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ジアノッティ病
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

ジアノッティ病の概要

ジアノッティ病は、乳幼児によく見られる皮膚疾患で、「乳児丘疹性肢端皮膚炎」とも呼ばれます。B型肝炎ウイルスの感染によるものとされていましたが、様々なウイルス感染により同様の症状をきたすことが知られており、現在はそれらをまとめてジアノッティ・クロスティ症候群とも呼ばれます。特徴として、左右対称の丘疹性発疹がみられます。皮疹がよくみられる部位として、頬、臀部、前腕・下腿の伸側です。かゆみを伴うこともあります。発疹は一過性であり、通常2ヶ月以内に自然に無くなりますが、まれに長期間持続することもあります。小児にみられる他の珍しい発疹性疾患(非典型的発疹)と鑑別が必要です。

ジアノッティ病の原因

1950年代にジアノッティとクロスティにより初めて報告されました。当初は乳幼児に限定された疾患とされていましたが、思春期や成人でも発症することがわかっています。通常は孤発例で他人にうつることはありませんが、原因不明の集団発生も報告されています。以前はB型肝炎ウイルスによるものをジアノッティ病としていましたが、現在様々なウイルスにより同様の症状をきたすことがわかっており、それらをまとめてジアノッティ・クロスティ症候群と呼びます。

主な原因はウイルス感染とされます。特に多いのがEBウイルス、B型肝炎ウイルスです。ただし、B型肝炎ウイルスは新生児期にワクチン接種が普及している地域ではまれです。その他のウイルスとの関連も報告されています(エンテロウイルス、サイトメガロウイルス、パルボウイルスB19、パラインフルエンザウイルス、A型肝炎ウイルス、ロタウイルス、伝染性軟属腫ウイルス、RSウイルス、HIV、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)、新型コロナウイルスなど)が、これらは非常にまれとされます。

ワクチン接種後にジアノッティ病を発症した報告もあり、次のワクチンとの関連が指摘されています。インフルエンザ、MMR(三種混合)、B型肝炎、ポリオ、A型肝炎、日本脳炎、水痘、SARS-CoV-2、黄熱病のワクチンなどです。ポリオワクチンとの関連を調べた研究では、ワクチン接種の1か月後にジアノッティ病を発症する例が多かったとされます。

細菌感染との関連はまれとされますが、マイコプラズマ・ニューモニエ、A群β溶血性連鎖球菌、バルトネラ・ヘンセレ(猫ひっかき病の原因菌)、 ボレリア・ブルグドルフェリ(ライム病の原因菌)などが挙げられます。

発疹ができる機序は不明ですが、現在有力な説としてウイルスに対する遅延型過敏反応(細胞性免疫反応)という仮説が挙げられます。

ジアノッティ病の前兆や初期症状について

ジアノッティ病の皮膚症状は左右対称性に現れることが多く、1~10mmの平らな頂を持つ皮膚色またはピンク~茶褐色の丘疹・丘疱疹が特徴的です。顔、臀部、前腕や下肢の伸側、足によくみられます。耳たぶにみられることもあります。かゆみは軽度~中程度で、時にない場合や重度のこともあります。皮膚が傷ついた部位に病変が新しく現れることがあります。出血斑も時にみられ、とくに肝炎ウイルス感染例で多いとされます。粘膜病変はありませんが、関連ウイルス感染症に伴う粘膜・手掌足底の病変が見られることもあります(例:エンテロウイルス)。臨床的には、虫刺されとしてステロイド外用薬を処方され、しばらくたっても治らないため、皮膚科に「皮疹が治りません」と、受診する小児が多いです。

ジアノッティ・クロスティ症候群では皮膚以外の症状として、発疹前の1週間以内に上気道症状(鼻水、咳、くしゃみなど)や消化器症状(悪寒、微熱、下痢)が見られることがあります。約25~35%で頸部・腋窩・鼠径リンパ節腫脹を認めます。肝障害は不明ですが、肝炎があっても黄疸を伴わないことが多いとされます。脾腫はまれです。

ジアノッティ病の検査・診断

通常は問診と身体診察で診断が可能です。病歴では、左右対称に丘疹性発疹が若年児の顔、臀部、四肢伸側に急にできて、他に原因がない場合に強く疑います。初期の診断基準(古典的3徴)としては、① 再発しない丘疹性紅斑(顔面・四肢に局在し、約3週間持続) 、②リンパ節の傍皮質過形成、③無黄疸性の急性肝炎(数ヶ月持続し、慢性肝疾患に進行する場合も) 、とされていましたが、現在は②のリンパ節腫脹や③の肝炎の有無は診断に必須ではないとされます。皮膚生検は通常不要ですが、診断が難しい場合に行うことがあります。病因が何かを検索するかどうかは症例により判断します。特にB型肝炎リスクのある患者には肝炎ウイルス検査をする場合があります。EBウイルスの検査は特別な合併症がなければ通常不要です。免疫不全患者や妊婦との接触例、肝腫大など皮膚外症状がある場合には精査が必要になることがあります。

鑑別診断として、伝染性紅斑があります。小児に多いのは同様ですが、頬から始まりレース状の網目模様の発疹が特徴的で、ジアノッティ病との発疹とは見た目が異なります。多形紅斑は、主に思春期や若年成人に多いですが、口の中の粘膜に病変ができることが多いことから判別します。手足口病は、発熱や口内の水疱とともに、手足やお尻に小さな発疹ができ、発疹がある期間も短いことから判別可能です。疥癬(かいせん)はダニによる皮膚感染症で強いかゆみがあり、トンネル状のダニの跡が見られますが、ジアノッティ病のかゆみは通常それほど強くありません。蚊刺過敏症(ぶんしかびんしょう)は虫刺されに対するアレルギー反応で、左右対称的にでることがあり、長期間続くことが特徴です。その他、稀に扁平苔癬、薬疹、IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)などが鑑別となります。

ジアノッティ病の治療

特別な治療は必要なく、多くは良好な予後で自然治癒しますが、長引くこともあります。初期2~3週間は新しい丘疹が出現し拡大します。多くは2週間~2ヶ月で症状が消失するとされますが、10日~6ヶ月、5日~12ヶ月続いたという報告もあります。再発はほとんどありません。リンパ節腫脹や肝脾腫は皮膚症状よりも長く残ることがあります。

合併症として、色素沈着異常(白斑・黒ずみ)が治癒後にみられることがあり、数ヶ月続く場合もありますが、最終的には改善し、永続的な瘢痕形成は稀とされます。その他の合併症は主に原因疾患(例:EBウイルス感染や肝炎)に関連した合併症が起こりえます。

ジアノッティ病になりやすい人・予防の方法

世界中で報告されていますが、正確な有病率・発生率は不明です。 多くは「ウイルス性発疹」や「非特異的ウイルス発疹」として診断されるため、過小診断されている可能性が高いとされます。主に5歳未満の小児に発症し、小児では性差はありません。ただし、成人発症例では女性に多い傾向があると報告されています。ジアノッティ病になりやすい人として、アトピー素因との関連が注目されています。アトピー性皮膚炎の既往、家族歴にアトピーがある、少なくとも1つ以上のアトピー疾患の既往がある、のいずれかがジアノッティ・クロスティ症候群のリスク因子となっていると複数の研究で報告があります。予防の方法は確立されていません。

参考文献

  • 1)Babu TA, Arivazhahan A. Gianotti-Crosti Syndrome following immunization in an 18 months old child. Indian Dermatol Online J 2015; 6:413.
  • Hofmann B, et al. Gianotti-Crosti syndrome associated with Epstein-Barr virus infection. Pediatr Dermatol 1997; 14:273.
  • 2)Smith KJ, Skelton H. Histopathologic features seen in Gianotti-Crosti syndrome secondary to Epstein-Barr virus. J Am Acad Dermatol 2000; 43:1076.
  • 3)Chuh A, et al. Pityriasis Rosea, Gianotti-Crosti Syndrome, Asymmetric Periflexural Exanthem, Papular-Purpuric Gloves and Socks Syndrome, Eruptive Pseudoangiomatosis, and Eruptive Hypomelanosis: Do Their Epidemiological Data Substantiate Infectious Etiologies? Infect Dis Rep 2016; 8:6418.
  • 4)Up to date:Gianotti-Crosti syndrome (papular acrodermatitis)

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