全く異なるメカニズムで発生し、原因も異なるという点です。
貧血性母斑はメラノサイトの作用に異常はなく、通常は異常所見が認められません。あくまでも血管の機能的な反応性の違いによって生じる現象です。
ただし、神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)のサインとして現れていることもあるため、貧血性母斑が皮膚に見られた場合は、医療機関を受診することが望ましいといえます。
貧血性母斑の前兆や初期症状について
貧血性母斑は先天的な疾患であり、特定の前兆や初期症状はありません。多くの場合は前胸部に出現しますが、日常的に詳しく観察しない部位で、かつ色調の差が目立ちにくいため気付かないこともしばしばあります。
通常、入浴後や運動後、飲酒後などの身体が温まったときや、皮膚のマッサージによる摩擦後などで、皮膚は赤くなりますが、貧血性母斑が起きている部分は皮膚の色に変化がなく、白く残ります。
しかし、何もしていない状態では皮膚の色調差はわずかであるため、注意して観察しない限り見過ごされやすい傾向があります。また、貧血性母斑自体は痛みやかゆみなどの症状もありません。
貧血性母斑の検査・診断
貧血性母斑の診断では、入浴後や運動後などの体温が上昇した状態における皮膚状態を判断材料とします。通常、このような状況では皮膚が赤くなるにもかかわらず、貧血性母斑の部位では皮膚は紅潮せず白く残るためです。
また、貧血性母斑の診断では似たような症状を呈する他の皮膚疾患と鑑別するために、ウッド灯検査やダーモスコピーなどの検査をおこなうこともあります。鑑別が難しい場合は、貧血性母斑の皮膚を採取して皮膚生検を実施することもあります。
他にも、貧血性母斑が身体の各部位で多発している場合は神経線維腫症1型などの可能性も考慮し、必要に応じてCT検査やMRI検査などの画像検査をおこなうことがあります。
貧血性母斑の治療
貧血性母斑は健康上の問題がなく、皮膚の血管の機能的な特徴で生じている疾患であるため特別な治療法はありません。しかし、見た目の問題で心理的な負担となっている場合は、整容を目的としてメイクアップ製品を使用し色調の差をカバーするとよいでしょう。
皮膚科専門医から個別の状況に応じたアドバイスを受けたり、見た目の悩みに対するカウンセリングを受けたりすることもおすすめです。
また、神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)とともに貧血性母斑を発症している場合は、適切な治療が必要です。
貧血性母斑になりやすい人・予防の方法
貧血性母斑になりやすい人の特徴はわかっていません。また、健康上の問題を引き起こすこともなく、現時点で明確な予防法も確立されていないため、似ている病気との鑑別や早めの受診がポイントとなります。
貧血性母斑自体は人口の数パーセントに認められており、なおかつ特定の病気を持つ場合はその発生率が高くなります。とくに神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の場合は、貧血性母斑が高頻度で見られることが報告されているため、これらの病気との鑑別が大切です。
複数の貧血性母斑が見られる場合や、カフェ・オ・レ斑や神経線維腫など他の特徴的な症状をともなう場合は神経線維腫症1型の可能性があるため、できるだけ早期に医療機関を受診し、適切な検査や治療を受けることが重要です。
貧血性母斑自体は病的なものではなく皮膚の個人差の1つです。日常生活において特別な制限はなく、健康上の懸念もないため、過度に心配する必要はありません。
外見上で悩みを抱えている場合は、皮膚科専門医に相談したりカウンセリングを受けたりすることもおすすめです。
関連する病気
- 神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)
- 尋常性白斑
- 脱色素性母斑
参考文献