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乳房外パジェット病
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

乳房外パジェット病の概要

乳房外パジェット病は、明るい胞体(細胞質)と大きな核を持つ特徴的な腫瘍細胞が皮膚の表皮内で増殖する皮膚の悪性腫瘍です。この疾患は、人口10万人あたり年間0.13人の発症率とされる白人に比べ、アジア圏では0.28人と約2倍の発症率が報告されており、特に日本での発症が多いことが特徴です。日本では年間約200例以上の報告があり、皮膚悪性腫瘍の約10%を占めると考えられています。性別では、日本では男性:女性の比率が約2:1と男性に多い傾向がありますが、これは女性の場合、外陰部に生じる疾患であることから羞恥心により受診が遅れる可能性が指摘されています。発生部位は、アポクリン汗腺が多く存在する部位に生じやすく、外陰部が最も多く、次いで腋窩(わきの下)、肛囲の順となっています。

乳房外パジェット病の原因

この病気の正確な発生メカニズムは、現在でも完全には解明されていません。最も有力な説として、皮膚の表面にある多機能幹細胞が何らかの原因で異常を起こすことで発症するという考え方があります。また、アポクリン腺という特殊な汗腺から発生するという説もあります。アポクリン腺は主に外陰部や肛門周囲、脇の下などに存在し、通常の汗腺とは異なる特殊な分泌物を出す腺です。そのほかにも、バルトリン腺という外陰部にある分泌腺から発生する可能性も指摘されています。また、近くにある臓器のがんが皮膚に広がることで発症する場合もあります。これを二次性(続発性)の乳房外パジェット病と呼び、大腸がんや膀胱がんなどが皮膚に広がることで起こることが知られています。このように、一つの病気のように見える乳房外パジェット病ですが、実際には複数の異なる原因で発症する可能性があり、そのため診断時には慎重な検査が必要となります。

乳房外パジェット病の前兆や初期症状について

初期症状としては、湿疹のような赤い斑点や、かゆみを伴う皮疹として現れることが多いです。病変部は徐々に広がっていき、湿潤(じゅくじゅくした状態)や色素沈着を伴うことがあります。特に外陰部は元々色素沈着があり、また湿潤しやすい場所であるため、病変の境界が分かりにくくなることがあります。このため、一般的な湿疹として見過ごされることもあり、注意が必要です

乳房外パジェット病の検査・診断

診断の第一歩は、皮膚の生検検査です。これは病変のある部分の皮膚の一部を局所麻酔で痛みを感じないようにしてから採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。この検査により、乳房外パジェット病に特徴的な腫瘍細胞(Paget細胞)があるかどうかを確認します。この細胞は、特徴的な明るい細胞質と大きな核を持っているため、専門医が顕微鏡で見ることで判断することができます。また、病変の場所によって追加の検査が必要になることがあります。例えば、肛門の周りに病変がある場合は、直腸の検査が必要です。同様に、尿道の周りに病変がある場合は膀胱の検査を、腟の入り口付近に病変がある場合は子宮の検査を行います。これは、他の臓器のがんが皮膚に広がってきた可能性があるためです。
特に重要なのは、皮膚から発生した乳房外パジェット病なのか、他の臓器のがんが皮膚に広がってきたものなのかを見分けることです。これを調べるために、採取した組織に特殊な染色を施して、GCDFP15とCK20というタンパク質の有無を確認します。皮膚から発生した乳房外パジェット病の場合は、GCDFP15というタンパク質が存在し、CK20というタンパク質は存在しません。逆に、他の臓器のがんが広がってきた場合は、その逆のパターンを示すことが多いのです。
ただし、この染色検査の結果だけで判断するのではなく、内視鏡での観察や画像検査なども含めて総合的に診断を行います。また、病変がどこまで広がっているかを正確に把握するために、病変の周りの複数の場所から少しずつ組織を採取して調べることもあります。
さらに、病気の進行度を調べるために、CTやMRIなどの画像検査を行うこともあります。これらの検査は体の中の状態を詳しく見ることができ、病気が周りのリンパ節や他の臓器に広がっていないかどうかを確認するために重要です。
このように、様々な検査を組み合わせることで、より正確な診断を行い、それぞれの患者さんに最も適した治療方法を選択することができます。また、治療後も定期的に検査を行うことで、病気の再発がないかどうかを確認していきます。

乳房外パジェット病の治療

治療の基本は手術による切除です。病変の境界が明確な場合は、その境界から1cm程度の余裕を持って切除します。境界が不明確な場合は、より広い範囲(約3cm)の切除が必要となることがあります。また、手術前に複数箇所の小さな生検(マッピング生検)を行って、腫瘍の広がりを確認することもあります。
手術が難しい高齢の患者さんや、全身状態が良くない方に対しては、以下のような代替治療を検討します。

  • 光線力学的療法:特殊な薬剤を塗布した後にレーザー光を照射する治療
  • イミキモド外用療法:免疫力を活性化する薬剤を塗布する治療
  • 放射線療法:症状緩和を目的とした治療

また、腫瘍が深部に浸潤している場合は、リンパ節への転移の可能性を調べるためにセンチネルリンパ節生検という検査を行うことがあります。

乳房外パジェット病になりやすい人・予防の方法

乳房外パジェット病になりやすい人

この病気は高齢者、特に60歳以上の方に多く発症する傾向があります。また、先に述べたように、日本を含むアジア圏での発症率が高いことも特徴です。特にアポクリン腺が多く存在する外陰部、腋窩、肛囲などの部位に症状が出やすいため、これらの部位の日常的な観察が重要です。

予防の方法

予防法としては、日常的なスキンケア定期的な自己観察が重要です。特に外陰部や肛門周囲などに湿疹様の症状が現れた場合、通常の治療で改善が見られない場合は、早めに皮膚科専門医への受診を検討することが推奨されます。また、これらの部位は湿潤になりやすく、二次感染を起こしやすい部位でもあるため、清潔を保つことも大切です。
また、一度乳房外パジェット病を発症した方は、局所再発の可能性があるため、定期的な経過観察が重要です。術後5年間は3~6ヶ月ごと、その後は半年~1年ごとの診察が推奨されており、手術した部位とその周辺の慎重な観察が必要とされています。特に、アジア人は発症リスクが高いため、疑わしい症状がある場合は、羞恥心から受診を躊躇することなく、早めに医師に相談することが望ましいでしょう

関連する病気

  • 陰嚢パジェット病
  • 肛門パジェット病
  • 陰茎がん
  • 慢性湿疹
  • 外陰白板症
  • 浸潤性がん

参考文献

  • 藤澤康弘,大塚藤男:皮膚悪性腫瘍―基礎と臨床の最新研究動向 悪性黒色腫 皮膚悪性腫瘍の疫学調査―日本と外国の国際比較―,日本臨牀,2013; 71: 7-12.
  • Ishihara K, Saida T, Otsuka F, et al: Statistical profiles of malignant melanoma and other skin cancers in japan: 2007 update, Int J Clin Oncol, 2008; 13: 33-41.
  • 石原和之:Paget病全国アンケートの集計と説明,Skin Cancer, 1994; 9 special Issue: 37-43.
  • 神谷秀喜:乳房外Paget病グループスタデイ2010年報告,日本皮膚外科学会誌,2011; 15: 148-151.
  • Murata Y, Kumano K: Extramammary Paget's disease of the genitalia with clinically clear margins can be adequately resected with 1 cm margin, Eur J Dermatol, 2005; 15: 168-170.

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