監修医師:
高藤 円香(医師)
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先天性魚鱗癬様紅皮症の概要
先天性魚鱗癬様紅皮症(せんてんせいぎょりんせんようこうひしょう)は、遺伝的な要因によって皮膚のバリア機能が障害されることで生じる皮膚疾患です。出生直後や新生児期から症状があらわれることが多く、全身または広範囲で皮膚が過剰に厚く、赤くなり、魚のうろこ状やさめ肌状(鱗屑)のようになることが特徴です。
症状や原因となる遺伝子、発症のメカニズムなどにより、細かく病型(タイプ)が分類されています。
2009年に国際的に統一された新分類にもとづき、水ぶくれがみられる「水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症(表皮融解性魚鱗癬)」、水ぶくれがみられない「非水疱型魚鱗癬様紅皮症(先天性魚鱗癬様紅皮症)」、赤みがなく大型のうろこ状の皮膚が特徴的な「葉状(ようじょう)魚鱗癬」、全身の皮膚が非常厚く硬いうろこ状になる最も症状の重い「道化師様魚鱗癬」、皮膚以外の症状をもつ「魚鱗癬症候群」などに分類されます。
症状の程度には個人差があり、重症の魚鱗癬では、まぶたやくちびるが反り返り、耳の変形がみられます。成長とともに症状が軽快することもありますが、多くの場合生涯にわたって症状が持続し、日常生活に影響を及ぼします。皮膚が細菌やウイルスに感染しやすいため、ごく一部の重症例では新生児期、乳幼児期に亡くなることがあります。
先天性魚鱗癬様紅皮症の原因は、皮膚の表皮細胞の分化や脂質の産生、代謝、輸送にかかわる遺伝子の異常です。この遺伝子異常により、皮膚の正常なバリア機能が損なわれ、先天性魚鱗癬様紅皮症を発症すると考えられています。
先天性魚鱗癬様紅皮症は、患者数が日本全国で100〜300人ほどの極めてまれな疾患です。
現在までに、先天性魚鱗癬様紅皮症を根治させる治療法はなく、治療は皮膚症状への対症療法が基本です。重症な場合は、新生児期から点滴による脱水症状の防止、体温管理、細菌やウイルス感染した皮膚の治療などが必要になることがあります。
先天性魚鱗癬様紅皮症の原因
先天性魚鱗癬様紅皮症の原因は、皮膚の表皮細胞の形成や脂質の産生、代謝、輸送にかかわる遺伝子の異常です。皮膚には本来、細菌やウイルス、異物などが体に侵入するのを防ぎ、体から水分が蒸発しないようにするバリア機能が備わっていますが、先天性魚鱗癬様紅皮症では特定の遺伝子異常により、表皮のバリア機能が損なわれ、さまざまな皮膚症状があらわれると考えられています。
魚鱗癬のタイプによって原因となる遺伝子は異なり、先天性魚鱗癬様紅皮症(非水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症)では、トランスグルタミナーゼ1、ABCA12、ALOXE3、ALOX12B、NIPAL4、CYP4F22などの遺伝子に異常があることが報告されています。
先天性魚鱗癬様紅皮症の前兆や初期症状について
先天性魚鱗癬様紅皮症では、多くの場合、生まれたときから全身の皮膚が赤くなり、魚のうろこ状やさめ肌状(鱗屑)になります。皮膚症状は、かゆみをともなうこともあります。
非水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症や葉状魚鱗癬の赤ちゃんは、半透明で光沢のある薄い膜に包まれてくることがあり、「コロジオン児」とよばれます。
病型(タイプ)により症状は異なり、水ぶくれ(水疱)やあかむけ(びらん)がみられるものもあります。重症の場合、まぶたやくちびるが反り返ったり、耳が変形したり、手のひらや足の裏の皮膚が非常に厚くなることがあります。
手のひらや足の裏の皮膚が厚くなることで手足の変形が強くなると、日常生活や歩行に支障をきたすほか、姿勢が崩れるなどの症状がみられます。その結果、身長の伸びや体重の増加が妨げられることがあります。
また、発汗障害があるため高体温になりやすく、体温の異常な上昇にも注意が必要です。
皮膚の症状だけでなく、他の臓器の合併症をともなうこともあります。皮膚が細菌やウイルスに感染したり、水分が過剰に蒸発したりすることで、ごくまれに、新生児期や乳幼児期に命を落とす場合もあります。成長とともに症状が軽快することもありますが、生涯にわたって続くことが多いです。
先天性魚鱗癬様紅皮症の検査・診断
先天性魚鱗癬様紅皮症は、特徴的な皮膚症状の視診と皮膚の組織検査などによって診断されます。
出生時の「コロジオン児」や皮膚症状、家族歴などによって先天性魚鱗癬様紅皮症が疑われる場合、皮膚の一部を採取しくわしく調べます。また、遺伝子検査により、遺伝子異常の有無を確認することもあります。
先天性魚鱗癬様紅皮症の治療
先天性魚鱗癬様紅皮症を根治させる治療法はなく、皮膚症状を軽減する対症療法が行われます。
角質をとかす外用薬(サリチル酸ワセリン、尿素剤など)や保湿剤、皮膚の厚い角層を薄くする作用のある活性型ビタミンD3軟膏などを使用することが一般的です。
細菌感染がみられる場合は、抗生物質や抗菌作用のある薬が使用されます。また、かゆみが強い部分には、炎症を抑える作用のある外用剤が使用されます。
重症の場合には、新生児期に脱水症状を防止するための点滴、体温の管理、皮膚の細菌やウイルス感染に対する治療などが必要になることがあります。また、身長の伸びや体重の増加が思わしくない場合には、栄養剤などを補給することも検討されます。
先天性魚鱗癬様紅皮症になりやすい人・予防の方法
先天性魚鱗癬様紅皮症は遺伝性疾患であり、現時点では予防する方法がありません。同じ疾患をもつ人が家系にいる場合や、血縁関係にある人同士が結婚した場合には、発症リスクが高まると考えられます。
病型(タイプ)によって遺伝形式が異なり、遺伝する確率にも差があります。水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症は常染色体優性遺伝であるため、父親または母親のどちらか一方が発症している場合、子どもが発症する確率は50%です。
そのほかの常染色体劣性遺伝の先天性魚鱗癬様紅皮症では、1対の遺伝子のうち両方に異常があると発症します。この場合、両親がそれぞれ1つずつ遺伝子異常を持っていると、子どもが発症する確率は25%です。
また、子どもの半数は発症しないものの、遺伝子異常をもつ保因者となります。なお、先天性魚鱗癬様紅皮症の発症において、男女差はないといわれています。
関連する病気
- 尋常性魚鱗癬
- X連鎖性劣性魚鱗癬
- ケラチン症性魚鱗癬
- 表皮融解性魚鱗癬
- 表在性表皮融解性魚鱗癬
- 常染色体劣性先天性魚鱗癬
- 道化師様魚鱗癬
- 葉状魚鱗癬
- 魚鱗癬症候群
- 表皮水疱症
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参考文献