監修医師:
高藤 円香(医師)
先天性魚鱗癬の概要
先天性魚鱗癬(せんてんせいぎょりんせん)とは、生まれつき皮膚表面が厚く硬くなる疾患の総称です。国内では、この疾患の患者さんが約200人確認されており、国の指定難病に指定されています。
先天性魚鱗癬は病態によって「ケラチン症性魚鱗癬」「道化師様魚鱗癬」「常染色体劣性遺伝性魚鱗癬」「魚鱗癬症候群」に大別され、さらに以下のような疾患が含まれます。
- ケラチン症性魚鱗癬(表在性表皮融解性魚鱗癬、優性や劣勢の表皮融解性魚鱗癬を含む)
- 道化師様魚鱗癬
- 常染色体劣性遺伝性魚鱗癬(葉状魚鱗癬、先天性魚鱗癬様紅皮症を含む)
- 魚鱗癬症候群(KID症候群、中性脂肪蓄積症、シェーグレン・ラルソン症候群、多発性スルファターゼ欠損症、CHILD症候群、ドルフマン・シャナリン症候群、毛包性魚鱗癬、IBID、Conradi-Hunermann-Happle症候群、Trichothiodystrophy、X連鎖性劣性魚鱗癬症候群を含む)
皮膚は表面から「表皮」「真皮」「皮下組織」の大きく3層で成り立ちます。このうち表皮の最も外側の「角質層」にはバリア機能が備わり、外部から体内に異物が侵入するのを防いだり、体内の水分が蒸発するのを防いだりする役割があります。
しかし、先天性魚鱗癬では遺伝によって生まれつき皮膚のバリア機能に異常を認めます。その結果、胎児期から皮膚が硬く厚くなります。出生後は全身の広い範囲が厚い角質で覆われ、耳が変形したり、まぶたが裏返ったりすることもあります。
バリア機能が障害されているため、患部から細菌やウイルスなどが容易に侵入し、感染症にかかりやすくなることもあります。また、発汗機能も障害され、暑い時に汗をかいて体温を下げられなくなり、高体温になりやすい傾向にあります。
患者さんによっては学童期までに軽快するケースもありますが、多くの場合、症状は一生涯に渡って持続します。一部の患者さんでは乳幼児期に重症化して死亡する事例も報告されています。
現在、先天性魚鱗癬に対する有効な治療法はなく、症状に対する対症療法が中心となります。
先天性魚鱗癬の原因
先天性魚鱗癬は遺伝によって発症することが分かっています。原因となる遺伝子は病型によって異なるものの、「ABCA12」「ALOXE3」「ALOX12B」「CYP4F22」などが挙げられます。
先天性魚鱗癬では、これらの遺伝子によって表皮を作る細胞が障害され、バリア機能に異常をきたします。その結果、皮膚の表面が厚く硬くなり、細菌やウイルスが体内に容易に侵入したり皮膚の水分が蒸発したりします。
先天性魚鱗癬の前兆や初期症状について
先天性魚鱗癬では、一般的に出生後から新生児期にかけて全身の広い範囲で皮膚が厚く硬くなります。皮膚のバリア機能が障害されることで、体内にウイルスや細菌が容易に侵入して感染症を発症しやすくなったり、発汗障害によって高体温になったりすることもあります。
また、病型によっても症状が異なります。
KID症候群では、皮膚症状のほかに「感音性難聴」を認めることもあります。ドルフマン・シャナリン症候群では、運動失調や精神障害、難聴、白内障の合併を認めるケースもあります。
先天性魚鱗癬の中でも特に重症化しやすいのは道化師様魚鱗癬で、耳が変形したり唇やまぶたが裏返ったりするほか、感染症などによって乳幼児期に死亡するケースもあります。
先天性魚鱗癬の検査・診断
出生後皮膚症状から先天性魚鱗癬が疑われる場合は、皮膚生検や遺伝子検査などが行われます。
皮膚生検は皮膚の細胞を顕微鏡で詳しく調べる検査です。局所麻酔を使用して患部の皮膚を一部採取し、顕微鏡で観察します。
遺伝子検査では、採取した血液から遺伝子を取り出して先天性魚鱗癬の原因となる遺伝子の異常があるか調べます。
そのほか、皮膚以外に異常を認める場合は、該当する診療科にてさまざまな検査が行われます。
発症が認められた場合は、栄養や成長状態の経過観察のため、定期的に身体計測や血液検査が行われます。
先天性魚鱗癬の治療
現在のところ、先天性魚鱗癬に対する根本的な治療法は確立されていません。そのため、症状に対する対症療法が中心に行われます。
皮膚症状に対する治療
皮膚の乾燥を認める部分は、保湿剤や「尿素剤」「サリチル酸ワセリン」などの角質を溶かす薬剤を塗布します。
重症の場合は、角質が増殖するのを予防するために「エトレチナート」と呼ばれる内服薬を用いることがあります。エトレチナートには口唇炎や脱毛、成長障害などの副作用のリスクがあるため、慎重に適応を判断し、副作用の有無を観察しながら使用します。卵子や精子の形成にも影響を及ぼす可能性があるため、内服を中止した後は一定期間避妊する必要があります。
皮膚にかゆみがある場合は、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド薬を用いることもあります。
感染症に対する治療
細菌感染やウイルス感染、真菌(カビ)感染を認める場合は、原因となる病原体に有効な抗生薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬を用いて薬物療法を行います。抗生剤や抗ウイルス薬は、外用薬や内服薬のほか、点滴で投与することもあります。
全身状態の管理のための治療
症状に応じて体温の管理や水分の保持のための治療が行われます。十分に食事が摂れなかったり成長障害を認めたりする場合は、必要に応じて栄養剤を投与することもあります。
日常生活上の対策
先天性魚鱗癬の症状は生涯に渡り持続するため、日常生活上でもさまざまな対策が必要です。
発汗障害によって高体温になりやすいため、室温や衣服を調整して体温をコントロールする必要があります。症状によって十分に食事が摂れなかったり栄養が失われたりすることもあるため、栄養を十分に摂れるよう配慮することも重要です。また、患部からは細菌やウイルス等が侵入して感染症を起こすこともあるため、入浴などによって皮膚を清潔に保ち、十分に保湿するよう心がけましょう。
先天性魚鱗癬になりやすい人・予防の方法
先天性魚鱗癬は遺伝性の疾患であるため、発症を予防するための方法はありません。
出生後、皮膚の異常などを指摘された場合は、その後の対応について主治医の指示に従いましょう。
関連する病気
- ケラチン症性魚鱗癬
- 道化師様魚鱗癬
- 常染色体劣性遺伝性魚鱗癬
- 魚鱗癬症候群
- 表在性表皮融解性魚鱗癬
- 表皮融解性魚鱗癬
- 葉状魚鱗癬
- 先天性魚鱗癬様紅皮症
- KID症候群
- 中性脂肪蓄積症
- シェーグレン・ラルソン症候群
- 多発性スルファターゼ欠損症
- CHILD症候群
- ドルフマン・シャナリン症候群
- 毛包性魚鱗癬
- IBID
- Conradi-Hunermann-Happle症候群
- Trichothiodystrophy
- X連鎖性劣性魚鱗癬症候群
参考文献