尋常性魚鱗癬

監修医師：
五藤 良将（医師）

尋常性魚鱗癬の概要

尋常性魚鱗癬（じんじょうせいぎょりんせん）は、「魚鱗癬（ぎょりんせん）」と総称される皮膚疾患のタイプ（病型）のひとつです。 魚鱗癬では、全身または広範囲の皮膚が過剰に厚くなる「角化」とよばれる状態が生じ、皮膚は魚のうろこ状やさめ肌状（鱗屑）のようになり、剥がれ落ちる（落屑）症状がみられます。

魚鱗癬にはさまざまなタイプがあり、症状や遺伝形式、原因となる遺伝子などにより分類されます。その中でも最も一般的で頻度が高く、軽症とされるのが「尋常性魚鱗癬」です。

尋常性魚鱗癬の原因は、特定の遺伝子変異です。常染色体半優性遺伝という形式で遺伝し、おおよそ200〜250人に1人の割合で発症するとされています。

症状が軽度である潜在的な患者数を含めると、人口の約10%が尋常性魚鱗癬に該当すると推測されており、それほど珍しい疾患ではないといえます。

現在までに、尋常性魚鱗癬を根治させる治療法は確立されていませんが、活性型ビタミンD3や尿素を含む外用剤、保湿剤を使用して、皮膚症状を軽減する治療が行われています。

尋常性魚鱗癬は、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を合併することが多く、その場合はそれぞれに対する治療が必要です。

尋常性魚鱗癬の原因

尋常性魚鱗癬は、遺伝子変異によって引き起こされます。とくに、フィラグリンとよばれるタンパク質をつくる遺伝子（FLG）に異常が生じることが原因です。

フィラグリンは皮膚の水分を保持し、バリア機能を維持する役割を担っています。この機能が損なわれることで皮膚が乾燥し、魚のうろこのように剝がれやすくなります。

フィラグリン遺伝子の変異は、アトピー性皮膚炎などにも関与していることが知られており、尋常性魚鱗癬との関連性が指摘されています。

尋常性魚鱗癬の前兆や初期症状について

尋常性魚鱗癬の初期症状として、皮膚の乾燥や、細かいうろこのような皮膚のはがれ（落屑）がみられます。 とくに、膝から足首にかけての前面（下肢伸側）や背中の皮膚に症状がみられることが多いのが特徴です。一方で、関節の曲がる側（関節屈側）や腋の下、外陰部に症状があらわれることは少ないとされています。 乾燥しやすい冬に症状が悪化し、湿度の高い夏には軽快する傾向があります。

尋常性魚鱗癬は、魚鱗癬の中では最も軽症であるため、症状が軽い場合は見過ごされることも多いです。 一般的に、出生時は無症状であることが多く、生後6ヶ月以降の乳幼児期に発症し、10歳ごろまでは進行するものの、20〜30歳を過ぎると軽快することが多いとされています。

皮膚の乾燥やはがれ以外にも、手のひらのしわが深くなる「掌紋増強」や、毛穴の部分が小さく盛り上がって鳥肌のようになり、ざらざらとした感触をもたらす「毛孔性角化症（毛孔性苔癬）」をともなうことがあります。

また、アトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎、喘息などのアレルギー疾患を合併する頻度が高いことも報告されています。

尋常性魚鱗癬の検査・診断

尋常性魚鱗癬の診断は、皮膚症状の視診と問診をもとに行われます。

視診では、皮膚の乾燥状態やうろこ状の皮膚のはがれ（落屑）など、尋常性魚鱗癬に特徴的な症状を確認します。問診では、発症時期や出現場所、症状などについてくわしく聞き取ります。 家族に同様の症状をもつ人がいる場合は、尋常性魚鱗癬の可能性が高いと判断されます。

尋常性魚鱗癬でみられる皮膚症状は、ほかの皮膚疾患でみられることもあります。ほかの皮膚疾患と区別するため、皮膚の一部を採取し、顕微鏡でくわしく調べる病理検査を実施する場合もあります。

尋常性魚鱗癬の治療

現在までに、尋常性魚鱗癬を根本的に治す治療法は確立されておらず、症状をやわらげることを目的とした対症療法が基本となります。

治療には、尿素やサリチル酸ワセリン、活性型ビタミンD3を含む軟膏などの外用薬を使用することが一般的です。これらの外用薬には、皮膚の厚い角質を薄くしたり、角質をはがれやすくさせる効果があります。また、ヘパリン類似物質や白色ワセリンなどの保湿剤をあわせて使用することで皮膚の乾燥を防ぎ、皮膚のバリア機能を強化します。

アトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎、喘息などを合併している場合は、それぞれに適した治療が行われます。

尋常性魚鱗癬になりやすい人・予防の方法

尋常性魚鱗癬は遺伝性疾患であるため、家族に同様の症状をもつ人がいる場合には、発症リスクが高まると考えられています。

常染色体半優性遺伝の形式で遺伝するため、両親から受け継いだ1対の原因遺伝子（フィラグリン遺伝子）のどちらか一方に変異があるだけでも、尋常性魚鱗癬を発症します。したがって、両親のいずれかが尋常性魚鱗癬を発症している場合、子どもが発症する確率は50%です。

現在までに、尋常性魚鱗癬の発症を予防する方法はありませんが、症状の軽減や悪化を防ぐために日常的なスキンケアが重要です。

毎日の入浴で皮膚を清潔に保ち、保湿剤によって皮膚の乾燥を防ぎ、皮膚のバリア機能を損なわないようにすることが推奨されています。 日常生活では、衣服による皮膚の摩擦を避け、入浴時はなるべく優しく洗うように心がけましょう。