

監修医師:
五藤 良将(医師)
ケルスス禿瘡の概要
ケルスス禿瘡(ケルススとうそう)は、頭部に発生する真菌感染症の一つです。真菌とは、いわゆるカビの仲間です。
真菌は細菌やウイルスと同様に、私たちの身の回りにも数多く存在しています。ケルスス禿瘡を引き起こすのは、水虫やたむしの原因と同じ「白癬菌(はくせんきん)」の一種です。
白癬菌は皮膚糸状菌とも呼ばれます。症状は主に頭皮に現れて、脱毛斑が形成されます。 患部には膿(うみ)を含んだ水疱(すいほう)が出現し、耐えがたいほどの痛みやかゆみをともなうこともあります。
ケルスス禿瘡の治療は主に薬物療法をおこないます。早期に発見して適切な治療を受ければ完治が期待できますが、症状に気づかず放置されると重症化するリスクがあり、治療後には瘢痕(はんこん)が残る可能性もあります。
ケルスス禿瘡は、白癬菌の頭部感染である「頭部白癬」の病態の1つに含まれることもあり、頭部白癬が重症化して発症するケースも知られています。ケルスス禿瘡は若年期の発症が多く、特に小児で発症しやすいとされています。

ケルスス禿瘡の原因
ケルスス禿瘡は白癬菌の一種の感染によって発症します。白癬菌が頭皮の奥深い場所である毛包(もうほう)に侵入し、増殖することが原因です。
白癬菌は感染者との直接的な接触や感染者が使用した帽子、タオルやブラシなどを共用することによって感染する恐れがあります。足の水虫など、すでに白癬菌に感染している部位を触った手で頭や髪の毛を触ることでも、感染が起きます。
頭皮に傷や湿疹がある場合、その場所から真菌が侵入し感染を引き起こします。また長時間の発汗によって頭皮が蒸される状況においても感染しやすくなります。
ストレスなどが原因で免疫力が低下することでも、ケルスス禿瘡になるリスクがあります。
とくに子どもは免疫機能が未熟な上、適切な感染予防対策が取れなかったり頭部の清潔を自身で保てなかったりするため、ケルスス禿瘡になりやすいと考えられています。
ケルスス禿瘡の前兆や初期症状について
ケルスス禿瘡の前兆や初期症状は、頭皮の違和感や軽いかゆみです。症状の経過は比較的急性で、菌が毛包に侵入すると深部を破壊し、化膿性炎症を引き起こします。病変部は容易に毛が抜けてしまうため、脱毛斑(だつもうはん)を形成します。
膿疱(のうほう)は多発し、程度によっては腫瘤を形成します。
症状が強いケースでは激しい痛みをともなうこともあり、化膿した患部から膿がでることもあります。感染が重症化すると、発熱やリンパの腫れなどの全身症状がみられるケースもあります。
ケルスス禿瘡の検査・診断
ケルスス禿瘡の診断は患部の視診や問診を中心におこないます。症状の特徴や経過、生活環境などを確認します。頭皮の発赤や腫れ、水疱や膿疱の有無、脱毛の状態なども詳しく観察します。
確定診断のために患部の毛髪や組織などを採取し、専用の溶液を加えて培養する検査をおこないます。これを顕微鏡で観察することで、真菌の存在や種類などの詳しい情報も調べることができます。
問診や視診、検査などを総合的に判断してケルスス禿瘡の診断を下します。
ケルスス禿瘡の治療
ケルスス禿瘡の治療の基本は抗真菌薬による内服治療です。数カ月にわたる内服治療を要することが多いです。
治療は症状の進行度や状態に応じて、その他の複数の治療法を組み合わせることもあります。
なお、ケルスス禿瘡は外用薬(塗布薬)を併用すると症状が悪化するとの報告もあるため、注意が必要で、ステロイド薬の使用も医師の慎重な判断を要します。
ケルスス禿瘡になりやすい人・予防の方法
ケルスス禿瘡は白癬菌への感染によって起こるため、誰にでも発症する可能性があります。
ただし、実際には成人での発症例は多くはなく、小児や若年層での発症例が多いことが知られています。
子どもは免疫機能の発達が不十分であることや、身体的な触れ合いをともなう遊びが多いことなどから、感染機会が多いと考えられています。
成人では、日頃から頭部に汗をかきやすい人や、頭皮に傷や湿疹がある人、他部位で白癬菌への感染を放置している人も感染のリスクが高まると考えられます。 基礎疾患がある人やストレスを抱えている人も注意を要します。
ケルスス禿瘡を予防するためには、白癬菌への感染対策の徹底と日頃から頭部の清潔を維持することが重要です。
乳幼児や小さな子どもがいる家庭では、特に予防に気をつけましょう。家族の白癬菌感染は早めに治療するよう心がけ、使用するタオルやヘアブラシの共有を避けるなどの工夫が、感染対策になります。
関連する病気
- 表在性皮膚真菌症
- 深在性皮膚真菌症
- 皮膚糸状菌症
参考文献




