

監修医師:
山田 克彦(佐世保中央病院)
目次 -INDEX-
外胚葉形成不全症の概要
外胚葉形成不全症は、生まれつき外胚葉(発生の過程で主に体表面に作られる細胞のこと)の組織に異常が生じる遺伝性疾患の総称です。
外胚葉の組織には毛髪、歯、爪、汗腺などが含まれ、これらの形成不全を特徴とします。
現在、欠損する組織の組み合わせによって、170種類以上にも分類できますが、そのなかでも代表的なものが「無汗性外胚葉形成不全症」です。
無汗性外胚葉形成不全症では、毛髪や歯の発育不全、汗腺の欠如や減少による発汗障害、皮膚の乾燥などが主な症状として現れます。
また、免疫機能の低下を伴う「外胚葉形成不全免疫不全症」も極めて稀な疾患ですが存在し、発症すると重篤な感染症のリスクが高まるのが特徴です。
これらの疾患の原因は、外胚葉の発生や形成に関わる特定の遺伝子の異常にあります。
診断は主に特徴的な症状や所見の確認、遺伝子検査によっておこなわれます。
無汗性外胚葉形成不全症の場合、高温環境下での発汗の有無を確認することもあります。
現在のところ、外胚葉形成不全症の根本的な治療法は確立されておらず、対症療法が中心です。
外胚葉形成不全免疫不全症では、易感染性があるため、治療に加えてBCGのワクチン接種を避ける必要があります。
外胚葉形成不全症の管理には、症状に応じた多角的なアプローチが求められます。

外胚葉形成不全症の原因
外胚葉形成不全症は、特定の遺伝子の異常によって引き起こされます。
たとえば、無汗性外胚葉形成不全症では、EDA、EDAR、EDARADDなどの遺伝子、外胚葉形成不全免疫不全症では、NEMOやIκBαなどの遺伝子の異常が報告されています。
常染色体優性遺伝のタイプでは、親が罹患している場合、子どもが発症する確率は50%です。原因となる遺伝子によって、X連鎖性劣性遺伝するものと、常染色体優性または劣性遺伝するものがあり、親から子へ疾患が遺伝する確率も遺伝形式によってそれぞれ異なります。
外胚葉形成不全症の前兆や初期症状について
外胚葉形成不全症の症状は疾患によって異なります。
無汗性外胚葉形成不全症では、無汗(もしくは発汗が少ない)、薄い毛髪、歯の欠損や形成不全が特徴的です。
発汗の機能が著しく低下しているため、体温調節機能が障害され、熱中症のリスクが高まります。
また、皮膚の乾燥が顕著で、アトピー性皮膚炎を合併しやすくなります。
唾液腺の形成異常も起こり、唾液が少なくなることから、肺炎や萎縮性鼻炎、角膜びらんなどの合併症も生じやすくなります。
顔貌にも特徴があり、広く突出した前額部、低い鼻、厚い唇、下顎の突出などが見られます。
外胚葉形成不全免疫不全症では、上述した汗や毛髪、歯の症状に加えて重度の免疫不全を伴います。
これにより、さまざまな感染症に罹患しやすくなります。
特にヘルペスウイルスや抗酸菌による感染症は重症化しやすく、致命的な状態になる可能性があります。
また、炎症性腸疾患を合併しやすく、栄養吸収障害による発育不全を引き起こし、静脈栄養が必要になることもあります。
外胚葉形成不全症の検査・診断
外胚葉形成不全症、特に無汗性外胚葉形成不全症の診断では、特徴的な症状の視診と発汗機能の評価が中心におこなわれます。
まず、薄い毛髪や歯の形成異常、特徴的な顔貌などを確認します。
発汗機能の評価には、人工気象室や簡易サウナ、電気毛布などを使用し、体温上昇時の発汗状態を観察する「温熱発汗試験」をおこないます。
同時にサーモグラフィーによって体温を確かめ、体温が上昇しているにも関わらず、汗をかいていない場合は、無汗性外胚葉形成不全症の可能性がより高まります。
さらに、薬物性発汗試験として、発汗を促す専用の薬剤を注射し、局所的な発汗反応を評価することもあります。
確定診断では遺伝子検査が必要で、外胚葉形成不全症に関わる特定の遺伝子異常がないか確かめます。
外胚葉形成不全症の治療
外胚葉形成不全症に対する根本的な治療法は現在確立されておらず、症状に応じた対症療法が中心となります。
無汗性外胚葉形成不全症では、生活指導とスキンケアが基本的なアプローチとなります。
髪の毛のケアでは、シャンプーを泡立てて優しく洗うなど、負担をかけないよう注意が必要です。
口腔内のケアでは、欠損した歯を義歯で補うとともに、徹底した口腔ケアが重要です。
口内トラブルを防ぐために、保湿剤や人工唾液を使用することもあります。
無汗の対策として、熱中症のリスクが高まりやすい夏場は特に、適切なクーリングやエアコンの使用が必要です。
皮膚の乾燥を防ぐために保湿剤によるスキンケアを徹底することも重要になります。
外胚葉形成不全免疫不全症では、感染症に対する予防的な薬剤投与がおこなわれます。
感染症にかかった場合は、速やかに適切な抗菌薬を投与します。
さらに重篤な感染リスクがあるため、BCGワクチンの接種は控えることが推奨されています。
また、合併症として頻度の高い炎症性腸疾患に対しては、ステロイド剤や免疫抑制剤などの投与がおこなわれ、難治性の場合は移植も検討されます。
これらの治療法を組み合わせることで、患者の生活の質向上を目指します。
外胚葉形成不全症になりやすい人・予防の方法
外胚葉形成不全症は遺伝性疾患であり、原因遺伝子や遺伝形式は様々であるため、両親のいずれかにこの疾患があっても、子どもや孫への遺伝の仕方も様々です。この疾患の家系がご心配な場合は、専門家による遺伝カウンセリングを受けることで、早期診断や合併症リスクの軽減につなげる事ができます。
現在のところ、外胚葉形成不全症を予防する確立された方法はありません。
しかし無汗による熱中症リスクや免疫機能の低下による感染症リスクを考慮すると、早期診断と適切な治療介入が、生活の質向上に不可欠です。
できるだけ早く症状に応じた適切な管理と治療を実施することで、合併症のリスクを軽減し、生活の質を改善できます。
関連する病気
- 無汗性外胚葉形成不全症
- 外胚葉形成不全免疫不全症
参考文献




