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無汗症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。現在は「竹内内科小児科医院」の院長。日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医。

無汗症の概要

無汗症とは、あらゆる環境下でも発汗がみられない状態を指します。通常、運動などによって体温が上がると、人は体温が過剰に上昇するのを抑えるために汗をかきます。しかし、無汗症では汗によって体温を適切な状態に下げられないため、全身の火照り感や顔面紅潮のほか、疲労感や頭痛、嘔吐などの症状がみられ、重症の場合には熱中症に至ることもあります。

無汗症には、先天性の無汗症と後天性の無汗症があります。先天性のものは顔貌(がんぼう:顔立ちのこと)や歯芽(しが:歯や歯周組織の細胞)の異常を伴う無汗性外胚葉形成不全症(むかんせいがいはいようけいせいふぜんしょう)と、全身性の無痛や無汗を伴う遺伝子疾患の先天性無痛無汗症(せんてんせいむつうむかんしょう)があります。また、糖脂質の代謝異常症であるFabry病も無汗症の原因です。

後天性の無汗症では皮膚や代謝に関わる疾患や、薬剤の副作用などによって起こる「続発性」のものと、突然汗がかけなくなる「特発性」のものに分類されます。特発性の無汗症は、指定難病に分類される「特発性後天性全身性無汗症(とくはつせいこうてんんせいぜんしんむかんしょう)」も含まれています。

特発性後天性全身性無汗症とは

特発性後天性全身性無汗症は後天的に明らかな原因がなく、汗をかくことができなくなる病気です。発汗機能に異常があるものの、血圧が高くなるなどの自律神経症状や神経学的異常を伴わないことが特徴です。

無汗症の原因

無汗症の原因は先天性と後天性で異なります。先天性の先天性無痛無汗症や無汗性外胚葉形成不全症は遺伝子の異常によって発症します。Fabry病による無汗症は、生まれつき糖脂質を分解する酵素を持たないことが原因です。

後天性の無汗症では「シェーグレン病」などの汗をかく汗腺に異常が生じる自己免疫疾患や、汗をコントロールする交感神経の異常、薬剤の副作用などによって発症します。

しかし、特発性後天性全身無汗症は明確な原因がわかっていません。汗をかくための神経伝達物質や汗腺に異常があると考えられています。

無汗症の前兆や初期症状について

無汗症の初期症状は、どのタイプでも初期から発汗機能の異常がみられ、汗をかけません。汗をかけないことで体温を下げられないため、全身の火照り感や顔面紅潮のほか、疲労感や頭痛、嘔吐などの症状が出ます。重症になると熱中症になる可能性もあります。

無汗症の検査・診断

無汗症の検査には温熱発汗試験や、サーモグラフィーによる体温測定をおこないます。温熱発汗試験では人工気象室や簡易サウナ、電気毛布などを利用して患者の体温を高め、発汗を促します。その際に、汗に対して黒く変色する「ミノール液」を使用して、汗をかいているか診断します。また、サーモグラフィーによる体温測定を併用することで、体温が上がっているかを確かめます。体温が上がっているにもかかわらず発汗がみられなければ、無汗症の可能性が高くなります。

無汗症の治療

無汗症の治療は原因によって異なりますが、後天性無汗症は治療法が比較的確立されていることに対し、先天性無汗症は根本的な治療法が確立されていません。そのため、汗をかかないように環境を整えたり、体温を下げられる服を着用したりする環境整備が必要になります。

後天性無汗症のうち、自己免疫疾患や交感神経の異常、薬剤の副作用によって生じる無汗症であれば、原因となる疾患の治療や、薬剤の変更が無汗症の治療につながります。

特発性後天性全身性無汗症ではステロイドパルス療法をおこないます。1クール3日間のサイクルでステロイドを静脈に点滴し、1〜2クール継続します。

無汗症になりやすい人・予防の方法

先天性無汗症は常染色体に異常が生じる遺伝子疾患であるため、親族に先天性無汗症の人がいれば発症しやすいといえます。後天性の無汗症のうち続発性無汗症であれば、無汗症の原因となる自己免疫疾患や自律神経の異常を持つ人が無汗症になりやすいです。

特発性後天性全身性無汗症は原因がわかっていませんが、10〜30歳台の男性で、汗を頻繁にかく職業に従事している人や、スポーツをする人が発症しやすいといわれています。

無汗症の完全な予防はむずかしく、とくに遺伝子異常である先天性無汗症は予防できません。特発性後天性全身性無汗症も原因が不明であるため予防が困難といえます。続発性無汗症のうち、自律神経異常や薬物の副作用など原因がはっきりしていれば、自律神経を整えたり薬物を変更したりして予防できます。

また、無汗症は重症化すると熱中症によって命の危険にさらされることもあるため、発症後は症状の重症化予防を積極的におこなうことが重要です。体温が上がらないように、できるだけ高温環境や激しい運動を避けましょう。また、クールベストやモバイル扇風機など、体温を下げるグッズを日常的に使用することもおすすめです。


関連する病気

  • 先天性無痛無汗症
  • 無汗性外胚葉形成不全症
  • シェーグレン病
  • Fabry病

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