監修医師:
高藤 円香(医師)
皮膚結核の概要
皮膚結核は、結核菌への感染と発症により皮膚が障害される疾患です。
結核の多くは肺に発症しますが、肺以外の組織や臓器に発症するものもあります。肺以外に発症するものは「肺外結核」と呼ばれ、皮膚結核のほか「泌尿生殖器結核」「髄膜結核(結核性髄膜炎)」「心膜結核(結核性心膜炎)」「リンパ節結核」「粟粒結核」などが知られています。
皮膚結核は肺外結核の中でも比較的まれな症例です。結核菌が皮膚を直接障害する「真性皮膚結核」と、結核菌に対するアレルギー反応として生じる「結核疹」に大きく分けられます。
皮膚結核を発病すると、首や顔、手足など全身の皮膚にしこりができたり、赤く盛り上がる「丘疹」ができたりすることがあります。他にも、数種類の病態があることが知られています。
治療は他の結核と同様で、抗結核薬を用いた化学療法がおこなわれます。
皮膚結核の原因
皮膚結核は、結核菌への感染がもとで起こります。
皮膚結核では、体内の他の結核菌の病巣から皮膚へと結核菌が移行する例や、傷口などから直接結核菌が入る例が知られています。
結核の感染と発病
結核菌の感染経路は主に「空気感染(飛沫核感染)」で、結核に感染している人の咳やくしゃみから出たしぶきに含まれる結核菌を吸い込んで感染します。
ただし、結核菌に「感染」していても必ずしもすべての人が結核を「発症」するわけではありません。健康な人の多くは感染していても発症せず、新たに別の人へ結核菌を感染させることもないとされています。
感染者が小児や高齢者の場合、あるいは健康な人であっても免疫力の低下があった場合に、感染していた結核菌が体内で増殖し発症に至ります。
結核は世界中で感染が確認されており、日本でも明治以降人口が増加したことで蔓延し「国民病」と呼ばれた時代もありました。その後は「結核予防法」が策定され、結核予防のための対策が講じられたことから感染者数は激減しました。しかし、現代でも感染や発症は報告のある疾患です。
皮膚結核の前兆や初期症状について
結核菌へ感染していることや他の結核を発症していることが、皮膚結核の前兆となり得ます。傷口などから結核菌が直接入るようなまれなケースでは、前兆を知ることは難しいでしょう。
皮膚結核を発症すると、病態によって以下のような症状がみられます。
皮膚腺病
薄い赤色をした痛みのないしこりができます。しこりは特に首に多く認め、次第に柔らかくなって皮膚に穴が開き、膿が出ることがあります。
尋常性狼瘡
顔や首、前腕に小さく盛り上がった赤い丘疹ができます。丘疹は通常体の片側に一個のみ認めますが、複数できるケースもあります。次第に丘疹同士がくっついて「紅斑」と呼ばれる広い範囲になり、紅斑の表面は皮が剥けて痕が残ります。
硬結性紅斑
膝から下1/3の範囲に赤黒く盛り上がった紅斑やしこりができます。特に中高年の女性に生じやすく、基礎疾患として足の静脈が障害されて血流に異常が生じる「慢性静脈不全」や肥満を伴っていることが多いといわれています。
皮膚疣状結核
手足やお尻の皮膚に硬く小さいしこりが数個できます。しこりは次第にくっついて範囲が広くなり、その周囲は赤いイボ状の病変を形成します。
丘疹壊疽性結核疹
両肘の内側や手足の裏側に1cm大ほどの赤黒い丘疹ができます。丘疹は次第に膿を持つようになり、痕を残しながら一度治癒しますが、同じような丘疹が次々と発生します。
陰茎結核疹
陰茎や亀頭部に痛みを伴う潰瘍が発生します。
腺病性苔癬
体の中心や手足などに数mm大の丘疹ができます。丘疹はいろんなところに散らばってできるほか、丘疹同士が集まって大きな範囲になることもあります。
皮膚結核の検査・診断
皮膚結核の検査では、血液検査やツベルクリン反応検査、病理組織学的検査などがおこなわれます。
血液検査では、一般的な検査項目のほか、体内の炎症反応の程度などを調べます。
ツベルクリン反応検査は、結核菌による感染の有無を調べる検査です。感染している場合、結核菌が反応する薬剤を注射で投与すると、注射部位に赤みや腫れなどのアレルギー反応がみられます。
病理組織学的検査は、患部の皮膚を一部採取して細胞の状態を顕微鏡で調べる検査です。皮膚の状態を確認するほか、他の疾患と鑑別するためにおこなわれます。
このほか、効果の期待できる薬剤を選択するために、患部から細菌を採取して培養するなどし、原因菌の明確な種類を特定する「薬剤耐性菌検査」がおこなわれることもあります
皮膚結核の治療
皮膚結核では、他の結核と同様に抗結核薬を複数併用した化学療法がおこなわれます。
一般的に、治療は6ヶ月以上継続しておこなわれます。標準的な治療では、最初の2ヶ月に抗結核薬の「イソニアジド」に加え「リファンピシン」「ピラジナミド」「ストレプトマイシン」または「エタンブトール」の4種類の薬剤で治療をおこないます。その後4ヶ月間は、リファンピシンとイソニアジドの2種類か、リファンピシン、イソニアジド、エタンブトールの3種類の薬剤で治療をおこないます。
皮膚結核になりやすい人・予防の方法
皮膚結核になりやすい人は、結核菌に感染している人です。したがって、結核菌への感染対策をすることは、皮膚結核の予防につながります。
手洗いやうがいの励行、人混みでのマスクの着用を心がけることは感染対策として有効とされています。高齢者や小児、免疫抑制薬等で治療中の人は特に入念に感染対策を心がけ、結核患者との接触は避けるほうが賢明です。
また、万一結核菌に感染しても、必ずしもすべての人に発症があるわけではありません。
しかし、健康であっても、生活習慣が乱れることで発症リスクが高まる可能性はあります。生活習慣を整え、免疫力の維持・向上に努めましょう。適度な運動や規則正しい食生活を心がけ、十分に睡眠をとって体を休めたり、シャワーではなくゆっくり入浴したりすることも効果的です。
定期的に健康診断を受けることで結核の早期発見と早期治療が望めます。健康な成人であっても、年に1度は健康診断を受けるようにしましょう。学校や職場で健診が行われない場合には、居住する自治体で実施される健診等を確認しましょう。
このほか、結核の発病を予防するための方法として、BCGワクチンがあります。特に乳幼児期にBCGワクチン接種を終えた場合には、結核に対して高い発病予防効果が期待できるとされています。
関連する病気
- 泌尿生殖器結核
- 髄膜結核(結核性髄膜炎)
- 心膜結核(結核性心膜炎)
- リンパ節結核
- 粟状結核
参考文献