隆起性皮膚線維肉腫
西田 陽登

監修医師
西田 陽登(医師)

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大分大学医学部卒業。大分大学医学部附属病院にて初期研修終了後、病理診断の研鑽を始めると同時に病理の大学院へ進学。全身・全臓器の診断を行う傍ら、皮膚腫瘍についての研究で医学博士を取得。国内外での学会発表や論文作成を積極的に行い、大学での学生指導にも力を入れている。近年は腫瘍発生や腫瘍微小環境の分子病理メカニズムについての研究を行いながら、様々な臨床科の先生とのカンファレンスも行っている。診療科目は病理診断科、皮膚科、遺伝性疾患、腫瘍全般、一般内科。日本病理学会 病理専門医・指導医、分子病理専門医、評議員、日本臨床細胞学会細胞専門医、指導医。

隆起性皮膚線維肉腫の概要

隆起性皮膚線維肉腫(Dermatofibrosarcoma Protuberans: DFSP)は、皮膚の深部である真皮中の結合組織細胞から発生するまれな皮膚がん・皮膚腫瘍の一種です。この腫瘍は軟部肉腫に分類され、多くは線維芽細胞から発生しますが、脂肪、筋肉、神経、血管などの軟部組織からも起こります。DFSPは進行が遅い一方で局所を強く破壊するため、適切な治療を行わない場合、再発する可能性が高いことが特徴です。

通常、DFSPは皮膚にしこりとして現れ、ほかの良性皮膚疾患と間違えられることもあります。胴体、腕、脚に発生することが多いものの、身体のどこにでも現れる可能性があります。転移は稀ですが、同じ場所での再発傾向が強いため、早期発見と適切な治療が重要です。

隆起性、という表現がつくように、この腫瘍は隆起した外観が特徴です。初見ではあざや母斑と間違えられることもありますが、DFSPの理解は早期症状の認識と適切な医療介入のために重要です。

隆起性皮膚線維肉腫の原因

隆起性皮膚線維肉腫の正確な原因は不明ですが、いくつかの要因がその発症に関与していると考えられています。

遺伝子変異

DFSPに関連する特定の遺伝子変異が研究で明らかになっています。それは染色体転座(特に t(17;22))と呼ばれるもので、この転座によりCOL1A1とPDGFBという2つの遺伝子が融合します。この融合遺伝子が異常なタンパク質を生成し、線維芽細胞の過剰な増殖を引き起こして腫瘍を形成します。

皮膚の外傷歴

手術痕や外傷など、以前の皮膚の損傷がDFSPの発症リスクを高める可能性が示唆されています。一部の腫瘍は、過去に損傷や炎症を受けた部位に発生することがあります。

環境要因

詳細は不明ですが、特定の環境要因への曝露がDFSPの発症に関与する可能性を示唆する研究もあります。ただし、これらの関連性を明確にするにはさらなる研究が必要です。

これらの要因に関連する場合もありますが、DFSPと診断された多くの患者さんには特定のリスク因子が確認されないこともあります。

隆起性皮膚線維肉腫の前兆や初期症状について

早期発見は治療結果を大きく改善します。該当する症状があれば、皮膚科を受診しましょう。以下はDFSPに関連する一般的な症状です。

硬い結節や斑状の隆起

初期の兆候として、皮膚に硬いしこりや結節が現れることがあります。色は皮膚と同じ色または少し褐色で色素沈着を伴っている場合があります。この部分は時間とともに大きな斑状に進行することがあります。

ゆっくりとした成長

DFSPは通常、数ヶ月から数年かけて徐々に大きくなります。患者さんは、形状やサイズの変化をゆっくりと認識することが多いです。

圧痛や痛み

初期段階ではほとんど不快感を感じない患者さんが多いですが、腫瘍が周囲の組織に深く進行するにつれて圧痛や痛みを感じることがあります。

皮膚の質感の変化

腫瘍の表面は滑らか、またはやや鱗状に見えることがあります。未治療のまま放置された場合、潰瘍化(破裂、皮膚表面に露出)することがあります。

局所再発

治療後に腫瘍が完全に除去されていない場合、同じ場所で再発する可能性が高いです。再発は新しい結節や既存の病変の変化として現れることがあります。

これらの症状に早期に気づくことが、タイムリーな診断と治療に繋がります。皮膚の異常が長期間持続する場合は、医療専門家に相談することが重要です。

隆起性皮膚線維肉腫の検査・診断

DFSPの診断は、以下の手順で行われます。

1. 身体検査

医師が、皮膚の患部を詳細に観察します。結節や腫瘍のサイズ、形状、色、質感などの特徴を評価します。

2. 病歴の確認

医師は、これまでの病歴や皮膚損傷の有無、現在の症状との関連性について確認します。

3. 皮膚生検

DFSPの確定診断には、腫瘍から組織を採取して検査する生検が必要です。生検サンプルは病理医によって顕微鏡下で分析され、DFSP特有の腫瘍細胞が存在するか確認されます。主な生検方法には以下があります。

パンチ生検
小型の針のような円形ツールで皮膚の一部を採取。
切除生検
腫瘍とその周囲の組織を含むある程度大きな組織を採取。

4. 画像検査

腫瘍の広がりや周囲の組織への侵入を評価するために、MRI(磁気共鳴画像)などの画像検査が行われる場合があります。

5. 遺伝子検査

必要に応じて、生検サンプルに遺伝子検査を行い、DFSPに関連する特定の変異を確認します。これにより、診断の確定や治療選択肢の調整が可能です。

隆起性皮膚線維肉腫の治療

DFSPの主な治療法は腫瘍の外科的切除です。腫瘍のサイズ、部位、再発歴などの要因によって治療法が異なります。

外科的治療

1. 広範囲切除

腫瘍とその周囲の正常な組織を十分に含むように切除します。再発リスクを最小限に抑えることが目的です。

2. モーズ顕微鏡手術

腫瘍細胞が検出されなくなるまで、腫瘍組織を層ごとに取り除き、各層を顕微鏡で確認する手法です。この方法は正常な組織を最大限に保存しながら、正確にがん組織を除去することができます。海外では行われている施設が多数ありますが、日本では一部の施設で行われています。

3. 切断

腫瘍が大きい場合や筋肉や骨に深く浸潤している場合には、まれに切断が必要となることがあります。

補助治療

放射線治療

手術後に残存する腫瘍細胞を殺す、または切除不能な腫瘍(手術で除去できない腫瘍)を治療するために高エネルギーの放射線を使用します。放射線療法は局所再発率の低減に役立つ場合があります。

分子標的治療

進行性または従来の治療に抵抗する症例には、分子標的薬がときに使用されることもあります。

隆起性皮膚線維肉腫になりやすい人・予防の方法

DFSP は、年齢や背景に関係なく誰にでも発症する可能性がありますが、特定のグループにおいて発症率が高いことが知られています。

年齢層

主に10代から50代の間で多く診断されています。

皮膚損傷の既往がある人々

火傷や手術痕などの重大な皮膚外傷を経験した人々は、リスクが増加する可能性があります。

DFSP の発症原因が不明であるため、その予防は現在確立されていませんが、以下の一般的な皮膚の健康管理は予防に役立つ可能性があります。

1. 皮膚の損傷を防ぐ

不必要な皮膚損傷を避けることで、DFSP のような腫瘍のリスクを最小限に抑えることができます。

2. 定期的な皮膚チェック

皮膚の質感や外観の異常な変化に気づくために、自分自身で定期的に皮膚を観察することが重要です。

3. 迅速な医療相談

皮膚の持続的な変化に気づいた場合には、速やかに医療専門家に相談することで、適切な評価と早期介入を確保します。

4. 家族歴の把握

家族に稀な皮膚疾患の履歴がある場合、それを認識し、早期に医療専門家とリスクについて話し合うことで、予防的措置が取れる可能性があります。


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