

監修医師:
五藤 良将(医師)
癰の概要
癰(よう)は、細菌感染によって複数の毛包に炎症をきたし、患部に膿が生じて腫れる状態です。
毛包は毛根(地肌に埋まっている毛の根元部分)を包むように存在する組織です。なんらかの影響で毛包に細菌が増殖して炎症を起こす疾患を「毛包炎」といいます。
毛包炎が進行して患部に膿が生じ、痛みや熱感などを伴う状態は「癤(せつ)」と呼ばれます。癤は治癒することもありますが、繰り返し発生したり免疫力が低下していたりすると癰に進展することがあります。
癤では炎症を起こす毛包が一つであるのに対し、癰では複数の毛包に炎症が及んでさらに症状が悪化します。患部では内部に膿が溜まり、硬く赤みを帯びて盛り上がります。また、痛みや熱感を認めるほか、全身症状として発熱や倦怠感を伴うこともあります。
癰がさらに悪化すると、皮下脂肪組織まで炎症が及ぶ「蜂窩織炎」に進展する恐れもあるため、注意が必要です。
癰の治療は、原因となる細菌に有効な抗菌薬を用いた薬物療法のほか、内部に溜まった膿を排出させるための処置がおこなわれます。

癰の原因
癰の原因は毛包の細菌感染です。原因となる細菌の多くは黄色ブドウ球菌で、他に表皮ブドウ球菌や溶血レンサ球菌などが原因になることもあります。
これらの細菌は、皮膚にできた小さな引っ掻き傷などから侵入することが多いですが、目立った傷がなくても感染することがあります。特に慢性的な皮膚疾患がある人や鼻の中などに原因菌が存在している場合は、毛包炎や癤を発症する可能性が高まります。
癰や癤は細菌感染症の一種であるため、細菌に対する抵抗力が低くなっているときにも発症率が高まります。発症のリスクを高める要因としては、肥満、栄養不全、糖尿病、悪性腫瘍(がん)、AIDSなどの他、副腎皮質ステロイド薬を内服している場合などが挙げられます。
細菌感染によって癤を発症し、症状が悪化することで複数の毛包に炎症を起こり、癰に進展することもあります。
癰の前兆や初期症状について
癰の症状が見られる前には、毛包炎が進行した癤を発症することが多いです。癤では一つの毛包に炎症が生じて悪化し、患部に痛みや熱感、赤みなどが生じます。
癤が改善せず繰り返し発症していたり、免疫力が低下していたりする場合には、症状が悪化して癰に進展することがあります。
癰は、手の平や足の裏を除く全身のどの部位にも発生します。皮膚が厚く下に強靭な筋膜があるところにできやすいことから、特に男性の腰やお尻、太ももなどに多く見られます。
癰を発症すると複数の毛包に炎症が広がり、患部が膿を持って硬く腫れ上がります。患部には強い痛みを伴うほか、発熱や全身倦怠感などの全身症状を伴うこともあります。
癰の検査・診断
癰の検査では、患部の視診や触診のほか、細菌の培養検査、血液検査などがおこなわれます。
医師は患部を見たり触ったりして、腫れや痛みの程度などを確認します。一般的には、毛穴に一致して赤く膿を持ったしこりがあり、痛みを認める場合にはおおむね診断することが可能です。
しかし、癰で見られる症状は「炎症性類表皮嚢腫」などの疾患と似ており、鑑別が困難なケースもあります。
視診のみで他の疾患と鑑別することが困難な場合には、患部から膿を採取して培養し、原因となる細菌の種類を特定します。原因菌の種類を特定することで、適切な治療薬を選択することにも役立ちます。
また、癰では患部の炎症に伴い全身の炎症反応が高くなることがあるため、血液検査によって白血球の数やCRP(C反応性蛋白)の値などから体内の炎症反応の程度を調べることもあります。
血液検査の結果、筋肉まで炎症が及んでいると疑われた場合には、CTやMRIなどの画像検査をおこない、炎症の範囲がどこまで及んでいるか確認することもあります。
癰の治療
癰の治療では、症状に応じて薬物療法や外科処置がおこなわれます。
薬物療法
薬物療法では炎症の原因となる細菌に有効な抗菌薬が用いられます。
癰の原因菌の多くは黄色ブドウ球菌であるため、黄色ブドウ球菌に有効な「セフェム系」という種類の抗菌薬がよく用いられます。
抗菌薬は一般的には内服薬として用いられますが、発熱や全身倦怠感などを生じている場合には点滴で投与することもあります。
外科処置
患部に膿の塊(膿瘍)ができている場合には、外科処置をおこなうことがあります。処置では、局所麻酔を用いて患部を切開し、中に溜まった膿を排出させます。
通常、患部に溜まった膿を排出することで、痛みなどの症状は比較的速やかに改善します。
癰になりやすい人・予防の方法
毛包炎や癤を繰り返し発症している人や、免疫力が低下している人は、癰になりやすい傾向があります。癰を予防するためには、毛包炎や癤の悪化・再発防止に努め、免疫力を維持することが重要です。
すでに毛包炎や癤を発症している場合には、適切な治療を受けるほか、患部を清潔に保つようにしましょう。医師の指示のもと「キサクロロフェン」や「クロルヘキシジン」などを含む石鹸で日常的に患部を洗浄すると良いでしょう。
免疫力を維持するためには、規則正しい生活習慣を身につけることが重要です。バランスの取れた食生活や適度な運動、十分な睡眠を心がけましょう。
糖尿病や悪性腫瘍、AIDSなどを発症している場合には、免疫力が低下している可能性があります。適切な治療を継続的に受け、感染対策を入念におこなうことが重要です。
手洗いやうがいなどの標準的な感染対策を徹底するほか、入浴が可能な場合には毎日入浴して身体を清潔に保つよう心がけましょう。
関連する病気
- 癤
- 毛包炎
- 炎症性類表皮嚢腫
参考文献




