汗孔角化症
高藤 円香

監修医師
高藤 円香(医師)

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防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

汗孔角化症の概要

汗孔角化症(かんこうかくかしょう)は、皮膚の表面に平たく盛り上がったもの(皮疹)が発生する皮膚疾患です。皮疹は赤褐色や茶色をしており、直径が数mm〜数cmの円形や環状の形をしているのが特徴です。

一度あらわれた皮疹は治ることがなく、徐々に数が増え、一つひとつが大きくなる傾向があります。初期の皮疹は赤みを帯び、強いかゆみをともなうことが一般的です。また、汗孔角化症の皮疹は皮膚がんに移行しやすいことが報告されています。

汗孔角化症には複数のタイプが存在し、日本人に最も多くみられるのは「多発性汗孔角化症(播種状表在性光線性汗孔角化症)」です。このタイプは成人後に発症し、腕や足を中心に全身に皮疹がみられるのが特徴です。

そのほかにも、幼少期から手足の末端や顔に皮疹があらわれる「古典(ミベリ)型」、出生時から幼少期に体の一部の皮膚に集中して線状の皮疹があらわれる「線状汗孔角化症」、手のひらや足の裏に皮疹が多発して全身へと広がる「掌蹠播種型(しょうせきはしゅがた)」などが挙げられます。

汗孔角化症の詳しい原因は不明ですが、最近の研究により遺伝子の働きの異常が原因となる新たなメカニズムが解明されつつあります。
現時点では汗孔角化症に対する確立された治療法や予防法はありませんが、治療や予防法の開発に向けた研究が進められています。

汗孔角化症の原因

汗孔角化症の原因は、まだ完全には解明されていませんが、遺伝的要因が関係していると考えられています。

これまでの研究で特定の遺伝子異常が関与していることが報告されており、近年では「エピゲノム異常」が新たに関与しているメカニズムとして解明されました。エピゲノム異常とは、遺伝子そのものに異常がないにもかかわらず、遺伝子が働かなくなるという現象です。

紫外線への曝露、外傷、加齢なども汗孔角化症の発症のきっかけになると考えられています。とくに、紫外線は遺伝子を構成する物質に変化を引き起こし、汗孔角化症の発症リスクを高める可能性があることが報告されています。

汗孔角化症の前兆や初期症状について

汗孔角化症では、皮膚に平たく盛り上がった円形または環状の皮疹が多数生じます。これらの皮疹は、大きさが直径数mm〜数cmで赤褐色あるいは茶色の見た目をしており、触れるとざらざらとした感触を感じられます。

初期症状として、発生直後の皮疹は赤みを帯び、強いかゆみをともなうことが多いですが、自覚症状がないまま皮疹が広がることもあります。一度できた皮疹は消えることがないため、徐々に数が増えていくのが特徴です。

汗孔角化症のタイプによって、皮疹のあらわれる時期や部位が異なります。日本人に最も多いタイプである「多発性汗孔角化症(播種状表在性光線性汗孔角化症)」は、大人になって全身に皮疹が多発するのが特徴です。腕や足など日光にさらされやすい部分に皮疹があらわれることが一般的ですが、日光に当たらない部分にもあらわれることもあります。

また、子どものころから手足の末端や顔に皮疹が発生した場合や、体の一部の皮膚に集中して線状に皮疹が生じる場合、成長するにつれて皮疹が全身へ広がることもあります。

長年(数十年ほど)経過した皮疹は、皮膚がんに移行しやすいことも報告されており、発症後は定期的に症状を観察する必要があると考えられています。

汗孔角化症の検査・診断

汗孔角化症は、皮膚にみられる特徴的な皮疹から診断されることが一般的です。皮疹の出現している部位や出現時期などについて医師が視診や触診を行います。

必要に応じて、皮膚の組織の一部を採取して顕微鏡でくわしく細胞を調べる「皮膚生検」を実施することで、似た症状をもつ他の皮膚疾患との区別を行います。

汗孔角化症の治療

汗孔角化症を根本的に治療する方法は確立されていませんが、症状を軽減するための対症療法が行われています。主に行われるのは、角質をやわらかくしたり、古い角質を取り除く作用をもつ外用薬(サリチル酸、尿素など)の使用です。ビタミンA(レチノイド)の外用薬や内服薬が処方されることもあります。

外用薬や内服薬で十分な治療効果が得られない場合は、レーザー治療や手術、液体窒素を使用した凍結療法などの外科的治療によって、皮疹の除去が検討されることもあります。しかし、現時点で汗孔角化症に効果的な治療法はなく、現在も新たな治療法の開発に向けた研究が進められています。

汗孔角化症になりやすい人・予防の方法

家族に汗孔角化症の人がいる場合は、家族歴のない人に比べて発症リスクが高い可能性があると考えられています。
ただし、汗孔角化症には遺伝性のものと非遺伝性のものがあることが近年明らかになっており、必ずしも遺伝するわけではありません。今後は遺伝学的診断によって、親から子どもに遺伝するリスクを診断できるようになると考えられています。
また、日本人の400人に1人が汗孔角化症の発症要因となる遺伝子の変化を持っていることが明らかになっており、くわしい発症メカニズムや予防法のさらなる解明が期待されています。

汗孔角化症の明確な予防方法はありませんが、紫外線への曝露をきっかけに発症するタイプがあることから、紫外線を避けることが予防につながる可能性があります。遺伝的に発症リスクが高いことがわかっている場合は、長袖や帽子の着用、日焼け止めの使用などにより、紫外線対策を徹底することが推奨されます。


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