

監修医師:
五藤 良将(医師)
無毛症の概要
無毛症とは、頭部や脇の下、陰部などの毛が、部分的にまたは全体的に生えない疾患を指します。多くは遺伝子の異常によって発症すると考えられています。
生まれたばかりの赤ちゃんは、一般的に頭部に毛髪が生えていることが多いですが、無毛症の赤ちゃんは生まれつき頭部に毛髪が生えていなかったり、生後しばらくして部分的に脱毛を認めたりすることがあります。
また、脇毛や陰毛は、10歳前後の思春期頃から男性ホルモン(テストステロンなど)の作用によって生え揃い始めますが、無毛症の患者では成長しても脇毛や陰毛が生えないことがあります。
頭部の無毛症は、症状によって「限局性無毛症」と「全頭無毛症」の2つに分けられます。
限局性無毛症は、頭部の一部に毛髪が生えない状態です。患者さんの多くは、生まれた時には毛髪が生えていたものの、生後6ヶ月頃までに毛髪が抜け落ちます。
一方の全頭無毛症は、名称の通り頭部全体に毛髪が生えない状態です。
無毛症全体としては、脇毛や陰毛が生えない症状を呈するケースが多い傾向にあります。しかし、脇毛や陰毛は目立たない場所にあることから問題視されず診断に至らないケースも想定されます。
いずれも原因として複数の遺伝子が特定されています。そのため、両親が無毛症の場合には、子どもにも発症する可能性があります。
無毛症は、現在のところ有効な治療法が確立されていません。
限局性無毛症では、毛髪の生えない部分を切除する治療がおこなわれたり、発症の原因として「男性ホルモン分泌不全」を認める場合には、男性ホルモンの補充療法がおこなわれたりすることがあります。

無毛症の原因
無毛症の原因の多くは遺伝子の異常によるものです。原因として複数の遺伝子が特定されています。
例えば、「HR遺伝子」という遺伝子に異常が生じることで、体内でのビタミンDや甲状腺ホルモンの働きに悪影響を及ぼし、毛髪が生えなくなることがあります。
HR遺伝子が原因の場合には「常染色体劣性遺伝」という遺伝形式で発症することが分かっています。常染色体劣性遺伝では、両親が無毛症の場合に子どもも無毛症を発症する可能性があります。
このほか、「男性ホルモン分泌不全」と呼ばれる疾患や、放射線や薬剤の影響によって発症するケースもあります。
無毛症の前兆や初期症状について
限局無毛症では、生後6ヶ月頃までに頭部の一部の毛髪が抜け落ちます。また、思春期以降に、頭部だけでなく脇の下や陰毛などの毛髪が生えないケースもあります。
一方の全頭無毛症では、頭部全体に毛髪が生えなくなります。
しかし、いずれの病型でも症状は一定ではなく、他にもさまざまな症状を伴うことがあります。
また、無毛症に伴い「精神発達遅延」や「外胚葉異形成症」などを合併しているケースもあります。
精神発達遅延では、コミュニケーションに障害を持つ「自閉スペクトラム症」や、多動が目立つ「注意欠陥・多動症」、読み書きや計算が困難な「学習障害」など患者によってさまざまな症状が見られます。
また、外胚葉異形成症では、毛髪のほか爪や歯、汗腺などの外胚葉組織が正常に育たず、歯の本数が通常よりも少ない、汗をかきにくく皮膚が乾燥しやすいなどの症状を認めることがあります。
なお、無毛症と似ている疾患に「乏毛症」があります。無毛症と非常に似た症状を呈することがあるものの、細い毛がまばらに生えていたり、縮れた毛(縮毛)を認めたりすることが特徴です。
無毛症の検査・診断
無毛症が疑われる場合には、問診や視診、血液検査がおこなわれます。
問診では、毛髪が生えない他に気になる症状がないかなどを確認します。視診では、毛髪の状態や脱毛している部分などを確認します。血液検査では、血液を採取し、男性ホルモンの値や遺伝子に異常がないかを調べます。
無毛症の治療
無毛症の治療は原因によって異なります。
遺伝子が原因の場合には、現時点では治療法が見つかっていないのが現状です。
一方、男性ホルモン分泌不全の場合には、男性ホルモンの「テストステロン」を全身に投与したり患部に塗ったりする治療がおこなわれます。
このほか、限局性無毛症の場合には、毛髪が生えない部位の皮膚を切除する手術が考慮されるケースもあります。
無毛症になりやすい人・予防の方法
無毛症になりやすい人は分かっていません。しかし、多くの患者さんが遺伝子の異常によって発症することから、両親が無毛症の場合には子どもにも発症する可能性があります。
両親が無毛症で妊娠を希望する場合や、生後頭部に毛髪が生えない部分がある場合などは、皮膚科などの専門医を受診しましょう。
関連する病気
- 乏毛症
- 男性ホルモン分泌不全
- 外胚葉異形成症
- 精神発達遅延
- 自閉スペクトラム症
- 注意欠陥・多動症
- 学習障害
参考文献




