

監修医師:
五藤 良将(医師)
皮膚爬行症の概要
皮膚爬行症(ひふはこうしょう)は、魚介類を生で食べることで発症する感染症です。魚介類に潜んでいる寄生虫が体内に侵入して感染します。寄生虫が体内に侵入した後に移動することで皮膚にかゆみや水疱などの多くの症状が引き起こされます。
皮膚爬行症の原因となる寄生虫はどじょうやライギョに寄生している顎口虫、ホタルイカやスケトウダラなどに寄生している放尾線虫などです。これらが体内に侵入することで発症する皮膚爬行症をそれぞれ顎口虫症、放尾線虫症と呼びます。
顎口虫症と放尾線虫症はそれぞれ症状が異なり、顎口虫症は赤みやかゆみを伴う皮疹、放尾線虫症は水疱が特徴です。また、顎口虫症では好酸球が増加するなどのアレルギー反応がみられますが、放尾線虫症には好酸球の増加はほぼありません。
皮膚爬行症の診断において重要なことは、原因となる魚介類を加熱せず食べていたかどうかの確認です。上述したような魚介類を食べていたことがわかり、皮膚症状があれば、本症例を疑って皮膚生検や組織額的検査をおこないます。
皮膚爬行症と診断された場合、寄生虫を外科的に取り除く治療をおこないます。外科的な除去が難しい場合は、駆虫剤の内服や軟膏で虫の除去を試みます。
皮膚爬行症の予防方法は魚介類を生で食べないことです。魚介類の寄生虫は加熱処理や冷凍保存などで駆除できるため、魚介類を食べる前にはこれらの処置をおこないましょう。

皮膚爬行症の原因
皮膚爬行症の原因は主に魚介類の生食です。どじょうやライギョ、ホタルイカ、スケトウダラなどを生食した後に寄生虫が体内に侵入して感染します。また、皮膚爬行症はこれらの魚介類に存在する寄生虫の種類によって、顎口虫症や放尾線虫症などに分類されます。
以前はどじょうやライギョなどの摂取による顎口虫症が皮膚爬行症の多くを占めていました。しかし、近年ではホタルイカやスケトウダラなどの摂取による放尾線虫症が多く報告されています。
顎口虫症は、顎口虫が体内に侵入した後、3〜4週間の潜伏期間を経て発症します。放尾線虫症は放尾線虫が体内に侵入した後、2週間程度で発症する傾向があります。
皮膚爬行症の前兆や初期症状について
皮膚爬行症の初期症状は感染する寄生虫によって異なります。
顎口虫によって発症する顎口虫症の初期症状は、寄生虫の移動によって生じる皮膚の腫脹が主です。腫脹は発赤・かゆみ・痛みを伴い、蛇行して出現する傾向があります。出現箇所は腹部や胸部などに多い傾向がありますが、寄生虫が移動すれば顔面や四肢にも症状が出るため注意が必要です。
加えて、寄生虫の周囲には好酸球(アレルギーや炎症に関与する白血球の一種)が増加します。好酸球の増加によってアレルギー反応がみられることもあります。
放尾線虫症の症状は皮膚の水疱が多く、腫脹はあまりありません。顎口虫ほど好酸球も増加せず、アレルギー反応も軽度で済むケースが多いです。
皮膚爬行症の検査・診断
皮膚爬行症の検査・診断で重要なのは、皮膚爬行症の原因となる魚介類の食歴を確認することです。上述した魚介類を食べたうえで皮膚爬行症を疑う所見がある場合、皮膚生検や組織学的検査をおこないます。皮膚生検や組織学的検査によって寄生虫の断端が発見されれば、皮膚爬行症と診断されます。
しかし、場合によっては寄生虫が体内に移行し、皮膚生検で寄生虫の断端を発見できないケースもあります。そのような場合には血液検査をおこない、寄生虫に対する抗体が確認されれば皮膚爬行症と診断されます。
皮膚爬行症の治療
皮膚爬行症の治療で最も重要なことは、寄生虫を外科的に取り除くことです。寄生虫を取り除くことができれば、皮膚爬行症の症状は減弱していきます。
しかし、皮膚生検などで寄生虫が見つからないことも多く、外科的な除去が難しいケースも少なくありません。そのような場合には駆虫薬の内服や軟膏の使用で寄生虫の除去を試みます。
皮膚爬行症になりやすい人・予防の方法
皮膚爬行症になりやすい人は、原因となる魚介類を生で食べる人です。とくに顎口虫症ではどじょうやライギョ、シラウオなどの淡水魚の生食で多いとされ、放尾線虫症ではホタルイカの内臓を生食する人が感染しやすいと言われています。
予防の方法は、魚介類を生で食べるのを避けることです。魚介類を加熱処理する場合には、沸騰水に30秒以上保持すること、もしくは中心温度で60度以上の加熱が推奨されています。
また、冷凍保存も寄生虫の駆除に有効です。冷凍保存する場合には、−30℃で4日以上の保存もしくは、中心温度−35℃で15時間以上の冷凍が推奨されています。これらの加熱・冷凍処置をおこなえば、皮膚爬行症の予防につながります。
関連する病気
- 顎口虫症
- 放尾線虫症
- アレルギー性皮膚炎
参考文献




